供述【破棄済】

──天使は神から生まれるものであった。

空いた天使番号が出る時は、大抵“前任”の天使が堕天した時だった。

滅多に開くものではないが、全く開かないわけではない。

そして、番号は2度と増えることもない。

世界は一定のリソースで回っている。

それは世界が開かれた時から決まっていることだった。

神は万能であるが、全能ではない。

一定以上は生み出せない。

あとはそれらが潰えるまでの間。

それらが善く過ごせるように回すためのものたちだ。

だから、人を生み出したあと。

自身を切り取り、翼を与え。

天使として支えさせるものにした。

人の魂が巡るように。

天使も。

処分されれば、再び再生して芽吹かせる。

その命に翼を。

人を導き、人を安らかにさせ。

人のために働き続ける。

──人のための天使を。

──だから羽を預けられた時からもう間違いでしかなかったのです。

光の中から生まれてきた天使を見た時、彼らはどう思っていたのでしょうか。

私は空を見上げました。

皆様困惑しているようでした。

──みんなが当たり前の位置にある。

羽が、腰に生えていたのです。

まあでも、世界の長くもないけれど短くもない時巡りの中では、無いことでもないことでしたから。

見逃されて、私はそのまま運用されることになりました。

天使というものは、生まれ落ちれば、すぐに仕事に付くものです。

失って再生されたシステムの一部ですから。

何をすればいいかは生まれつきわかっているものでした。

それぞれの天使に見た目、個性や性格はあるものの。

やることがわかっていることと、神への忠誠は皆一定にして生まれてきます。

別に全て同じでも良かったのですが。

何せ天使は人をモデルとして神が作ったものですから。

どうしてもそうなっているのでした。

生物としてそうなっている。

ですから、たまに不揃いなものも生まれてくるのでした。

主は初めからわかっていたのでしょうか。

上位の初期ナンバーもまたわかっていたのでしょうか。

──何度やっても、うまく飛べません。

白い羽は羽ばたきます。

飛行自体も、できないわけではないのです。

しかし魂を一度抱えれば。

その重さに負けて、傾きました。

21gなんて言ったのはどこの医師なのでしょうか。

見当違いも甚だしい。

もっともっと重いものです。

もっともっと、重いものです。

みんなから褒められる善人も。

みんなから疎まれる悪人も。

みんなもっと重いものでした。

あなた方がどれだけ軽いと言おうと。

天使は誰も、軽いと言わないことでしょう。

籠の中、閉じ込めた。

迷子にならないように上に運ぶ。

あの世とこの世の間がある。

なんて、人は知らない話でしょうが。

宇宙より下、地平より上。

空の彼方に天使は。

──そこまで運べなかった。

私は何度も傾きました。

風を受けてか、疲弊してか、とにかく。

とにかくバランスが保てないのでした。

傾く。落ちる。

こぼれ落ちる。

魂が落ちたらどこへいくのでしょう。

いいえ、どこにも。

そうして、消えていく。

──なってはならないことでしょう。

「──主よ、主よ、お願いいたします」

「羽を、どうか背中へ」

「貴方の御力でどうか、背中へ」

囀り声は飽きてきた。

出来ないと主は断り続ける。

真摯な祈りは、人に向けるものであり。

自身の解決のために向けるものではない。

生まれ落ちたものはそのまま受け入れるしかない。

矯正機器もない。直す手立てもない。

他に手立てはなく。

その苦しみを乗り越えてこその天使だろう?

自身の逆境を越えなければ。

「…主よ……」

それでも何度も懇願するものだから。

戒めとして取り上げた。

その意見を言う口を、戒めの代わりとして取り上げた。

それでなくても戒めばかりの天使だった。

ろくに運べず、運んだところで、疲弊し、その魂の安寧を他に預けるしかない。

休日は飛行訓練に赴き、よく学んでいる努力は認めるが、それで評価はできなかった。

あまりに落としてばかりでは困るから。

早く次の代替わりを望みたいものだな。

──別の仕事に回されました。

人は神の手で再編され、それまでの記録も記憶も、改変されました。

“人は、人同士で生殖不可”となりました。

放っておくと増えていく。

死者の数が増えていく。

天使たちは魂を運びますが。

天使たちは増えません。

運び損ねる魂が出ます。

迷い込む魂が出ます。

ああ、なんたる体たらく。

本来の繁栄は喜ばしいことですが。

元あったリソースに対し、予想以上の繁栄を見せてしまいましたから。

過剰は褒められる世界の形ではない。

適量こそが美しく。

何より幸福の形をしています。

──ですから。

人と人が交わろうと。

子供は産まれなくなりました。

自然と三代欲求の一つを人々は失いました。

コミュニケーションツールや娯楽としてして交わることはあります。

それこそ、名残なのでしょう。

渇望する。

それでも人は子供を求めます。

それは当然でしょう。

繋がりも、後に続くものを残したくない生物の方が少ない。

それが生命として自然のあり方ですから。

子供はキャベツ畑で見つかりますか?

──いいえ。

子供はコウノトリが運びますか?

──いいえ。

じゃあ、どこから産まれますか?

──胎の中が作り替えられる。

派遣型天使はみんな天使としての落第たちなわけではない。

ただ働きが悪く、戒められてばかりの天使は必ず送られている。

戒めの多い天使は送られている。

主が、現時点で人間社会を謳歌していないと下したものに。

人間社会で問題のあるもののもと。

それは、個人として失われた欲求の一つが強く生きづらいものであったり。

単純に歪んでいて暴力を好むもの。

悪ごとを好むもの。

罰を与えられたもの。

生活に困窮するもの。

今にも死にかけの体。

──奉仕ができなかった結果が残り、羽の色が黒ずんだ。

──奉仕できても心が割れて、羽の色が黒ずんだ。

───奉仕できたから、孕んで。

お腹の中は卵でいっぱい!

卵を得るか、リサイクルか。

簡単な利用法だった。

役に立つか、再生するか。

簡単な利用法。

──あの、あのぉ…

──ご主人様ぁ……

──へ?あ、あんぱん?

──………

転がった袋。

賞味期限切れのそれ。

カーテンの閉まった部屋。

湿気。

雨。

しけった空気。

──…はぁい…

──再命名は、あんぱん。承諾いたしました。

──っ、きゃ、

──あ、

──それってつまり早く死ねってことですか?

神様のところに堕天して帰れってことですか?

主よ、主よ、…………

産まれた意味を探しています。

そんなの産まれた意味がない。

だから誠実に忠実に奉仕する天使をしていました。

存在理由が欲しい。

存在理由が欲しい。

存在意義を自分で持ちたい。

──羽の色、灰色で留めて。

こども、

こども、

わたしのこども、

にんげんにかきまぜられて、

わられて

なかみ

たべられちゃった。