⬛︎⬛︎はきっと少女の形をしている

 

「私きっと、この傘の外側には行けないの」

 

「多分ね、私の一部なんだと思う」

 

「この傘も、雨も、全部。全部私ってことに、なっちゃったんだと思う」

 

「私の、身体の一部。私という存在の一部分」

 

 

「多分、そういうことになっちゃったんだ」

 

 

 

 

 

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彼女の世界と外界は、薄い布一枚に隔たれている。

 

彼女が肌身離さずいつ何時でも頭上に差している傘の内側では、絶えず雨が降っていた。冷たくも温かくもなりうるその雨が、彼女を濡らすことはない。

快晴でも、曇天でも、雨の日でも風の日でも雪の日でも、屋内だってお構いなしに、彼女はいつだって傘を差しているし、降り注ぐ雨が止むことはない。はずだった。

彼女が傘を完全に手離すことはありえない。よって彼女が両の手を同時に使うことはない。彼女の一挙手一投足すべてが、無限の雨粒の中で完結する。この傘より外側には一センチだって、一ミリだってはみ出したことはない。

降り続く雨には実体があった。無数の雫たちは彼女だけを透過しては確かに地面を湿らせていき、その足元に滲んだ染みを作り出す。

彼女の存在を示すささやかな証は、けれど彼女が去れば十数秒もしないうちに消えてしまう。はじめから、水滴など一度も落ちていなかったかのように。

 

彼女の姿を見ることはできない。

雨の中で朧げに揺らぐ透明な輪郭だけがかろうじてあった。

傘だって、誰にでも見えるわけじゃなかった。

 

彼女に触れることはできない。

触れようとすれば、代わりにとぷんと水の中に手を浸したような感触に包まれて、沈み込んだものはいずれも彼女の体内で透明になって見える。

引き抜いても、取り出しても、濡れたような違和感が乾くこともなければ、再び色付くこともなかった。

引き抜こうとも、取り出そうともしなければ、そのうち彼女と一体になって溶け消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──それもすべて過去の話。

今では冷え切った体温に触れるだけ。当たり前に人肌へ触れた感覚があるだけ。

ここでは足元を気にする必要もなければ、彼女の傘で雨宿りだってできるのだから。

 

 

今でも彼女は、雨音のない世界を知らない。

傘の外の世界を、知らないままでいる。

だってのに、普通の女の子なんかだと思ってんだ。自分のこと、人間だって思ってんだ。

あるべきようにできてんのにね。