「私きっと、この傘の外側には行けないの」
「多分ね、私の一部なんだと思う」
「この傘も、雨も、全部。全部私ってことに、なっちゃったんだと思う」
「私の、身体の一部。私という存在の一部分」
「多分、そういうことになっちゃったんだ」
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彼女の世界と外界は、薄い布一枚に隔たれている。
彼女が肌身離さずいつ何時でも頭上に差している傘の内側では、絶えず雨が降っていた。冷たくも温かくもなりうるその雨が、彼女を濡らすことはない。
快晴でも、曇天でも、雨の日でも風の日でも雪の日でも、屋内だってお構いなしに、彼女はいつだって傘を差しているし、降り注ぐ雨が止むことはない。はずだった。
彼女が傘を完全に手離すことはありえない。よって彼女が両の手を同時に使うことはない。彼女の一挙手一投足すべてが、無限の雨粒の中で完結する。この傘より外側には一センチだって、一ミリだってはみ出したことはない。
降り続く雨には実体があった。無数の雫たちは彼女だけを透過しては確かに地面を湿らせていき、その足元に滲んだ染みを作り出す。
彼女の存在を示すささやかな証は、けれど彼女が去れば十数秒もしないうちに消えてしまう。はじめから、水滴など一度も落ちていなかったかのように。
彼女の姿を見ることはできない。
雨の中で朧げに揺らぐ透明な輪郭だけがかろうじてあった。
傘だって、誰にでも見えるわけじゃなかった。
彼女に触れることはできない。
触れようとすれば、代わりにとぷんと水の中に手を浸したような感触に包まれて、沈み込んだものはいずれも彼女の体内で透明になって見える。
引き抜いても、取り出しても、濡れたような違和感が乾くこともなければ、再び色付くこともなかった。
引き抜こうとも、取り出そうともしなければ、そのうち彼女と一体になって溶け消えてしまった。
──それもすべて過去の話。
今では冷え切った体温に触れるだけ。当たり前に人肌へ触れた感覚があるだけ。
ここでは足元を気にする必要もなければ、彼女の傘で雨宿りだってできるのだから。
今でも彼女は、雨音のない世界を知らない。
傘の外の世界を、知らないままでいる。
だってのに、普通の女の子なんかだと思ってんだ。自分のこと、人間だって思ってんだ。
あるべきようにできてんのにね。