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「おやすみなさ~い……(逆寝起きドッキリ)」
「go home……」
ぬるりとやってきて、ソファに収まった。
傷は痛むがまだ浅い。
資源も多少減ったが、明日で終わりなら間に合う計算だ。
寝かされたままの人蛇に何をするでもない。楽観的ないきものは、楽観的なまま眠りに就く。
ふ、と目を開ける。暗い。こんなに暗かっただろうか。暗くなる時間であるのか。……なぜ布をかぶされているのだったか、おきあがるには、ここはどこで、……?
思考はどうにもぶつ切れで、近くにあった痛みが今は膜を隔てたように鈍い。寒いのだか暑いのだか分からないぐるぐるが全身を這い回って、けども奇妙に穏やかだ。
緩慢な瞬きを一度、二度。はやくあかるくなるといい、とぼんやりと願って、布越しの常夜灯を見上げている。
「……んん、んむ……うん……?……」
「……、おかえりなさいま……ありが…とうござい…… いってらっしゃいませ……んむむ……Zzz………」
半ば寝ながら少しだけ起きて、また眠った。
寝静まるロビーをあとに またどこかへと漂っていった
どこか儚げなひとの前に佇み そっとゆらめく……
かたちには馴染んできたようで
なぜか どこか たよりない
傷はない どこにも ひとつも
「……… フフ、」
「ミナ ミナー…… ……」
「み、みー」
みなみなー
そばにいる てんしさまだけには
ちゃんと きこえた かもしれません
くすくす わらってから おやすみなさい
「おやすみなさい。……わたしも寝ちゃおっかな」
部屋の隅っこ。壁に背を預け、昨日いつの間にかかぶせてもらっていたシーツをかぶる。
別になくても今日まで文句はなかったが、あると……なんかいい。
さっきまでの体温はもはや残ってないその布が、なんだか暖かく感じた。すや。
「ムー様は~…… わかりますので~!」
わかるらしい。
「おや、おねむですか。
ではではお休みいたしましょうか~。」
ぽすん、と同じソファに座っては、シーツを引っ張って掛ける。
「今日もよくお疲れ様でした。お休みなさいませ!ミナミナ~」
「おやすみなさいませ。ごゆっくり。
もしも気が狂われても導きますゆえ、ご安心下さいね。」
「人は殺しませんよ、ナデシコは」
「……お約束します」
聞こえているかはわからないけれど、
睡眠の邪魔にならない程度の声で、勝手にそう約束した。
……幾重にも積もるクローンの記憶。
生き物など殺し飽きたし、殺され飽きた。
本能に強制された個体ならともかく、こうしてまともに思考できる程度の自我がある個体ならわざわざやる必要もない。
箱の操作を間違えて買っちゃったナイフは、結局一度も使ってはいない。
リンゴを切ることにすら。
……わりと どうでもいい ことですが
すでに くちなしな わたしは どうなの でしょうね?
……まあ おくち ぱくぱく とくい ですが
そんなことを おもいながら おやすみのひとをみて
わたしも いしきが ふわふわ してくるのでした
「死人に口無し。」
「…あぁ、オレはキミたちにそんなことされたら…今度こそ気が狂うかも。」
なんてね。
と、ゆるりどぷりと、意識を沈めていった。
「そうですねえ、死者の安寧は私共天使が後々お約束しますが……
今は言葉の届く範囲で、生きている方々の安寧を測るしかありませんね~。
言葉が届かない範囲のことは残念ながら難しいですが~……。
すぐ出ていかれちゃうとか。出ていったきり戻らないとか。言語が通じないとか。」
「現実で起きうる事象は誰にも制御しきれぬまま複雑に絡み合うもの。
読み解くことは出来ませんね、終わってしまった後となっては殊更。」
「天使として出来ることは……その後が良くなるよう祈り、
もしこちらにいらっしゃったら、微力ながら助力するばかりです。」
「……何かの罪が、ずっととげとして刺さっていて、つい悪ぶってしまう人もいる」
「私はわるいひとだ、って」
……。
「まぁ部外者なのでなんとも……ですね」
「いろいろ理由があったのかもしれないし、なかったのかもしれない」
「せめて生きてる人々が安寧であればいいのですが」
死人に口はないので。
「……なるほど。それも……そうかもしれませんね。」天使としては、肯定するべき考えだとは。
とも だち
しってるけど しらないわ
しってるけど よくわからないわ
……たいへんなのね みんな
「実際のところ、どうなんだろうね。本人たちにしかわからないだろうけど。本当に、死んだ子が殺した子にお願いしたかもしれないし。殺した子がついやっちゃったのかもしれない。葬儀屋にはわからないことだよ。」
「ま、結果としては、ともだちだと思ってた周りの奴らが、派手な水遊びまでに発展させちゃったわけ。」
「…気持ちはわからなくもないな。」
「……友達だったら、背負わせたくないです」人の考え。あるいは、怪物の考えだろうか。
「もしも殺されるとしたら、何も知らない相手より友達に殺される方がいい……
……というのはいささか天使的すぎる考え方だとはわかりますし……
実際はそう、傷付いた姿がみたい~って悪意もありそうですからね。
友情よりもそうした悪意が上回ったと、裏切られたショックはあってしまうでしょうか。」
「ともだち、ですか……」
ともだち……最初のわたしにはいた気がするが。
クローンの記憶で薄まって、ずいぶんと遠い存在になっている。ものの。
「……殺したい人に、友達の顔して近づくのはちょっと手間ですよね」
「初めまして、でさっさとやってしまったほうが時間の効率はいいので」
「……相手を傷つけるためだけにやってそうですね」
そう思う。
「いってらっしゃいませ~。」
自由だなあ~と思う。
自由なぐらいでよいものだとも。
送迎らしい
危ないから ねー ……
いろいろ あるんだなぁという かおを しています
ちょっと ショート ぎみ
送迎されてたんだ、オレ………
「おきをつけてー」
ロビーを去る背中を見送る。送迎えらい。
「にしてもさ、」
脳裏に甦ったのは、あの時彼が置いていったシーツの切れ端。何か書かれていたけど、全部は読んではいない。けど、そこに並べられてた文字には、なんとなく、察しはついてしまって、
「…怖いよな。ともだちって思った奴に殺されるのって、どんな気持ちだろうね。」
「う~む、派手な水遊びも悪い方の予感が当たりましたか。
相当パニックの状況であったということは推察出来ますね……。
尚更お疲れ様ですとも。」