水無月

今日、あたしが十六になる誕生日でした。

生憎の雨模様だったけれど気分は晴れやか。

お誕生日会にはケエキの注文取ってくれるもの。

一昨年まではおっきなフルーツケエキ。

去年はちいちゃなチョコレートケエキ。

お父さん、近頃取引が上手く行ってないのかしら。ちょっぴり心配でした。

蝋燭吹き消すのが好きでした。

部屋がふっと暗くなるのなんて痛快。

お父さん、あたしの癖っ毛良く撫でてくれて、

女中の皆さんも拍手して喜んでくださるから、

お母さん居なくても寂しくない。家族の皆に愛されてるから。

その日、お父さん、帰って来るの夜遅くで。新しく奉公に来た子連れていました。

ちっぽけなカステラ手土産にしてくれたけど、お誕生日会は結局出来ず終い。

ちょっぴりしょんぼりしちゃった。こっそりお部屋で泣き腫らしました。

忙しいの労ってあげなくちゃ。あんまり我儘言っちゃいけません。

明日、肩でも揉んであげましょう。

そしたらぎゅうって抱いてくれる。

でも、中々寝付けないもんだから。

舶来品のカンテラ片手に吊るして、お庭まで散歩に出掛けることにしました。

夜更けに出て回るのは本当は悪いことなんだけど。いけないことなのだけど。

また一つ、大人になったもんだから。

悪さしようって気になったの。

そしたら、豆電球の暖かな明かりが屋敷の廊下に射し込んでた。

お父さんの部屋だ。それと密やかな話し声。

仕事のお電話でもされてるのかしら。

あの優しい声が好き。包んでくれるみたいで好き。

そうだ、覗き込んでびっくりさせてやろう。

そんで、少し怒られてしまおう。

──で。そっから、なんだったかしら。