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以降、この空間の記録はない。
みなみなー みなみなー
「葬儀屋さん」の命が消えた。
「ミナミナ~~~~~!!!!」
「…」
握りしめた。太い血管に向ける。
「ハッピーバースデー。」
暗くなった刹那、切り裂いた。
「たっくさん食べてやりましょおかぁ~~~~!!」
「……さて!そろそろまた時間ですね。でも、恐れることはありません。……皆々様方と過ごせてよかったです!」
……だから そのために
ずうっと いいこで ながく いきましょう、ねぇ
わたし おるすばん できるのよ
わたし いうこと ちゃんと きけるのよ
だから おうちに かえして くださいね
ざわめきのなか くすくすわらった
おわる?
生きている誰もに、常に提示され続ける選択肢を想う。
諦めるということは、いつでもできることだ。
不確かで、かぼそいよすがを手繰って歩いた道が、徒労に終わらない保証など、どこにもない。
終わりを受け入れて、そうして為すこともまた、あるだろう。
それでも。私には、生きて為したいことがある。
また明日が来るかもわからない世界でも、今日の私達は生きている。
生きているということは、素晴らしい。だから。
命ある限り。
終わってなんか、やるものか。
だから、その為に。
まずナイフを握った。
バースデイソング、口遊ながら。
「ふふ、……」
「みんなと……またどこかで会えるといいな」
三人で分け合ったシーツのなか。
よりかかったふわふわした子の体温を感じつつ。
ふわふわさんをはさんだ向こうにはむーちゃんがいて。
視界内には、天使様と、テンさんと、誕生日の子と、葬儀屋さんと。
なんか今日いきなり転がり込んできた全然しらんダークエルフがいて。
傍らには青い少女と、へびさんの缶詰。
「ミナミナ。……ミナミナです」
とっても満足そうに、祈りの言葉を呟いた。
おそとに でても なかよし してくれるの かしら?
わたし おともだちも ほしかったの かしら
「ハッピーバースデイ !」
嬉しそうに 笑った
嘘吐け。そんなものはこの世に無い。知りながら、大人の言い訳飲んだみたいに。
「やったー」
「そのときには おっきなケーキ たべようねー」
蝋燭いっぱい刺して。ケーキのクリーム崩れるまで。部屋を暗くして。息を吹く。
行き止まりの向こう側、そんなもの無いんだけど。
あるようにした。あると嬉しいから。
「えー、花屋になった時名前変わってるかもだよ?…そうだといいな。」
もうすぐ、また暗くなるのか。
誰か悪あがきで襲うだろうか。
また、仕事が来るのだろうか。
…まぁ、良いか。
みんなの生前葬は、終わっている。
「ハッピーバースデーりますか?」
「私もハッピーバースデーりますか……」
「イエー!ハッピーバースデー皆々様方~~~!!!」
これからが楽しみだって、顔をしてた。子供の目にはいつでも綺麗なものが、胸を張って発表する甘ったるい将来の夢みたいなものが、そういうのが見えてた。
それ以外が見えても、それすら包んで。幸だけ見てた。
「まだ、おわらないよ」
「ミナミナー」
有限の行き止まりで、無限の道筋を語る。だってそうだろう。
お金はいっぱい、あるんだ。
その為に走り続ける。
ナイフ握って。
「…… ……」
生まれ変わり、なんてものは信じるタチじゃなかった。けど。
「はっびーばーすでー……いいですね」
終わるものもいれば、始まるものもいる。
輪廻がきれいな輪の形をしているとは限らないが。
またきっとどこかで出会えるといい。
「覚えておきます、そのお話」
「藍斗さま!そうでしたか、では生きている間はめいっぱい呼ぶとします!」
あなたの遺す、冥土の土産。
受け取るものは、ちゃんと居る。
「ハッピーバースデー」
「ふふ そうかもしれません。ハッピーバースデー、みなさま!」
その時が来るのは、まだ、先だとしても。
良いことは、いつ祝ってもいいだろう。いくらでも祝っていいだろう。
きっと、多分ね。
「それも…… 輪廻の法則、というものかも知れません」
「ええ、私もそこまではわかりませんが、……祝福される理由に、なるかも知れませんね。」
「ムー様はムー様ですね~~~」
「炎あれ……」
最後に思うのはそれだけで十分。
「桜木、藍斗様…… ……これからは葬儀屋様ではなく、そうお呼びすることが出来ますね。
お花屋様になった後でも、そちらの名前なら貴方様の正しいに届くかも知れませんね。」
おなまえ? おなまえね
ええと きいたから ええ、と
「……むー」
……いまは これで
きっと いつか すてきな なまえを みつけるまでは
「藍斗。さくらぎ、あいと。オレの名前。あ、もう呼ばれなくなるけどね。オレたち近いうちに死ぬし。」
だから冥土の土産に、プレゼント。
「…そういえばさ、聞いたことあるかな。」
「人が死んだ時、どこかで人が生まれるって。」
「オレは昔に聞いたことあるからほんとかわからないけど。」
「でもそれってさ、」
「ハッピーバースデー、誕生日、おめでとうだよね。」
まどろみのなか 時をまつ
「フフ。ミナミナ天使嬉しいです。ミナミナ~」
この終わりの先のことは、果たしてどうなるのか。
安寧安息のみとは行かず、血が何処かで流れるとして……
それをわかっていても、天使は笑って応えるだろう。
「そうぎや」
あいにく、これは、葬儀は知らなかった。
何もかもが死に絶えた世界には、弔うべきものもなかったので。
信仰も宗教も朽ち果てた。そんな場所から来た。
あいと。
桜木、藍斗。
これはその音に込められた意味を知らない。けれど。
わかるものはある。ひとの名前の響きに似ている。
「………」
「ええ。」
「祈りましょうか。」
既に問われた疑問はそのままに、手を結ぶ。
きょむ?
いま ちゃんと きいたかも しれないわ
でも ぼうけんは そんなに かしら
だから おるすばん おるすばん
いいこの やくわりなのよ。
「ミナミナ てんしも ありがとー」
良く分かんない けど ミナミナ
でも邪魔だし そのうち 刃を向けるんだろうな
生き抜く意思が あるのは 良かった
それだけで今は 充分評価に足りる
「ん きょむ」
なんて 話してた
「? あい とさん ?(真似)」
「あいとさん? ……」
「葬儀屋さんのお名前です?」
聞きなれない、人名らしきワード。首を傾げ。
誰のものだろう。尋ねてみる。