──天使は神から生まれるものであった。
空いた天使番号が出る時は、大抵“前任”の天使が堕天した時だった。
滅多に開くものではないが、全く開かないわけではない。
そして、番号は2度と増えることもない。
世界は一定のリソースで回っている。
それは世界が開かれた時から決まっていることだった。
神は万能であるが、全能ではない。
一定以上は生み出せない。
あとはそれらが潰えるまでの間。
それらが善く過ごせるように回すためのものたちだ。
だから、人を生み出したあと。
自身を切り取り、翼を与え。
天使として支えさせるものにした。
人の魂が巡るように。
天使も。
処分されれば、再び再生して芽吹かせる。
その命に翼を。
人を導き、人を安らかにさせ。
人のために働き続ける。
──人のための天使を。
◆
──だから羽を預けられた時からもう間違いでしかなかったのです。
光の中から生まれてきた天使を見た時、彼らはどう思っていたのでしょうか。
私は空を見上げました。
皆様困惑しているようでした。
──みんなが当たり前の位置にある。
羽が、腰に生えていたのです。
まあでも、世界の長くもないけれど短くもない時巡りの中では、無いことでもないことでしたから。
見逃されて、私はそのまま運用されることになりました。
天使というものは、生まれ落ちれば、すぐに仕事に付くものです。
失って再生されたシステムの一部ですから。
何をすればいいかは生まれつきわかっているものでした。
それぞれの天使に見た目、個性や性格はあるものの。
やることがわかっていることと、神への忠誠は皆一定にして生まれてきます。
別に全て同じでも良かったのですが。
何せ天使は人をモデルとして神が作ったものですから。
どうしてもそうなっているのでした。
生物としてそうなっている。
ですから、たまに不揃いなものも生まれてくるのでした。
主は初めからわかっていたのでしょうか。
上位の初期ナンバーもまたわかっていたのでしょうか。
──何度やっても、うまく飛べません。
白い羽は羽ばたきます。
飛行自体も、できないわけではないのです。
しかし魂を一度抱えれば。
その重さに負けて、傾きました。
21gなんて言ったのはどこの医師なのでしょうか。
見当違いも甚だしい。
もっともっと重いものです。
もっともっと、重いものです。
みんなから褒められる善人も。
みんなから疎まれる悪人も。
みんなもっと重いものでした。
あなた方がどれだけ軽いと言おうと。
天使は誰も、軽いと言わないことでしょう。
籠の中、閉じ込めた。
迷子にならないように上に運ぶ。
あの世とこの世の間がある。
なんて、人は知らない話でしょうが。
宇宙より下、地平より上。
空の彼方に天使は。
──そこまで運べなかった。
私は何度も傾きました。
風を受けてか、疲弊してか、とにかく。
とにかくバランスが保てないのでした。
傾く。落ちる。
こぼれ落ちる。
魂が落ちたらどこへいくのでしょう。
いいえ、どこにも。
そうして、消えていく。
──なってはならないことでしょう。
◆
「──主よ、主よ、お願いいたします」
「羽を、どうか背中へ」
「貴方の御力でどうか、背中へ」
囀り声は飽きてきた。
出来ないと主は断り続ける。
真摯な祈りは、人に向けるものであり。
自身の解決のために向けるものではない。
生まれ落ちたものはそのまま受け入れるしかない。
矯正機器もない。直す手立てもない。
他に手立てはなく。
その苦しみを乗り越えてこその天使だろう?
自身の逆境を越えなければ。
「…主よ……」
それでも何度も懇願するものだから。
戒めとして取り上げた。
その意見を言う口を、戒めの代わりとして取り上げた。
それでなくても戒めばかりの天使だった。
ろくに運べず、運んだところで、疲弊し、その魂の安寧を他に預けるしかない。
休日は飛行訓練に赴き、よく学んでいる努力は認めるが、それで評価はできなかった。
あまりに落としてばかりでは困るから。
早く次の代替わりを望みたいものだな。
◆
──別の仕事に回されました。
人は神の手で再編され、それまでの記録も記憶も、改変されました。
“人は、人同士で生殖不可”となりました。
放っておくと増えていく。
死者の数が増えていく。
天使たちは魂を運びますが。
天使たちは増えません。
運び損ねる魂が出ます。
迷い込む魂が出ます。
ああ、なんたる体たらく。
本来の繁栄は喜ばしいことですが。
元あったリソースに対し、予想以上の繁栄を見せてしまいましたから。
過剰は褒められる世界の形ではない。
適量こそが美しく。
何より幸福の形をしています。
──ですから。
人と人が交わろうと。
子供は産まれなくなりました。
自然と三代欲求の一つを人々は失いました。
コミュニケーションツールや娯楽としてして交わることはあります。
それこそ、名残なのでしょう。
渇望する。
それでも人は子供を求めます。
それは当然でしょう。
繋がりも、後に続くものを残したくない生物の方が少ない。
それが生命として自然のあり方ですから。
子供はキャベツ畑で見つかりますか?
──いいえ。
子供はコウノトリが運びますか?
──いいえ。
じゃあ、どこから産まれますか?
──胎の中が作り替えられる。
◆
派遣型天使はみんな天使としての落第たちなわけではない。
ただ働きが悪く、戒められてばかりの天使は必ず送られている。
戒めの多い天使は送られている。
主が、現時点で人間社会を謳歌していないと下したものに。
人間社会で問題のあるもののもと。
それは、個人として失われた欲求の一つが強く生きづらいものであったり。
単純に歪んでいて暴力を好むもの。
悪ごとを好むもの。
罰を与えられたもの。
生活に困窮するもの。
今にも死にかけの体。
──奉仕ができなかった結果が残り、羽の色が黒ずんだ。
──奉仕できても心が割れて、羽の色が黒ずんだ。
───奉仕できたから、孕んで。
お腹の中は卵でいっぱい!
卵を得るか、リサイクルか。
簡単な利用法だった。
役に立つか、再生するか。
簡単な利用法。
◆
──あの、あのぉ…
──ご主人様ぁ……
──へ?あ、あんぱん?
──………
転がった袋。
賞味期限切れのそれ。
カーテンの閉まった部屋。
湿気。
雨。
しけった空気。
──…はぁい…
──再命名は、あんぱん。承諾いたしました。
──っ、きゃ、
──あ、
◆
──それってつまり早く死ねってことですか?
神様のところに堕天して帰れってことですか?
主よ、主よ、…………
産まれた意味を探しています。
そんなの産まれた意味がない。
だから誠実に忠実に奉仕する天使をしていました。
存在理由が欲しい。
存在理由が欲しい。
存在意義を自分で持ちたい。
──羽の色、灰色で留めて。
こども、
こども、
わたしのこども、
にんげんにかきまぜられて、
わられて
なかみ
たべられちゃった。