──玉子が割れる音がした。
殻は不必要となり捨てられる。
中身の黒々とした濁った目がじいっと、まんまるにこちらを見つめていた。
それは恨むようだった。
卵は巣からおっこちた。
そのままぱかんとふたつに割れる。
割れなくても川流れ。
翼は一つも届きはしない。
川魚にせっつかれるか。
濁流の中の岩にぶつかるか。
どちらにせよ割れてしまって。
盆に帰らず。
ただ、目だけが発達している。
胎芽に程近い。
いつかあなたの内臓になるもの。
いつかあなたの舌になるもの。
いつかあなたの管になるもの。
いまあなたの心臓そのもの。
それらは透き通っていて、それだと言うことはわからない。
だらりととろけて形をなしているが。
とろけているからなしていない。
それは神秘的だった。
それはグロテスクだった。
皮膚がなく中身が剥き出しとなっている。
当然。
──だって殻は割られている。
もう誰にも守れない。
もうだれにも温められない。
もうだれにも──
◆
──天使番号208番。
──またあなたですか。
──今回は…何、
──また魂を奈落へ落としましたか。
──これで何度目とお思いですか?
──…
──何度も拒否されているでしょう。
──ああ、そういえば…
──近いうちに人の再編が行われますから。
──あなたはそちらに回されるでしょう。
──大丈夫。主もお喜びになられます。
──あなたにぴったりの仕事です。
──“人間に奉仕することが天使の存在意義”だと、当羽もあなたも理解しているわけです。
──次の仕事は…
──苦難ある人間の元に直接向かい、直接助けることのできる仕事ですよ。
──有意義なものです。
──励むように。
【対話記録:2xxx/09/05】
◆
おめでとうございます!
あなた方には近く、卵が授けられる事でしょう。
良き日常を育み。
良き仲を育み。
よく励み、よく過ごす。
神はあなた方の働きを見ておりました。
近いうち、天使が参ります。
どうそ、お待ちください。
【役場に提出済みの文書】
◆
──翼の肥大化が行われる。
最適化されている。
──下腹部に機能の発生が認められる。
最適化されている。
──胸部の肥大化が認められる。
最適化されている。
分化されている。
──羽の色は、まだ、白い。