『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
『新規記録はありません』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「…………」
ああ、そろそろ暗転かな。瞳を閉じた。
この期に及んで何かする人もいるのだろう。それでも良かった。
見れないことだけが惜しかった。
俺は最後まで見るのだろう。人の命を、生を、ずっと。
「……」
袋を持ち上げた。中には金貨がごまんと詰まっている。
先程まで空っぽ同然だったくせに。雨の犠牲が詰まっている。
「…………」
これだけあれば最後の最後まで観測は続けられるだろう。
それで良かった。それが良かった。
「…………」
通信機の声を聞いている。静かに黙って、目を瞑って聞いている。
資源倉庫への追加資源を配置しましたの鐘を聞いている。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「……」
観測が終わっていく。雨と、揺らめく水に溶けて消えていく。
中庭と書かれている横の文字は、常に赤く光っている。
「あーあ、」「あーあ」
消えていく、終わっていく。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「…………」
カウンター越し、モニターを見ている。浩々と赤が光っている。
赤が増えている。赤が増えていく。……ただ黙ったままに見ている。
あくまで左手は隠したまま。
2人に背を向けながら、彼女は中庭へと歩みを進める。
大丈夫、きっと怖くない。
家族みんなで一緒に行けるのだから。
「今更、拒みませんよ」
貴方がそういうのでしたら
猫たちはそれについて行くだけです。
信頼関係、家族とも言えるその強さは
見えなくともそこに確かにあるのですから。
「……うん。…見せて欲しい。」
そっと、ソファから立ち上がって。ついていくよと言うふうに。
貴女が見せたいものって、何だろう。
それがどんなものであろうと、彼女が私たちに見せたいと言ってくれたものなんだから。
受け入れる心は、準備できてる。
左手に集まる視線に気づく。
あぁ、やっぱり隠し切れない。
……それも当然か。
僕たちはきっと、家族みたいに思いあっているのだから。
「……最期に、どうしても見せたいものがあるんだ」
「一緒についてきてくれるかな……?」
そうやって、優しい響きで包むように。
終わりへと誘う。
「…おかえり。…ああ、無事だよ。……?」
気のせい、かと最初は思っていたかもしれません。
でも、次第に違和感に気づいていくでしょうか。
綾川は、それが何かを、聞くか聞くまいか、悩んでいた。
声が聞こえて、またしっぽが揺れていましたが
次第に目も開けたようで
「おかえりなさ……い?」
そういう前に、左手が気にはなりましたが
怪我でもしたのではないかと、少し心配です。
「や、ただいま」
「……2人とも落ちていないようでなによりだよ」
落ち着き払った声と共にロビーへ帰ってきた。
なぜか左手をかばうように隠している。
貴方の尻尾が揺れたなら。
そっと、手でまた優しく撫でて。
彼女が戻ってくるまで、ゆったりと続けているのかもしれません。
遅かったら探しに行きますが…おそらく、心配はいらないでしょう。
さぁ、寝ているのかもしれません。
けれど、貴方が隣にいることを察したのか
しっぽがまた、ゆらりと動いて。
とても落ち着いた様子で
なんの警戒もないような
猫そのものです。
……モニターの、ある欄を見て。
猫は密かに思いを寄せたとか
最後まで、優しい人だった。なんて
今度こそ、さよならを告げました。
戻ってきて、しっぽを軽く揺らしながら
ソファへ。
最後くらい、笑っていきましょう
マフラーにはもう、匂いなんて残ってないでしょうけど
まだ、大切にしていますよ
……雨、嫌いでしたね
そのまま、だんだんと目を閉じて。
猫はお昼寝へと入りました
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「……。」
死期を悟った。また、何処かへ。
今度は帰って来ないようで、何もかもを置いていくためにまたふらふらと放浪しだす。
「…さようなら、観測者。私はもう行くよ。」
居るかも分からない、カウンターの奥の影に告げる。