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きたひとに てをふって
いなかった きがするので くびを よこに ふりました
うるさい ひとだった きがするのです
「こん……ばんは、ここにシダレっていう女の子来てないかな」
「ピンク色の髪の毛の子なんだけど……」
酷く青白い顔をして入口に現れると、ロビー内に居る人達へと声をかけた
「ああ……さあ……どうしましょう?」
虚空を見る。
誰に言うでもない、独り言だ。
あいにくどこか特定の場所に属してはいない。そうならないように意識していた。
だって、いつでも気軽にお喋りできる相手は、いくらでも居ていいでしょう?
「困りました。みなさまを助けたいですが、誰から、というのを決められません」
「トリアージは……私には、できませんね?」
命の取捨選択など。
星の、すべての命を繋ぐために造られたものが。
できるはずもない。
みんなの こえは きこえてるけど
みんなの ことばは きいてない
にこにこ にこにこ
おいのりを しているの
みなみなー みなみなー
「んー」
誕生日パーティの開催の仕方だって。殺すのはダメだって話も。全部人から聞いて守ってきた。
全部人が言うから守ってきた。守った上で、待っていたんだ。ケーキを前にして、お誕生日をお祝いする日を。
だから 殺さなかった
死なないように 気をつけて きた
「まだ かも」
「でも しんでない ? かも」
「わかんない」
「みにいったら わかる」
シャワールームに いなければ
倉庫だろう 多分
「わかんない」
分からない そうだよ
まだ 早計 そうかな ?
「でも だいじょうぶ」
使うから だけど ああ
──言う間に 君は 消えてしまっただろう
「ないかー。」
なおさら言えないな。
多分、お誕生日を楽しみにしていて、葬儀屋の祈りなんかを聴きたいからってついてくる子供より先に、
死ぬ。
って思っている。
だから、この先も、終わりのない先も、出来るだけ黙っておこう。
「うん。じゃあ、まかせる。」
誰かに言われたことを信じる素直な子供だな。と。
「…ミケの子、まだかな。まだなら先に行こうかな。仕事しないとね。」
空間の 切断 放棄
つまり私たちは
「見捨てられた?」
そんなこと、元から察していたようなものだけれど。
狂っても 正気でも どっちでもいい
その喉があれば いい
その血があれば 心臓があれば
いいんだよ
「ないー」
「おかね いっぱいあつめた」
「まかせて」
「ながいき させてあげる」
勿論 この先も 集める よ
ケーキ も 待ち続ける
飾ったら パーティ出来るって
最初に 誰かに言われたから
ずっとそう 信じてる
「そっか。じゃあこのままでいっか。」
様子が変。
きっと諦めているからもうどうでも良いのか。
絶望して狂ったのか。
それか、元からだったのか。
ひんやりの子供がこちらに来る。
寒いなぁと思う。
「は、やっぱり拒否権ないかよ。」
残り少ない煙草、のような薬を咥えて吸った。
そう 行かない方が良い
あんなものに 君達を食われては 溜まったものじゃない
そんな絶望はいらない
「んー さむそうだし」
「かわいそう かも しれない」
言いながら 冷気 纏う
子供が お祈り屋さん に寄ってきた
様子 ヘン
そうだね そりゃあ そうだろう
「おいのりやさん」
「だいじょうぶ しなせないから」
最期にお祈り して欲しいから
バースデイソング みたいに
歌って欲しいから
──傲慢
DREAMからの自動放送:メビウス切断面循環措置が終了しました。空間安定値向上のため、一部システムを放棄します。メビウス……
「そっか。とうとう廊下にも死体出来ちゃったんだね。」
「冷凍食料庫?なんだか死体を安置できそうだね。あぁでも、寒そうだな。死体の冷凍保存とかは、あんまりか。」
いかないわ いかないの
そうこは おめめぐるぐるで
しらないは しらないから
わたしは おるすばん できますから
「うん」
いつも通り そうだね
いつも通り 出来なくても 良かった
だって みんなケーキだ
お誕生日パーティの 飾りだ
腐ってなんかない まだ使える
「れいとーしつ ……あぶないから」
「あんまり いかないほうが いーかも」
ろうそくさんが かえったのを みて
てをふってから
そーぎやさんを みました
「ああ……ちょうど来られましたね!」
「おかえりなさいませ!」
いつも通り。きっとできている。
「ここにはいません。どこの方が死んでしまったかは、私には、わかりませんが」
息を吐く。そうして、できる限り、平静を装って。
まだ終わっていない。なら、ヒトの、生きているものの為に尽くすべきだ。
そういうふうに造られたのだから。
「あなたをおいのりやさん、と呼ぶヒトが
死んでしまった方を探しに行きました」
ぽて ぽて と子供が やってくる
少しだけ 冷気 まとって
「……ろうかに ひとり」
「バースデイ まねっこで おいのりした」
「ほか まだみてない」
おいのりすこし とめて
ここがふえたかは わからないので
くびを かしげました
「ねぇ。」
いつもの声。
「今日は誰が死んだの?」
いつもの調子。
諦めた、死人の顔。
DREAMからの自動放送:空間の閉鎖は完了済みです。接続面の結合処理完了。空間安定値の向上処理を行います。空間の閉鎖は……
「生きているヒトが……こんなに居るのに」
がん。
足が痛んでも、やめられない。
無意味な行為を、機械的に繰り返す。
「……どうして…」
どうして?
どうして、世界はこんなに残酷でなければならないのだろう。
どうして……
…
どれだけ意識を沈めていたのだろう。
夢だろうか。
感覚が戻ってくる。
終わりを知らせる痛みが身体を巡って知らせてくる。
現実だ。
何が起こったか。
観ようとしたちょうど。
放送が流れた。
…そんな気がしていた。
「あはは。傑作。」
嘲笑。
「…………」
「私は、」
「生きて、帰らなければなりません」
がん。ロビーの玄関口、大きな扉のように見えるものを蹴る。
びくともしない。
いつだか、倉庫からベッドを運び出して、質量攻撃で脱出路を拓こうか、なんて。
そんな話もしたっけな。
「私が、“種蒔き”計画を完遂しなければ」
「星の未来が……」
がん。がん。がん。
扉を蹴る。
びくともしない。
「希望が、なくなってしまう」
わたしは ただ おいのりを しています
おかえりを まてば いいこなので
いいこは ちゃんと かえれますので
「………アイちゃんさま、」
遠ざかる背中を引き留める事はできなかった。
残された時間をどう過ごすかは、あなたの中で、もう決まってしまったんだろう。
これは、それを否定する術は、持たなかった。
生きているものの意思を尊重し、肯定する。
そういうふうに造られたものだから。
流れのままに漂い出る
「ザマァ見ろ、みんな死んじゃえ」
傷だらけの体でこの場所を去った。
「空間の放棄」
「偶然」
「私は、」
どうなる?
この世には決まった答えの出ない問題の方が多い。
これも答えなど出なければよかった。けれど。
わざわざ、我々『は』脱出する、なんて言うんだから。
「博士の……計画が」