「 先輩、ウチの従兄が今行方不明になってるって話しましたっけ。」
「してない?そうっすか、すんません。……先輩滅茶苦茶ビビるじゃないすか。ウケるっすね。」
「ウチの従兄……アイロ兄ってんですけど」
「皮肉じゃないっすよ。」「逢鷺兄、っす。」
「一週間前くらいから、行方知れずみたいなんす。」
「彼の両親と一緒に住んでたみたいなんすけど、自分の部屋で過ごしていたのを最後に忽然と消えちゃったみたいで。」
「栞も挟まれていない、本だけがそこに転がってたそうっす。」
「それが、だいたい一週間前。」
「心配っすよね。」
「……。」
「……でも、何となくわかってるんす。」
「もう、ダメなんだろうなって。」
「ウチも、叔父さんも、義叔母さんも、皆。」
「……なんでって、そりゃそう思うっすよね。」
「逢鷺兄は、生まれつき、ひどい病気だったんす。」
「肺がどうのこうのっつう。ウチ医者じゃないんで詳しいコトわかんないんすけど。」
「でも、医者だったとしてもわかんない病気みたいっす。」
「不治の病、っつうのかな。」
「ウチ一回小さい頃にお見舞い行ったことがあって。」
「病院のベットで寝たきりになって、全身にいろんなチューブ付けてて」
「苦しそうでした。すごく。」
「でも、その後奇跡的な回復ってので、退院できるくらいには病状良くなったんすよ。」
「そう言えばあの時”死神に見逃された”っつてたけど、何のことだったんだろ。」
「でも病状が軽くなっただけ。治ったわけじゃない。発作も全然来ちゃうみたいで。」
「だから、週一で病院に行くのは必須で、毎日しっかり専用の、特別な薬を飲まないとどうなるかわからないって感じで、ギリギリのバランスで、なんとか生きていけてたみたいなんです。」
「そんなギリギリで生きていた人が、一週間も行方不明なんですよ。」
「それって、もう。」
「……そう、っすね。」
「諦めるのは早すぎるっすよね」
「ありがとうございます」
「 先輩も、なんか見かけたり解ったりしたことあったらウチに教えてください。」
「名前は逢鷺で、苗字はウチと同じ。髪の色も同じっす。」
「背ェ高ノッポでピアスしてるチンピラみたいな見た目で……まーたビビってる。」
「とにかく、よろしくお願いするっすよ、嗄昏木先輩!」
普通じゃねェ人生ってのを知ってるか。
知らねェならいい。せいぜい健やかに長生きすりゃあいい。
俺は知ってる。痛ェほど。
俺はままならねェ命を抱えて生きてきた。
普通に憧れ普通を妬むような、終わりの見えた隘路みてェな人生だった。……俺らしいってことなンだろうか。
でも俺は俺の生き方を選べた。
俺の価値に気づいた。
俺だけが知る音を知った。しかもふたつも。片方はおっかねェものだが。
後悔も未練もさほど無ェ……ことは無ェな。
あいつとの約束を軒並みパァにしちまう事だけが心残りだ。
……でも、多分あいつもわかってんだと思う。俺の、残り時間を。
あいつだけでも脱出してほしいんだが、どうなんだろうな。
あいつは絶対、良い家族を作れるだろうからよ。
……"そろそろ"、だと思う。ったく、わかりたくなくてもわかっちまうのがなんか腹立つぜ。ま、これでもかなり踏ん張った方だ、上出来だろ。
……思えば産まれてから死ぬまで、最初っから最期まで色々有りすぎだったな。だが、まァ、良い人生だったってことにしといてやるよ。
……そうだな、最後に。
最期に、ひとつ。
……いいか、憶えておけよ。
俺は”死んだ”んじゃねェ。
”生ききった”んだ。
通ヰ路逢鷺:此岸と彼岸の通い路を、隘路の如き人生を全力で生きた一人の人間。