【因果応報、生きる理由】

 何者かに襲われた。

 資源のほとんどを奪い取られて、

 脇腹に傷を負った。

「………………」

 因果応報だ、って思った。

 もう、隠すつもりもなかった。

 あたしは。ロィナ・アルレットは。

 殺人鬼だ。

 心の何かが欠けていました。

 不思議な鏡に出会いました。

 そんなあたしを、“天使さま”は導いた。

──人を殺せ、と。

 それが倫理的に悪だと分かっていても、

 それに従うことに躊躇いを覚えなかった。

 それこそが、心の欠けたるの証左だ。

 あたしはそれに、選ばれたんだ。

 生まれながらのバケモノに、

 “天使さま”は力と導きをくれました。

 

 “天使さま”に従えば褒めてくれた。

 お父さまやお母さまとは、違って。

 その“教え”は麻薬のように、あの頃のあたしを蝕んだ。

 そしてあたしは“事件”を起こし、

 もう戻れない道へと、足を踏み入れたんだ。

「…………あたしが最期に血で汚すのは、

 果たして誰になるのかしら、ね」

 壊れた殺人鬼は、もう止まれないのよ。

  ◇

 そう思っていたところで、

 手を差し伸べられたんだ。

「…………王さま」

 抱えていた全てを話した。

 その上で、その上で、あのひとは。

 撫でてくれた。優しい言葉を掛けてくれた。

 こんなあたしでも、こんなあたしでも!

 心に満ちてきた温かい感情。

 ずっとずっと忘れていたものを、取り戻した。

「…………ありがとう」

 撫でてくれたその温もりを、忘れない。

 

 “天使さま”の鏡は置いてった。

 あんなものに頼らなくても、あたしはもう大丈夫。

 アンタなんて、知ったこっちゃないわ!

 王さまと話をした。

 生き残ったら貴方の国の民になるって。

 約束。約束。

 あたしは確かに救われました。

 死んでも良いと思っていたのに。

 こんな命に価値なんてないと思っていたのに。

 生きる理由が、生きなきゃならない理由が、

 明確に出来てしまったのなら。

「…………あたしは、」

 生存を、もっと意識するよ。

 だから貴方も、死なないでね。

 壊れ狂ったバケモノは、

 貴方のお陰で人間に戻れました。

 秘めていた本当の名前を教えた。

 あの人の名前もまた、知った。

 少しぐらい。

 希望を、未来を、信じても良いと思えたんだ。

 バケモノは、夢を抱いてしまったのです。

「…………生きなきゃ」

「そしてあたしは、貴方を生かす」

 そしてふたりで、此処を出よう。

 しかし、あたしの資源はカツカツ。

 あの人も色々と分け与えていたし、

 余裕がある訳ではなさそうだ。

 あの人はもう、誰かを襲うなんてしないでしょう。

 だけどあたしなら、

 欠けているあたしなら、今でもきっと?

 

 “天使さま”を見捨てた今。生きる理由が生まれた今。

 あたしはあたしの意思で、ナイフを握って業を重ねる。

 今更でしょう、今更なのよ。

 これっぽっちの資源しかないなら、

 襲わなければ生き残れないの。

「…………あたしは何処までも、利己的よ」

 ふたりで生き残ってここを出るのよ。

 手段を選んでいられる余裕なんて、ないわ。

  ◇

 そう、思っていたけれど。

 貰った忠告。ならば予定を切り替えて、

 今日のところは警戒に回ろう。

 “死んで欲しくない”なんて言われたから。

 己の命が、少しでも長く続きそうな道を選ぶ。

 明日、どうするかは。分からない。

 ナイフも殺意も、常に共に。