閲覧者へ:編集禁止。資料閲覧のみ許可されています。
ぺこりとした少女に会釈で返す。
元々胡散臭い格好。胡散臭い笑顔で。
バイバイと小さく手を振り、マントを翻しながら立ち去る。
「おや、……」
昨日一応擁護してくれた胡散臭い人。
あまり話せなかったが、まぁやさしい人なのかも……。
会釈だけして、その背中を見送った。
マントの ひとが とおりかかったなら
わたしは ぺこりを しました
あまり しらないひと
こんにちは さようなら
わたしは ここで おるすばんなの。
コツコツ と靴の音が響く。ロビーを歩く音。
一瞥する先はこの場の住民達。暖かい光景を眺める。
天使や少女達が作り上げた、この場の空気を感じながら
「……」
一瞥し終えればこの場から去るだろう。
つみき? かもしれないわ
ぴかぴか きれいなのよ
てんしさまにも よくみえるように
のこっていたコインと
ふえていくかんづめを
きれい きれいに ならべて
きれい きれいに おみせして
コインの かわる ごはんからか
いいこの かわる ごはんからか
じゅんばんを かんがえるのでした。
今日も、体内時計はまあまあ精確に働く。
お誘いに乗って出ていくのはもう少し後がいいだろうし、
今はただ、ぼんやりとその光景を見ていた。
「……つみきみたいですねえ~。
つみきかも。」
おいのりが ひとだんらく したので
もってきて くださった
かんづめや コインを まわりに ならべます
ぴか ぴか ぴかぴか
パーティみたいで たのしいわ
いいこが たくさんと
きれいが たくさんで
わたしは にこにこに
にこにこ にこにこ
ならびかえたり つみあげたり
むこうがわ いくひとに てをふりました
げんかいの さき みえるかしら?
「そう、続き物ながら独自の世界観を持つ……」
なに?
「そして突き抜けましょう。限界の""向こう側""をよ……
テン様。いってらっしゃいませ~~~~~~!」
ニコ!自分もまた、手を振って見送るのだ。
「……フフ、…… ……。」
「……うん。」
懐の、もう随分ぬるくなった重みを感じながら。
変わらない、少女の祈りを感じながら。
小さな声とともに、天井を見上げて頷いた。
「いってらっしゃーい」
明るく言い、手を振る。
お気をつけてなんて言葉はもう必要ない。
もはやこの状況でさらに人を害するものなど、いないだろうから。
無事にもどってくることを疑わず、見送った。
「あの(皆様ご存知)ウオ~2!?」
どの?
「いずれ追究してみますか……""限界""……
というのはさておき、ちょっと散歩に行ってきます!」
時間だけなら、いくらでもある。
よほどの事が起きない限りは、きっと。
これはいずれがある事を疑っていないから、この散歩は実に気軽なものだ。
にこにこ にこにこ
おいのりね おいのりね
あまりしないひとが したのなら
きっといいことが あったのね
おねえちゃん なるの むつかしいでしょうね
おねえちゃん なるの たのしいでしょうね
わたしは おいのり しながら にこにこ しました
みなみなー みなみなー
「引き続き最強のオヤクメイツになっていきましょうね~~。ウオ~2(ウオ~2のSE)」
「フフ、お望みでしたら毎秒感謝の言葉を言いますよ……
ピッチとテンポの調整も承りつつ……」
こうした他愛ないやり取りが。
いずれ声の出なくなる時まで。あればいいな。
「やったー」わわー。
「……ありがとうございます」
これにて、この怪物にはもはや何も心配はない。
ロビーの人々は、今は一人と一匹欠けてはしまったが。
もとより行先はみんな一緒だ。さみしくない。
傍らに積んだ、ひんやり缶詰を撫でた。
「こ、こんにゃろお~~~」そんなに。
「……」
「………、はい。」
「勿論ですとも。しかと導きますよ。
輪廻の先、おふたがたが再び巡り合うように。
姉妹の順番もバッチリ把握いたしましたから、
どうかご安心下さいませね。」
「……ええ。ミナミナ。」
その信頼に応えるように。
時を経て信じてくれた貴方に応えるように。
ここまでを共に過ごした貴方に、救いがあるように。
己も手を合わせて、厳かに祈った。
「冗談か~」
先ほど来ていた悪魔の方がもしここに居れば大ウケだったのでは?
残念ながら、居ないのだが……。
「共に頑張っていきましょう オヤクメイツとして ウオ~」
たった数日前、穏やかだった時間と、変わらぬ調子で言い切ってやろう。
これは、本来果たすべき役目は、もう果たせないとしても。
どうあれ、生きているもののためにできることは、変わらず。まだあるのだからね。
「感謝されるということはよいことですねえ……」
自分の他には、誰も居なかったから。そういう場所から来たから。
口にした言葉に、こたえが返ってくるということが。
たったそれだけで、奇跡みたいに思えるんですよ。
「そんなかんじで予想してましたし、いまちょっとやっぱりか~~~~ってなりました」なるなよ。
「わたしね、」
「来世ではシダレさんのお姉ちゃんになるので」
「わたしちょっと方向音痴なとこあるので」
「天使様。わたしをかわいい妹の元へ、ちゃんと導いてくださいね」
「……ミナミナです」
これは、祈り。願い。というよりは……頼み、といった色合いが近いか。
本来こういう使い方ではないのかもしれないが。
神を信じないこの怪物は、あなたを信じている。
「ほ~~~ぉ、よく見破りやがりましたねぇ……。
そう、死こそこの世唯一の救済!故にあらゆる生命は一刻も早く死ぬべきである!
今こそ教義を遂げる時~~!!ウオオオオ(存在しないナイフを振り上げる)」
「……こんな感じで予想されてましたかね?あっ今のは全部冗談なのであしからず。
冗談ですよ!(この瞬間に誰か来てもわかるように声を張り上げておく)」
「そうですねえ~持ってきますか……筋トレついでに……」
「……フフ、頼もしいお言葉です、テン様!」
「この天使ミルメコエルから感謝いたします!」
「私も!貴方様のことを生きている限りお見守りしましょう!」
「果たすべきことのあるものとして、ともに!」
これも、他人を襲ったりすることはないしなかった。
生活サイクルをここで立てるなんて荒唐無稽が叶わなければ、
行き着く未来は決まっているとしても。それでも。
笑ってこうして、宣言していこうか。
「おはよ……」
にゃむです。
テンさんは今日も元気。
……きっと無理してそう振舞っているところもあるのだろうが。
いつも通り。安心した。
「おはようございま~す!」
にゃむですね。
お目覚めの方にはいつも通りの挨拶がお出しされる。
視線……というより、顔を向けた先には、何を言うこともなく。
「……」
挨拶を返してくれた少女に、にこ……となったが。
きっとその顔は見えないので、ひらひらとおててを振った。
「にゃむでした」
にゃむだったようだ。
「ありがとうございます。天使様もね」
「……天使様は最後までいい人のままでしたねえ」
「あてがはずれてちょっと残念です」
「正直ねえ。わたし、ちょっとだけ疑ってたんですよ」
「ミ~ナミナミナ! ミナミナのミナはミナ殺しのミナですよお~~~~!!! って叫びながら終盤に襲い掛かってくる枠だろうなと思っていた」
天使様のことそんなんだと思ってたのお前。
「やっぱりいずれは倉庫からベッドを拝借する必要がありそうですね?
天使さまが倉庫にお出かけする時についでに倉庫のみなさまと相談していただきましょうか…」
もちろん与太話と受け取っていい。
何はともあれ、まあ。
限りなく無いに等しい可能性に向かって、途方もない道を歩いていくのは慣れている。
どう転んでも、絶望の中で死にやしないだろう。これは。
「…天使さま、ミルメコエルさま!」
「私が居ます。あなたの行く末を、生きている限り見届けます」
「あなたも、ひとりではないですからね!」
まあ、結局は。あなたには見送る側にさせてしまうのかもしれないけれど。
あいにくプレス機に入る気はさらさら無いけれど、
今ある資源以上を求めて、他者の資源をすり減らしてまで。自分の命を繋ごうという気持ちには、なれなかったもので。
「にゃむですねえ。」
にゃむらしい。
「おはようございます。……」
「現実は制御できぬもの また同時に不条理なもの」
「苦しみは必ず生まれて 確たる正解は少ないです」
「その中では人は、確実に疲弊していってしまう。
ナデシコ様も……、よくお休み下さいね」
おはようございますの かおなしさんに ぺこり しました
よふかしさんかしらね?
おしごと たいへんなのね?
「にゃむ……」起きた。
定位置のすみっこ。壁を背に、座り込んで寝ていた。
眠そうに目をこすりつつ、へびさんのあった場所に顔を向け……
すぐにそらして俯いた。ため息一つ。
「……おはよございます」
立ち上がる気力はあんまりないのかも。
シーツをひざにかけたまま、しばらく座ったままでいるだろう。
「ええ。とびきり意地悪です。」
「……でもね。」
「犠牲になってしまうものには、権利があります。
犠牲になることを受け入れる権利と、同時に……」
少女の持つ缶を見る。
彼女は受け入れた側だった。
……そして離す。
「足掻く権利だってありますよ。」
死にかけの蝉にだって、鳴く権利があるように。
踏み潰される蟻にだって、逃げる権利があるように。
「それは楽しく過ごしてやろうとすることでもいいし
先を願うことだっていいし ……筋トレして壁をぶち破るでも、
ここで生活サイクルを立てることが叶って、永い時の中で解決策を探す、のでもいい。」
「私は天使ミルメコエル。それが希望に繋がることであれば、助力致します。」
救いはあるようにする。存在しないだろう可能性だって挙げてみる。
それは残酷さより、よほど残酷かも知れないが。
何も救いがないのであれば、悲しすぎるから。
「……まあ!過ぎたことを悔やんでも、仕方ありません」
暫しの沈黙。
その後には、声色も表情も、もういつも通りだ。
無理をしている、とも取れるかもしれないが、そうではない。
或いは、気味が悪いと思うかもしれないが。
ただ、そういうふうにできているだけだ。
先も見えない世界を生きていくには、真っ当な精神構造では耐えられないから。
「私たちはまだ生きているのだから、
できることをしましょう、楽しく過ごしましょう!」
「私が、テン・フカセツが、みなさまの行く末を見届けましょうとも!」
この場所に残されたものが、もはや死にゆくモラトリアムばかりだとしても。
あなたが生きたことを、誰も見届けてくれるものが居ないなんて、寂しすぎるでしょう?