【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
…
……
…………
「…はぁ」
ため息、と言うよりは必死になってる時の息継ぎみたいなものだった。
ずっと動き続けたら、だって疲れた息が出るよ。
そういうものだよ。
そういうもの。
そこはあんまり変わりなくて。
天使もそんな感じだった。
今が何時とか、何日とか、ちょっとよくわからない。
と言うか、気にすることもやめていた。
随分と経ったような気もしているし、そんなに経ってないような気もしてる。
上も下もわからない。
前後ろもわからない。
進めているのか、後退してるのか。
そもそも留まってるのかもしれない。
ここは今日も虚無だった。
なんにもないだけがあった。
何にもないから、何にも見えない。
【範囲外:観測不能】
さっぱり。
乾くことだけはできるのか、私の服は黒色が残っている。
私の羽に、点々と黒色が染み付いた。
私の手も黒色が残っている。
織ちゃんがいた証だった。
…
血液。じゃなくて、墨。
真っ黒な黒色は、白に乗せればよく目立つ。
人は筆に墨を浸し。
文字にして書物にする。
そうして自分の証や、考えや、物事を後世に残す。
そうして繋いでいく。
未来に自分のいた証を残すように。
存在意義。存在確証。
心の叫び。
心臓の要。
…
だからこれで、良いと思う。
取れないって言ってたから。
特別生でよかったなと思った。
墨が取れなくてよかったなと思った。
あなたがいたってことがわかるでしょう。
あなたがいたって確証できる。
あなたが生きていたことの証明になる。
そうして言葉を届けるから。
不自由で理不尽で、自由に向かってった、あなたのことを伝えるから。
言葉はちゃんと覚えている。
約束したことは、違えるつもりはなかった。
だから私は歩いていた。
【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
──雨は、止んだだろうか。
あの場所の雨は止んだのかな。
…
止んだ、としても。
外に出られるのかな。
それとも振り続けていて出られないんだろうか。
振り続けて、また誰かが殺されてるんだろうか。
それとも資源が尽きて、飢え死にしているんだろうか。
…
どちらも嫌な結末だなと思った。
そうじゃないといいなと思うけれど。
そうだったらどうしようと思う。
理不尽に連れてこられて。
理不尽に殺される。
…
頼まれたからで、人を殺している。
天使は奉仕する。人に。
それはなんでもだった。
それはなんでもだった。
2回目の頼みは失敗したけど。
死にかけの神父様、大丈夫だったかな。
生き延びてるのは…難しいかな。
難しいだろうな。
あの考えは人間の中で特殊であって。
どちらかと言えば裁かれそうな過激派だった。
私の主は戒めを与えることだろう。
ただ、私は奉仕の天使として仕えるだけだった。
銀の輝きは唸った。
鮮血が散った。
とてもじゃないが肯定できることじゃないし。
私が対等なら、嫌って言っていた。
…
ただ、あれもまた選択なのだと思う。
自由か不自由か、選ぶしかなかったか。
でも、選んだのだと思う。
あまりよろしくない道の方へ。
それを曲げなかった。
それが折れなかった。
それに、なんと言うか。
全部自分の罪として持っていかれたなあ。
やっぱり、天使に被せればよかったのにと思う。
けど、それがその人の在り方だったんだろう。
だからどうかあなたの神の元で。
正しく裁かれることを祈りましょう。
それくらいしかできないから。
それくらいは、しなきゃいけなかった。
…
【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
…
【範囲外:観測不能】
……
…………
「………」
「あぅ」
閉じ込められていたとしても。
閉じ込められていなかったとしても。
どちらにせよ、時間の経過があることは想像に容易い。
想像にたやすかったから、足は止まらなかった。
歩き続けなきゃいけない理由があった。
生きていたこと、伝言を伝えるのはそうだけれど。
「………」
「帰らなきゃ……」
あの子のそばに行かなきゃいけない。
…
…誰も見てないもんね。
主も、他の人も。
…
わたしね。
私、生まれた意味をずっと探してたんだよ。
主は翼、直してくれなかった。
その時から信じるもの、失ったみたいになってたんだ。
生まれた意味をおっことした。
主から切り取られて、主の導きのもと、人間のために奉仕する。
人間が死後迷わないよう奉仕する。
それができないなら、なんのために翼を授かったのかわからないから。
飛ぶため、落とさないためにたくさん努力したけど生まれつきの不具合なんてどうしようもなかった。
その後人間は改変されて、子供が作れなくなった。
子供を作るのは役立たずの天使の仕事になった。
そう言うものになっていた。
単純に人間に奉仕した。
なんでも聞いた。なんでもやった。なんでもさせられた。
羽根は濁らなかった。
たくさん産んでいた。
可愛い可愛い私の子供。
痛い目にあったけど、温めている時は幸福だった。
腕の中。お腹の上。温めるために肥大化した羽根。
全部取り上げられて破られて人間の腹の中。
確かに役に立っている。でも。
生まれた意味がわからなかった。
主も上位の天使たちも、次の天使に生まれて欲しそうにしていた。
うまく行かなかったからリサイクル!
なんて、なんでそんなこと言うの。
じゃあちゃんとした形に生み出して欲しかった。
私には意思がある。意識がある。
戒めを受けて歪んでった。
涙の小池はいっぱいだ。
食べられて、人間の腹で濾過されて、人の子供になっちゃった。
あの子たちの涙でいっぱいだ。
──なにも、
──何にも選べなかった。
それが仕事ですからね。
お役に立たずそりゃどうも。
逃げてもそりゃ追跡される。
神様の賜物だもんな。
そうして戒めを受けるから。
もう最初からやらない方がよろしい。
ただ命じられるだけに振る舞えばいい。
都合よく振る舞えばいい。
天使はシステム。
世界の一部のシステム。
神が世界を運営して。
天使が神の一部というなら。
選択肢はないんだよ。
何にもできず、そのまま、システムに組み込まれるだけ。
私、反抗してるつもりだった。
羽が黒く染まらないように、振る舞って、振る舞って。
その振る舞いが組み込まれていた。
別の運用法をされただけだった。
諦めてしまったらリサイクル。
そんな簡単な話だった。
選択はなく。
袋小路で。
…
【範囲外:観測不能】
…
わたしね、
私、あなたが笑ってくれて良かったな。
私、あなたが必要としてくれて良かったな。
私、あなたが望んでくれて良かった。
嬉しくて楽しいことも、
暗くてわからないことも、
苦くて苦しいことも、
全部重ねて、一緒にして。
一緒にできて。
あなたに会えて、良かった。
あなたが愛してくれて良かった。
あなたが私のここまでに意味をくれた。
ここまで、足掻いてきたことに意味をくれた。
ありがとう、ありがとう。
私、きっと愛されたかったんだ。
意味があるってそういうことなんだ。
必要としてもらえることだった。
──だからちゃんと約束守りたかった。
ごめんね、いつも大切なものには空回りする。
何にもうまくいかないから。
何にも手に入らないか、
手に入れ損ねている。
あなたの最期は冷たいものになってしまうのかな。
だって、落ちる寸前も、もうさ。
もう。
寒がってないかな。痛がってないかな。
落ちる前に近くにいる人、きっといい人が多いけど。
あなた、探していたっていうから。
1人で歩けないのに。
か弱いのに。
それでも、私を探してくれたのかな。
無力だった。
どこまでも、無力だった。
【範囲外:観測不能】
【範囲外:観測不能】
【範囲外:観測不能】
──でも諦めたくないから。
【範囲外:観測不能】
【範囲外:観測不能】
【範囲外:観測不能】
──這い上がる。
なんにもないけれど私はある。
私はここに在る。ここにいる。
どれだけかかっても、どの場所でも。
諦めるっていつも悔しい。
いつも嫌だ。
そんなの嫌!!
私を好いてくれたあなたとそんなお別れなんて嫌!
あなたが冷たく冷え切っていくのが嫌!
やくそく、守れなかったのが嫌!
2人で幸せに、できなかったのが嫌!!
──亡骸になっていても。
魂だけでも。
名残だけでも
砂塵でも。
あなたに、御免なさいを言いたいから。
あなたのもとに必ず行く。
だって、私、まだだって、
好きですって、言って、
【範囲外:観測不能】
【範囲外:観測不能】
【範囲外:観測不能】
あと何してたかは知らないさ。
ここは虚無なんだ。
あいつも虚無なんだ。
もしそれが残っていたとしても。
──抜け殻が動いているだけの虚無なんだろ、たぶん。
………
………………
…………………
何も聞こえない。