「虹をかける星の狼になるのが夢だった」
「小さい頃に聞いた物語が好きで」
「その時の絵本をずっと覚えてる」
「僕の世界はずっと雨だった。ここと同じみたいに」
「みんな虹を見たがってた。星を見たがってた」
「……だから、なろうと思ったんだ」
本当は。ただ人気者になりたかっただけ。
寂しがりの子供みたいな、ただ構って欲しがりな。
「髪を伸ばして、犬の耳を切り刻んで、狼のように縫い付けて」
「尻尾も髪も、色を抜いて……絵の具で染めて」
「声が元々高くてよかった。発育が悪かったのも」
「見た目が変わるだけなら簡単だった」
見た目が同じなら、同じ力を振るえる。
そんなわけ、ないのに。
元々視力を失っている三日月の瞳孔。
視える片方は虹色のコンタクトレンズ。
だから世界をずっと色眼鏡から覗いていた。
雨は止まない。虹は掛からない。
そんな現実にずっとノイズをかけてきた。
「揺らいだ空を見て」
「ここなら、もしかしてって思った」
能力なんて元々ないから。
奇跡の効かないこの世界のフィルタがわからなかった。
寧ろ、ここなら奇跡を起こせるんじゃないかって思った。
「だから、」
「この蓄音機を見つけた時は
もう雨の下にいると思う」
「そして、君がこれを聞いてるってことは」
「奇跡なんてなかったってこと」
「……そう思ってない?」
どこか楽しげな、場違いな声。
あめのおとがする。
「猫ちゃん」
「君はずっと無力で可愛い猫だったね」
「その真っ白な魂が、ずっとずっと汚れないように」
「ハル」
「悪いこと言っちゃったかも。ごめんね」
「でも、もし生きて帰ったら」
そこにもう罪はないから、元気でね。
「ネズミちゃん」
「きみはいつか戻るかな、戻ったら名前で呼んであげる」
「雨はきっとあがるよ」
「虹がきっとかかるよ」
「だって」
「それが僕達の希望なんだから!」
その声は誰とともにあるんだろう。
ここにいた人か、それとも元の場所にいた獣か。
どちらか分からないままに、テープは切れた。