閲覧者へ:編集禁止。資料閲覧のみ許可されています。
「ええ、うふふふ」
しばらくしたら出来た。と言ってロビーを出るだろう。
すぐ戻ってくる。
「……ミナミナですね~、フフ、ミナミナ~」
「よきことです!思いは伝わらないままより伝わる方がよいものですからね~。
いつその機会はなくなってしまうとも限りませんから~……。」
ニコニコ。震える手や書かれた文字の不穏な一部がみえようとも微笑みはそのまま。
そもそも、今の貴方の様な姿の人間が入ってきた時点で、常人なら驚こうものだろうが。
おれいを いうのは いいこと
わたしは にこにこ しました
わたしも てんしさまに
おれいの おいのりをします
みなみなー みなみなー
あおいろてんしさまが かえったら このぶんも ついか しないと
わたしは そう おもいました。
「そう!お世話になったみんなにメッセージをねぇ」
寝転びながら震える手で字を書く。
なにやら死とか物騒な文が見えるが気のせい。
一枚書き終われば次はわたしはロビーに…と字を書き始める。
「会いたくないのでしたら~、仕方ありませんね!」
こっちはそんな話を仕方ないと済ませるもの。
もしも子どもを育てていたら我儘放題にさせてしまう可能性がある。
「何を書いていらっしゃるのですか~?
誰かにお伝えしたいことでも?」
「んー、会ってない〜会いたくないから」
見つかったら色々言われるってわかってるから。
なんだか子供みたいだ。
「おや、ツナちゃん様。
身体的には大丈夫ではなさそうですが、
笑顔でいらっしゃるのはよきことですね~。」
何かを書いているのであれば、それを邪魔することはせずに語りかける。
「そういえばテン様が貴方様を探しておられましたが、
もうお会いになられましたか?」
きながら たおれたひとに てを ふりました
ぼろぼろね ぼろぼろだわ
まっくろさんの ほうを いっかい むいてから そらしました
おしごとなら きづくわね
ロビーにやってきて急に倒れる女。
ボロボロのままニコニコしている。
「…あっそうだ」
紙とペンがあるならそれを箱から取り、
何かを書き始めた。
のんびり していると
また ふくろ おもく なったような
くびを かしげながら
きのう てんしさまが していた あげさげ うんどうを してみました
……ちょっと たのしい
へびさんが したいなのか
へびはんが いきてるのか
わたしには よくわかりません
わたしには きょうみがありません
ただ しゃー しないといいなと おもいました
ただ いいこなら つかわれないとと おもいました
すくなくとも きにされてるから そつぎょうは してない のでしょうね
何か摂取させた方がいいのは確かだろう、と思ったとて……
それを行動に移すことはしない。せいぜいが見守る程度のもの。
誰かに頼まれでもしない限りは、そうであり続けるだろう。
「現実というものは、何事も起こり得ますからね。
ここまでは静観でもよいと考えておりましたが……
こうなっては何か起きてしまう前に、一応と。」
もし親切にも食料を分け与えようとする者がいたとして。おそらく口をこじ開けて何かを食べさせようとしても、自力で嚥下するのが難しい状態だ。出来て少し水を含ませる程度か。
それを試みる者がいるなら抵抗はしない。何かを拒める状態にはない。おおよその事は無抵抗で受け入れることになる筈だ。
てんしさまが おそわれた
「????」
ことばと ことばが よくない くっつき でした
てんしさまは てんしさまなのに
わるいこじゃ ないのに
くびを かしげて かしげてから
くびを かしげて かしげました
「おや、よくお休み下さいね~」IIYO……
滲みの増えた布とその向こう側の巨躯の方を見ては、
これは何かしら『正しい形』であるのだろうかとふと思う。
本蛇に聞ければ手っ取り早いだろうが、言葉の壁は深い。
少なくとも一人に望まれ、一人に望まれていた形なら、それでよいか。
天使は淡白。恐らく尽きていそうな資源や食料を添えることも介錯の様なこともしない。
……今は倉庫にある遺体が無かったら、同じ選択をしただろうか?……わからないことだ。
「むにゃ……」すや。
へびさんの処置に集中していて、天使様の言葉はきこえていなかったようだ……すまねえ……。
「ミナミナ~。」
「そうですねえ~。ただ懸念点もありまして~。
昨日私、ついに襲われてしまいましたのでね。
一応、皆々様方にも警戒を推奨いたします。
次はコイツの近くにいる奴狙お~、とか、
やられるかも知れませんからね~。」
「血はなあ……」こまり。
「これ以上出血しないように、きつめに圧迫しとくか……」
手早く、巻き直す。資材はこれで最後。
これでだめだったんならどうあがいてもだめだったと諦めがつく。
「遺体だけでも、」しれっと嘘を交え。
「……帰れるといいですね」
本心。
わたしは帰りたくないが。
この子は待ってる人がいるかも。
であれば、それを優先するべきだ。
巻き終え、定位置の隅っこに戻る。
すとんと座り込んで、また眠りこける……
幾重もの、紅紫の怪物の記憶から逃れるために。
乾きかけた布を剥がすなら多少の痛みを伴う筈であるが、目は開かない。
傷はおそらく増えてはいない…のだろうが、血液が足りないのか顔色は真っ白だ。状態としては、これが一度死んだ日のものに近い。
嗜眠。揺さぶったりして強い刺激を与えなければ殆ど意識が無い状態であるらしい。
「おはようございます」
最終日。
だといいけれど。
「本日くらいは何事もなきよう……」
てんしさまの こえに
ぱちっと おきました
そして おいのり しました
みなみなー みなみなー
元気な天使の声に起きる。渋々……。
「おはようございます……今日くらいは誰も傷つかないといいけど……」むにゃ。
立ち上がり、もう一度へびさんの方を確認して。
「うへえ。……もっかいくらいかえとくべきかな」
滲む血液を見て、そばに寄りシーツをめくってみる。傷と出血具合確認しようと。
体液は時間経過に従って幾らか流出し、被せられた布に滲みを増やしてはいる。ただ、その量はそれほど多くない。
布上から分かるのはそれくらいだ。
寝かされた姿勢のまま、動かす者が居なければずっと同じ体勢で横たえられ、静かなままだ。
「皆々様方~、おはようございます~。
ミナミナの朝がやって参りました~。
今日もよく、安らかに過ごせますよう。ミナミナ~」
今日で最後である、というようなことは言わない。
そーぎやさんの おとで
おめめが ひらきました
わたしは うしろすがたに てを ふりました
それから まだ しずかそうなら
おめめを また とじようかなと しています。
「……?」むにゃ。
物音に反応し、ぎりぎり起きる。半分寝ている。
距離的に詳細な様子は拾えず、ロビーから出ていく背中だけ視認した。早起きだなあとのんきな感想。
ちら、とへびさんに視線をやり、目を凝らす。
……あの時、人が多すぎた。
秘密にしてほしい、と頭は下げたが。
誰一人秘密を漏らさなかったとは、こののんきな怪物は思わないのだが。
……にんげんの狡猾さはよくよく知っているので。
昨日手当して以降、新たな創傷がないのか確認すべく、シーツ越しに眺める。むむむ。新たに出血していればシーツには滲むだろうか。
半分寝てはいるので、それを確認しようがしまいが、やがてそのまま寝落ちするだろう。
胸を掻くように、荒い息をするように、ソファから転げ落ちては、よろめいて、どこかに。