【44番目】の個室から出る。
人々が寝静まったころだ。
誰にも言えないことを抱えながら、一歩、一歩、歩いていく。
雨の音だけが響く。それが心地よい。
だから雨は嫌いになれなかった。
あの人も、口うるさいけど、少し気をつければ、私に不自由ないようにしてくれた。
久しぶりに。名前を名乗った気がする。
人生で、お父様ぐらいしか呼ばなかったその名前。
紙の一角に乗せて放った、忘れたつもりだった、私。
志依。
四も四も入る、可愛いけど、よく揶揄された名前。
その縁起の悪さの通り。
母も父も恋人も、大切な人の生を、随分擦り減らしてしまった。
だから、もしかすると、誰も生きて帰れないんじゃないかな、
そう思ってしまうのは。流石に悲観的すぎるだろうか。
私は、誰かが傷ついたり、死んだりするのは悲しい。
でも、平等に死が与えられるなら。それは、すぐに受け入れられてしまう気がする。
世界が滅ぶならそこが終わりだし。皆殺しを受けるなら、運がなかったのだ。
と。私だけが諦めて、流してしまっても。皆はそうじゃないんだろうな。
私は、優しいんじゃない。自分ごとを考えないようにしてるだけ。
だから、全部の中に含まれた私の物語が終わるなら、心の動きを止めてしまう。
今は。その時が来るまでは、生きてみようと思う。
生を強く望まれたのだから。望まれる私を、守りたいと思う。
どうか、終わりの日が……ちょっと、遅く来ますように。
ああそういえば。
(先生もシが二つ入ってたな)
縁起が悪い。なんて、思う自分勝手さに、思わず苦笑をした。