アキ (Eno:10)
茶色の髪を三つ編みにして、
黒いリボンで飾り付けた少女。
……そう装っている男だ。
年齢は15歳ほどに見えるか。
瞳は澄んだあおいろをしている。
あなたと目が合えば、きっと、
気恥ずかしそうに視線を泳がせるだろう。
──少女は口を閉ざしている。
──彼は少女として使われていた。
...
名前はアキというようだ。
柚葉さんからスマホを借りている。
カナトから上着を借りている。
スマホは返却した。ちゃんと返せてよかった。
...
──大丈夫、大丈夫、大丈夫、
初めてじゃないだろ、だから、
──足りなかった。
大丈夫、大丈夫。次はもっとうまくやる
──まずいな、と思ったけど。
悪くはない方向に進んでいる気がする。
……とりあえず、今回は。様子見。
──死んだって。ふたり。
死んでほしかった人じゃなかった。
残念だった。結局は頑張らないといけないんだ。
……こんなもの託されたって困るだけなのに。
自分はその子の代わりになんてなれやしないんだ。
どれだけ頑張ったって。それだけは、
──性別をバラしても、拒絶されなくてよかった。
彼らに拒まれたらもうほとんど居場所なんてないから。
……僕が本当に女の子だったら、
もう少しあの子の気持ちに応えてあげられたのかな
──今度はちゃんと、うまくやれた。
刺して、去り際に見たあれの姿。
やりすぎかなってくらい無残になっていた。
……いいんだ、いい。それで。
だって、バケモン相手なんだからさ
──まだ生きてたって?
ほんとうに、ほんとうに、ほんとうに、ほんとうに、
ほんとうに、きもちわるい。
バケモンってこんなに、どうしようもなく僕らと違うんだ!
……。
でも、あれはもう、生きる気がないようにも見えて、
そうあって欲しいっていう、願望かもしれないけど。
ロビーのやつらのいいように、ただ生かされてるだけ、なら。
……、きもちわるい。
──どうやら僕たちは棄てられるらしい。
この場所ごと、なかったことにされるらしい。
三人で外に出て、色んなことをしようねっていう夢は叶わないらしい。
そっか。そうなんだ。
どこか、最初のアナウンスを聞いたとき。
うっすら、そんな予感はしていた。
希望なんて最初からなかったんだなって、そう思った。
……。
でも、それでも。
僕たちの心臓はまだ動いていて、
僕たちは息が出来ているから。
まだ、ここに立っているから。
大丈夫、
最期の時まで一緒にいよう。
真っ白な空間だっていい。
自分たちの手で彩っていけばいい。
リボンは捨てた。
髪も切った。
時計の針は動き出した。
まだ進めるから。
僕たちは、まだ終わりじゃないんだ。
...
──三人でゲームをして遊んだ。
ケーキを分け合ってお祝いをした。
たのしいね。充実した日だ。
しあわせだね、って、そう笑って。
またあの日みたいに、お酒を飲んで騒いでさ。
カナトは下戸だからすぐ酔いつぶれちゃうかもしれないね。
僕はそれよりはマシだけど、慣れてはいないから。
きっと、あんまり強いのを飲まされちゃ耐えられないかな。
そうして、きみの手で終わりを迎えるんだろう。
ハルカ。きみのやさしさで。
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つつじメーカーβ様(一部加筆しています)
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