雨月記

 どうやら誰かは生きてくれないらしいので諦めた。仕方ないけれど、意思は尊重するべきだ。私がしてもらえなかったそれを、次は私がする番だ。それなら、そうする。私は君のために泣き、君を看取る。それが約束。だからそうする。だって、きっと、君の生命は長くないから。

 もう一人の子も、元気で居てほしい。気圧痛というのに理解が寄せられない私の身体が悲しくなってくる。きっと辛いだろうに。友達やマブが増えても、彼女は感覚の中で一人ぼっちなわけだ。私はその事実が苦しかった。健やかに笑う君の顔を見たいのに、いつもどこかで無理をさせてしまっている。その事実が歯がゆかった。

 そう思えば、二人はよく似ている気がする。だからきっと、最初にマブになれたのだろう。

 友達も増えてきたし、助け合えそうな人も出てきた。良いことだ。

 何故かわからず予想に反して予報は確かに短くなった。でも私は縋らない。嘘っぱち。予報。きっと今に何も良いことが無くなる。だから私は、私の大切な人を看取るまで、生きたい。たとえそれが、誰かの絶望や血に、濡れているものだとしても。

 中庭の扉は、今日も開かない。

 もし開いたら、出ていく人もいるのだろう。自棄になる人だって、一人や二人はいるはずだ。私はそうしない。皆が雨に溶けるなら、その時まで、私は看取る。

 指の感覚が悴んできた。手袋を変える。黒い手袋。気分も変わる。

 私の手には化物がいる。怪物が、獣がいる。違う。手には居ない。私の心にいる。手は、いつも汚れている。私は綺麗で麗しく、私は醜い。

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 人間は誰でも獣使い、怪物使いで、その獣などにあたるのが、各人の心だという。

 私の中の、猛獣怪物は。

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 今日も一人。お仕事を終えた。段々その感覚にも慣れてきた。次はもっと、上手にやりたい。上手にやれば、きっとまた、外に出られる。

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 今日も仕事を終えた。慣れてくると手早く終わって楽だ。動揺する感覚も失せてきた。それに技術が磨かれるというのは何事でも悪いことじゃない。

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 今日もちゃんと働いた。もう困惑なんてしなくて済む。それに試行錯誤も上手く成果を出せた。上出来だった。態々銀刃の装備なんて使わなくって良いんだ。それも勿論悪くはないけど。成果を認められてきた。仕事が上手になってきた。きっと役立っているんだ。ああ、楽しくなっ……

楽しい?

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 人間は誰でも獣使い、化物使い、怪物使いで、その獣などにあたるのが、各人の心だという。

 違う。心ではない。

 心の奥底に隠れた、人間なんて名乗れない恥知らずで浅ましく愚かで醜く汚いその本性が、私達の猛獣怪物だ。

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 あああ!認めない、認めたくない!私の、私の、あなたや、あなた猛獣怪物は、私は……

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「嘘つきだったんだね、■■■■」

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 鋭い爪に鋭い牙。狡猾、傲慢、賢しらで、残虐、獰猛、邪悪なもの。醜く汚く害悪で、人や家畜を加害し食い荒らし楽しんでいる、昔話の悪いやつ!そんな生き物はただ一匹。

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