巡土日

日記の一番最初に書かれている。

私は覚えていなければなりません。

あの日の出来事を、あの時に信じた信仰を。

あれは私がまだ、一桁の齢の頃でございます。

両親も、弟も、妹も。

路地裏でひっそりと、家族6人で過ごしていたのですが。

ある時、流行病で私以外皆衰弱していきました。

治療できるのは教会や、医者、治癒師ではございますが。

家族を養うのもやっとの家計で、寄付金や治療費なども当然ありません。

治るあてなどなかったのでございます。

ですが、当時の私には。

ただただ衰弱していく身内を失うのが怖くて。

必死にお金を稼ぎ、薬代を、あるいは寄付金を集めておりました。

ある日は、土の上で犬食いをし。

ある日は水責めにあい。

ある日は残飯を求め、戻し。

ある日は踏み躙られ、蹴られ。

身売りや奴隷にはならないように、懸命に誘拐などから躱しながらも。

物乞いをして集めたお金で食べ物を確保し、薬も与えていました。

……ですが。

とある日、雨の日に。

その日は気前のいい方と賭け事を提案され、運良く賭け金が手に入り。

久しぶりのシチューの具材を買い込んで住処へと辿りついたのですが。

そこにあったのは、誰かが故意に命を奪った後でございました。

――そう、つまるところは。

一瞬にして、家族は死に至ったのでございます。

ですが、私はこうも思いました。

ただただ、助かる見込みすら怪しい日々を過ごす中に。

彼らに最後の救いをもたらし、穏やかな最期を迎える事ができたのだと。

――冬の神の、御業であると。

救いであると、解釈いたしました。

……そうでなければ。

殺された理由を、怒り狂うこの感情も。

制御など、出来なかったのですから。

どうして。どうして。

どうして。どうして。

僕だけ生きてしまったんだ。

どうして、僕だけ。

死ねなかったのか。

どうして、最後くらい。

シチューを家族で食べる事も出来なかったのか。

ねえ、神様。

冬の神様。

僕を、救ってください。

皆を、救ってください。

だって、だって!!!

神様なんでしょう!!!!!

ああ、ああ!

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして!!!

――死ななければ、いけなかったの!!

――結局、誰が救いをもたらしたのかは分かりませんでしたが。

それで、良かったのでしょう。

私は、心置きなく。

救う事を、選び取ったのですから。

狂気の道へと、足を踏み入れる事を。

全ての業を背負って、皆様を救うと。

冬の神へと、誓ったのですから。

*-*ー*

――冬の神の記録を再生します。▼

『――して、首尾はどうだ』

『ええ、問題なく。家族は全て、殺しました』

『……しかし』

『あの長男を本当に生かしたままでいいのでしょうか?』

『あの者が怒り狂う事もあるでしょうが――』

『良い』

『あの者は、いつかきっと我が教団の柱となるだろう』

『……はぁ』

『あの者の信仰を少しばかり説いた洗脳しただけだからな』

『じきに、我らの教団を大きくする人物になるだろう』

『あの者は、酷く献身的であるからな』

『すぐに、救いへの道を歩むだろう』

『はは、楽しみだよ』

『我が教団の繁栄も、もうすぐであろうからな』

『それに比べれば、あの掛け金も、些細な金だろうしな』

『……教皇様、そろそろ次の任務がございます』

『……ああ、分かった』

『――皆に、冬の神の救いを』

*ー*ー*

死人に口なし。