【迷い込んだ場所で】

 色々を経て、“天使さま”と一緒に各所を転々としている道中。ロィナは不思議な場所に迷い込んだ。

 宿泊施設のようなそこ。雨の降る外。色々な人々に出会った。その場所では、“天使さま”は沈黙していた。魔法の鏡は、ただの手鏡に成り果てた。

「…………天使さま」

 どうしよう。悄然としていたら、掛けられた優しい声があったのだ。“王”と名乗ったその人は、その後もたくさんの優しさをくれたのだ。

 優しさを貰えば貰えるほど、苦しくなるのは何故だろう。

 あれだけ親切にして貰っても、消えない自認と心の声。

 “天使さま”がいないから、あたしはマトモになってしまった。

 其れがあまりにも苦しいから、断ち切ることにしたの。

「……あたしは、ロィナ・アルレット。

 とある貴族のお嬢様」

 バケモノの自覚がありました。

 生まれた時から、あたしは何かが欠けていたんだ。

 立派な両親、優秀な兄。

 そんな人たちに囲まれながらもこうなってしまったあたしは、

 存在してはならない異物バグだ。

 どうして自分でそれを理解してしまうのよ。

 自分が“おかしい”と理解していながらも、

 それでも“天使さま”に従うしかなくて。

 だって他に行動基準もないもの。

 それがこんなにも苦しいのなら。

「…………心の一部を麻痺させて、閉じ込めてしまうのよ」

 何でもないような顔をしよう。

 心配させるのは本意じゃない。

 目立ちたいのに、大事にされたいのに?

 どこまで行っても、中途半端な“悪人”だ。

「あたしは──大丈夫っ!」

 王さまのくれた言葉を、思い出す。

 ごめんね、ごめんなさい。あたしは。

 己の邪悪を自覚しているなら。

 それで親しい人すら傷付け得ることすら理解しているなら。

 どうして、どうして、人と関わろうとするのかしら?

「……あたし、さびしいの」

「………………たすけて」

 オマエにそんな資格があるだなんて、

 本気で思っているのか?

 人殺しのくせに。

 

 しばらくはバンケットを拠点にしよう。

 そこでなら、こんなバケモノでも、

 どうにか“人間”になれるような気がしたの。

 だから。

 だから。

 本当に貴方が危機に陥ったら、その時は。

  ◇

 タチヤマという人と“マブダチ”になった。

 友達、の意味らしい。

 出会ったばかりの自分にも、明るく賑やかに接してくれた。肩を組んでくれた。色々と話し掛けてくれた。それが嬉しかったから、その輝きを素敵だと思ったから、その後も定期的に様子を見に行った。

──そんな中で、約束をした。

「アンタが死んだらあたし、

 誰よりも盛大に悲しんでやるわ」

 約束だ、約束。

 欠けている自分だけれど。

 自分なりに、精一杯悲しんでやるからね。

 でも、自分のことは別に良かった。

 こんな歪んだバケモノに、悲しまれる資格があるとは思わないから。

 目立ちたいはずなのに、大事にされたいはずなのに。

 バケモノの死に派手な涙なんて、

 不要だと思う気持ちの方が強かった。