凩の君と、四温の雨

実のところ、私はそれなりに人縁には恵まれていたのだと思う。

命と引き換えに産んでくれた母、

それを文句も言わず育てあげてくれた父はもちろんのこと。

車に連れ込もうとしてきた恋人は、

それでも、私にとっては初めて会った、

私にそこまでの好意を傾ける人であった。

兄弟も。内心は疎んでいようと、

敢えて虐めも除け者にもせず、私がそこで生きていることを許してくれた。

殺人犯の身内にしてしまった時でさえ。

触れづらいようにしてたのはただ全てが嫌悪故ではなく、

私の心情を慮る気持ちがあったからだ。

……まあ、結局は心の持ちようかもしれませんが。

どのみち、それらに目を向けられていなかったのは私だ。

幸せになろう、と思わなかったのは、私だ。

誰かから齎されるのをずっと待っている、子どものような私だ。

もう、そうはなりたくない。

生きていたいと思ったことを、忘れたくない。

与えられるものだけを受け取って、

望まれたからそれを望む、なんて大人しい私じゃない。

きっと、こちらから手を掴んで。

どうしてと嘆いては前を向いて歩き。

重すぎる愛にはきちんとお断りをして。

静かな父にはもっと話す機会を作って。

暖かな母から、貰い過ぎないように。

遡って、やり直して。

あるいは生まれ直しては、進みだす。

少しでも楽しそうな顔で、皆の元へ。

───あなたの元へ。

It's raining again today今日も雨が降っていますね.」

「でも」

「あなたと会う日も、雨の日だと思うから」

これだけ沢山の夢を貰って、願って、分け合ったのだから。

心の内側で、永遠に閉じこもるわけにはいかない。

ずっと雨の降る部屋だからと言って、そこに閉じこもる理由にはならない。

ざあざあ、ざあざあ。

足音がする。

遠い何処か、駆け出していく誰かの。

居てもたってもいられず、惹かれ合うような何かの。

あれは、ちょっとしたことで家族と喧嘩をしてしまったのかな。

それとも恋人を振って、傷ついてしまったのかな。

私が生きたくない気持ちに包まれているとき。その人はきっと、現れる。

ざあざあ──

足音が来る。もう、何処にも攫わせないために。

そんな日を夢見ながら。

あなたと二人、溶けていくように眠るのでした。