シホ (Eno:8)
「狂わず死ねるなら結構やわ」
「まぁどう考えても正気で死んだ方が尊厳が守られるでな」
「ウチがおらんでも狂わんで置いて欲しいんやけどまあええわ」
「そんなこと言わんでもウチは勝手に幸せでおんねん。やかましいわ」
「お前はお前の心配せいや、弱いくせになぁ」
「幸せになれよ、勝手に」
次は夢が叶うといいね。
1人にならないといいね。
心破れた友人たちと一緒にさ。
情がないからただの言葉だ。
聞き流される文字の羅列だ。
塩素の海は穏やかだ。
息をすることに慣れている。
体が重くて息つくこともできない。
行き着く先は虚無だ。
エンドロールもいつかは終わる。
次の映画が始まるでしょう?
次は大歓声が上がるといい。
演じたあなたが輝くといい。
そんな大袈裟じゃなくてもいい。
どうぞ華があるように。
また何者にもなれない凡作でもさ。
多分、人の生活って、どんな歪でも面白いから。
それを、スクリーンの向こうから見ていられればいい。
「先の話をするのであれば」
「来世で逢いに来いや」
「強い人間になってこいよ」
「ほな」
「またなぁ」
──あぶく、ぶくぶく。
泡沫は沈む。
するなら、あなたと一緒がよかったのだった。結局は。
其処に身がたどり着けば。
水の棺で眠っていた。
夢は当の昔に終わっている。
部屋は箱である。
箱は棺である。
夢見させてくれたな。
佐古山詩穂は死亡している。