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「……?」
見慣れた少女の存在が、なんだか薄く見える。
目の錯覚だろうか……。
不思議そうに背中を見送った。
「……すみません。愛ちゃんは……ロビーで何をしていたんですか?」
震える声で、周りに声をかける。
入り口付近。ニーリの後について来たか。
慟哭する彼女を見、その傍のシーツを見やる。
此処は死体の数が多い。DREAMとやらもその辺考えてなかったのか。
何も言わず。ただ、紫煙を燻らせている。
泣いている人を見たら、自分も泣いてしまいそうで。
DREAMとかいうアレだって信用できないんだから。
自分で頑張るしかないのに。
ああ、だから。人は祈るんだ。
祈ることだけは、いつだって出来るから。
ミナミナ。声に出さず呟いて部屋を出ていった。
「……。」
「人は、簡単にも死んでしまうものですよ。」
「現実で起こる出来事は到底制御出来るものでなく。
予想しきることも出来ません。
そんなもの、人が責任を持つには過大すぎる。」
眼鏡をはずしてぐい、と腕の袖口で目元を拭うと
あずきさんの傍に寄るだろうか
かける言葉は何もみつからないけれど
「…」
何かを呟いている途中で、声に目を開ける。
シーツを捲って、顔を見せてやるか。
ちゃんと 死体の場にいるの 初めて
いつも もう全部終わってる頃に 出てくるから
だから 泣いてるのとか
見て 見て
ふーん って してた
視界が歪む。
泣いているのは僕か。
ふらりとロビーの入口で立ちすくんでいる
シーツの塊の傍であずきさんが泣いているのが目に入って
本当に愛さんなのか、という感情がぐるぐると渦を巻いていた
「……テン様……」
「…… いってらっしゃいませ~」
「あずきがいないと生きていけないって言われたのに……離れてしまったから?」
「あずきが愛ちゃんの全部を受け入れられなかったから?」
「『練習台』になるのを……怖いと思ってしまったから?」
「なんでですか?人ってそんな、簡単に死なないのに……」
「ずっと怪我してたの隠してたんですか……?」
「なんでですか?」
「あずきの……せいなんですか?」
ほうそうに わたしは うきうき したので
あんしんして おいのり します
ねがうことが ふえたので がんばらないと です!
みなみなー みなみなー
「この中に、他者を害したものがいるとは思っていませんが」
「……みんな明日一日くらいは、警戒するか、ゆっくり休んで終えましょう」
「ごはん、足りないならいくらかは渡しますので」
「きっともう奪わなくていいはずです、お金も、命も」
「いってらっしゃい」
「明日……」
「そうですか~」
「私、ちょっと出てきます!みなさまの様子が心配ですので!」
死体 見てたから
お祈り屋さん の動き 見てたから
必然 崩れる人も 見ていた
「……」
見ていた
「あいたたたた……」
何かがぶつかる。鋭い痛みの後に、熱を持つ。が。
呼吸をする度、死に近付くような極地に比べれば、なんという事はない。
生きていればなんでもかすり傷。そうでしょう。
「…………」
呆然としながらも、放送に耳を傾ける。
混乱した頭には、放送から流れる言葉だけがやけにはっきり頭に残る。
「明日終わるなら、きっとみんな、だれも襲わなくていいですね」のんき。
「……動く気はあったんですね」
「…………、放送………。早めに……?」
本当に脱出の準備を整えるというのか……?
……わからない。読めない。
希望だけ持たせて後は完全放置なら、わかりやすかったというのに。
ふらふらと、指されるシーツの傍に寄って。
許されるなら、ちらりとだけめくってみて、それが確かに彼女であることを確認して。
「…………」
「どうして?」
「どうしてですか……?」
「理解ができません。こんなところで死ぬ訳にはいかないって言ってたじゃないですか」
「外に出てやりたいことが……あるんですよね?」
「どうして?」
「金貨だって……昨日、1000枚以上持ってて……」
「死ぬはず、なかったのに」
「昨日はあんなに……元気だったのに」
死体のそばに膝をついて。
真っ青な顔で、呆然と、うわ言のように言葉を繰り返す。
ほうそうに こくこく うなづいて
はぁい と おくちで おへんじ しました
わたしは いいこ なので
わたしは いきて いるので
いうことに したがう みなみなのしと です!
「…… あした ……」
「………」
"彼女"の側で、手を組んでいる。
DREAMからの放送:元気に生きてますか?聞こえていればいいですが。
準備が早めに整いそうです。明日の、ちょうど今頃にもう一度放送します。
入ってきた少女を見て。
愛さんの方をそっと手で示したかも。
「あいちゃん ?」
愛ちゃん 知らない けど
きっとそこに ある
愛ちゃん ──だったモノ
もう シーツ被せちゃった かも
「……」
葬儀屋さんが今から弔ってくれるそれを無言で手で示した。