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「……いじわるですね~」
意地悪だ。そういうふうに世界を作ったものが居るとしたら。
この場所を作ったものが居るとしたら。
社会が、ヒトがそうなってしまうことは、…そこに生きるものに、罪は無いとしても。
いかな聖者といえど、毎年死んでいく蝉の為には祈らないだろう。
いきものの一生は有限だ。
自由は限りのある資源だ。
あれもこれもと手を伸ばしていては、
きっとその全てが手のひらから転がり落ちてしまう。
「悔しいなあ……」
どうにもならない現実に、負けてしまうことが。
どうすることもできないことが、どうしようもなく。
無彩色の天井を見上げる。
自分が居なくなった後の、食い荒らされたあの星は。
ただ冷たく静かに眠りに就いて、そうして二度と命が芽生えることはないんだろう。
死んだ星には、もう何も、新たに生まれることはない。
少女の思ったことが、これに伝わったかは、どうだろう。
何れにしても、同じく、缶詰に視線を落として、……。
やっぱり、心の中には、同じ疑問が浮かぶばかりだった。
世界は残酷だが、ただ残酷なばかりではない。
あなたにとっては、誰かにとっては、優しかったのかもしれないけれど。
これは、命を繋ぐために造られたものだから。
生きていたものが、眼の前でプレス機へと消えて、
つめたくちいさな、命の重みになってしまった事を。
その選択を尊重はすれど、是としたくはなかった。
選ばざるを得ない状況を、仕方ないと思えなかった。思いたくなかった。
造られたものは、正しい使われ方をされたかった。
たったそれだけのこと。
「…………。」
「……世界は、残酷な方が回りやすい部分があるから、でしょうか。」
「優しさというものは、どうしても有限であってはしまいます。」
「隣人に優しく出来ても、星の裏側にいる相手に優しく出来るかは別。」
「ペットに優しく出来ても、家に入ってきた蟻に優しく出来るかは別。」
「限る方が、絞る方が、効率的で、心に掛かる負荷も少なくなる。」
「だから世界は程々に残酷になっていく。その方が回りやすいから。」
「犠牲になるものが、出てくるのと同時に。……」
「……」
女の子を見かけた。こんな子もここに……と思いながら次へ。
ねこさんの ことばが きこえたので
すこし かんがえました
……せかいは やさしいわよ?と、おもいました
てんしさまに おめにかかれたし
わたしは いいこだから だいじょうぶで
そのしょうこに うすうすさんは はっきりになって
「……♪」
いま とりだした ひやひやで おもい ごはんに なったの ですから
ささげる できて よかったね
おいのり ちゃんと してたからね
にこにこ にこにこ
「…優しいですねえ」
この場所に落ちてしまった、全てのものがそうとは言わないけれど。
全てのものがそうでないとも言わない。
「優しいのに、」
「どうして、世界はこんなに残酷でなければならないのでしょうね?」
ぽつり。口を衝く。
この世には、明確な正答のある問題の方が少ない。これもまた然り。
誰に言っても仕方ない独り言だ。が。
話し声の減ったロビーには、少し響きやすかったかもしれないな。
てんしさまが いうのなら きっと そうなのでしょう
かいしん させたのかしら
いいこに したのかしら
そう おもいながら ぴーす と ハートを しました。
「悪魔様のことですか?
悪魔様はねえ~……
……優しいですね!」
ぴぴぴのピ~ス
ぼんやり してたら あくまさんが さったので てを ふりました
てんしさまが やさしいなら あくまさんは なんなんでしょう ね?
それから ぴーすを わたしも したの でした
ぴーす ぴーす
いえええ~~~~い。
シェアハピ・シェアピ・ハッピ~~~ス。
「今からでもくれてやりましょうか?ゴスっとよぉ~」
ジャブの身振り手振り。
「りょーかいです。いい感じのタイミングで伺いますね。」
「んじゃ、いってらっしゃいませ~~~ また後で!」
手を振って見送っていった。
「お元気で~」
ロビーを後にする背には手を振って。
あなたがこの先どれだけの時間を過ごすのかは、わからないが。
せめて生きている限りは、お元気で。そうであればいいと思う。
そこにあったので、いい感じに送り先となった。
送られたので、ピースサインを返した。クーリングオフではなく、シェアハピでね。
イエ~。ハッピ~ス。
「…やっぱ暴行初犯もらっとくべきだったか?」
惜しいことしたかも。
「つってもキャバ嬢が起きてきてからだがな。テキトーに様子見てから来いや」
「じゃ、オレサマは倉庫に戻るぜ。」
言うが早いか、ロビーからすったか出ていってしまった。
イエ~、といい感じに纏まりました感のあるピースサインだけ送っておいた。
都合のいい送り先として利用されてしまう!ピースサインの!
「いやはや、おかげさまでね。」
「……はは。感謝もしといてやりますよ。
救われてくれて、ありがとう。あなたは立派な悪魔様ですよ。」
「こんな状況になっても変わらず安心感があるものですね。
じゃあどんちゃん騒ぎの一団には、加えさせて頂くとしましょうか。」
「…ちょっとはイイ顔になったじゃねぇか」
「まァ、落ちこぼれの割にはよくヤッたぜオレサマ。それで良いってコトにしてやるさ。誇れ、アンタは確実に1人を救ったぜ。」
「今日はキャバ倉でどんちゃん騒ぎだ、来たら歓迎してやるよ」
虚空を見ている。虚空を見ていた。
耳はヒトのそれより大きいが、やはり聞き耳を立てるためにあるものではなく。
悪魔と天使の間で交わされる会話までは、聞いていない。
聞いてはいないが。行く末を見届ける者は、必要だっただろうか?
証人は必要なさそうだ。いずれにしても。
変わらず居たかもしれないし、気付けば居なかったかもしれない。
これはあなたたちの都合の良いようにあっただろう。
「……応えて、ちょっ~とはやめてやりますよ。」
薄く伏せた目が開いて、笑った。
「悪魔にとっちゃ、十分な戦果って言っていいでしょ。
これぐれーを妥協点として満足しやがり下さい。
でないと腹パンぶちかまして天使の暴行初犯も付けてやりますからね。」
「………、………」
「……フフ、はは、……
……はぁ~っ、……」
「とんだ圧迫行為をしてくれやがりますね、全く悪魔的なこと。」
「わかりました、わかった。……願われれば応えるのが天使以前に私だから。」
「でも、完全にやめることは出来ない。それは、誰もを完全に救うことができないのと同じで。」
「だから……」
少し歩む。声が余り漏れないように。
「……そんなこったろーと思った。よろしい、これで『つぎ』の交渉ができる」
「…オレサマ、これでも落ちこぼれでヨ、悪魔らしいことが何も出来てねぇの。で、悪魔らしいことを達成すれば、『オレサマは救われる』。どうだ?アンタの選択によって、確実に救われるヤツが出る。可能性で終わるか、実利をとるか…まさか天使サマは目の前に救えるヤツがいるのに見殺しになんてしねぇよな?」
「……それは、…………………」
手がゆっくりと垂れ下がる。
「……、……優しい、言葉ですね。」
「でも。……やっぱりダメです。
私が楽になるということは、
誰かを救える可能性を捨てること。
……それは、選びたくない。」
「もしも出来たとして、心の何処かに針の様な引っ掛かりが残り続けるでしょう。」
「もう、進み切るしか無いんです。」
そんなわけがなくてよかったなあと思った。
死の、その先がある存在の方が、きっとまだ救いがある。
或いは、まだ、果たせる役目のある方が……。
「お前さん、もう『天使』やめたら?しんどいだろ?この状況」
「どんなに世紀末なクソッタレ状況になっても希望と救済を説いて、結果はクソ以下のクソッタレどものせいでこのザマ。アンタがオレサマの知るような『天使』なら、意にも介さず洗脳行脚だろうが、アンタは違うだろ?」
「楽になったらどうだい?」
「はい!これからは私がテン・フカセツ様として生きていき、
代わってテン様には、天使の役目を担って頂く……」
「って、んなわけないじゃないですか~~~~~~~い」
「天使は……天使ですね。変わりません。それで……話とは?」
「話は早い?」
要件に関係があったのだろうか?
ともあれ自分が茶々を入れるべきではなさそうだ。ソファの上で大人しくしていることにした。
私達、入れ替わってないです。
「あ?天使やめたんか??それなら話は早えな!それともちょっと前に流行った入れ替わり的なサムシングか?」
「こんにちは 私はテンと申します」
んなわけあるか2。
「そんな なぜバレたのですか………」
見りゃわかる。
「獣人じゃん」