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「はい。」
「私、天使は……
それが人間様方の中に出来上がることを。
それが理不尽な死の様な絶望にも負けないものになることを。
心より応援し続け、手助けするものです。」
「芯。」
天使様の言葉を噛み締める。
襲撃が続く中でも、持ち続けるべきものがある。きっと。
少なくとも、選択は為されねばならない。
寄りかかる頭をうけとめて
起こさないよう ひそやかに
シーツの下の かすかなゆらめき……
「……今日もよく頑張りましたね。おやすみなさいませ、ムー様。」
シーツをそっと、叶うならふわふわの人にも掛けた。
「そうです。」
「人は強い。けれど同時に弱いもの……
なにか揺るがない芯が必要なのです。
祈りはそれそのものであり、
またそれを育くむものでもあります。
恐ろしい現実の中や、
無情な真実の中でも……
強く人を支えることのできる、芯を。」
「信じていたら裏切られるかもしれない。
でも、何も信じずに生きていけるほど強くはない」
「そんな時のために、きっと」
「祈りがある。合っていますか?」
「7日経てば出られるなど、あまり信用していませんが。」
「だってなんか最初の放送の時『面倒だな……』とか聞こえたし……」
たびを なされているとも ききました
はねを つかって ふわふわ ふわふわ するのかしら
ふわふわ ふわふわ てんじょうまで うかぶのかしら
ふわふわ……ふわふわ……ふわふわ……
あたまも かくかく して しまいます
となりに まだ ふわふわさんが いたのなら すこし よりかかって しまう かも しれません
ふわ、ふわ……ふわふわ……
わたしの まぶたも ふわふわ……
すやすや……
「……人は必ず 何かを信じて生きています。
法律 社会 道徳 命 あるいは……
7日経てば出られるということ。
この極限環境で、どれだけその信心が
裏切られずに済むでしょうか。」
「しかし。信仰は。
裏切ることはありません。
私、天使は、それを保証するものです。
そして、信じて欲しいとも思っております。
どうか、真に絶望することのなきように。」
それでも形だけは祈ってしまう私も
同類なのか
信じることは善きこと: 本当に?
恐怖や悲しみのなさそうな少女を見て。
哀れだと思ったか、羨ましいと思ったか。
みなみなー みなみなー
あおいろてんしさまに おいのりを
いまにも かえってくると しんじて
あしたには かえってくるかしら
「ありがとうございます、葬儀屋様。」
最後の挨拶も聞けなかった子羊にも、祈りは許された。
ヒトとか、ヒトじゃないとか、関係なく。
ミナミナ……
「ええ。……、……」
「……いってらっしゃいませ。
この天使、ナデシコ様の先行きも応援しておりますよ。ミナミナ……」
「睡魔に逆らう必要はないのですよ。
どうかごゆっくりお休みなさいませ。葬儀屋様。」
今となっては余ってしまっているだろうシーツを、そっとあなたに掛けた。
「お疲れ様です、……」ほんとうに。
こんな状況でよくやってくれている葬儀屋さんに、心からの労いがこぼれた。
「なら、きっと安心ですね……」
本人がそう信じているなら、死後の世界も悪い場所ではないはずだ。
そうあってほしい。
「……いかねば」
生きているものを生かすために。ふらりと、ロビーを後にした。
「天使の旅ってどうなんだろうね。オレたちみたいにあっちの世界とかあるのかな。」
ふらりと、力無い足取りでソファに倒れ込む。
「…話途中で、ごめんね。ちょっと、目を閉じる。」
「……そうです。ご安心下さい。」
「我らは天使。輪廻司る神の使徒。」
「『死したものには天のお迎えが来ます』」
「フォーミュラ様もそう言っておりました。」
「終わりは終わりではありません。」
「今はただ。祈りを。ミナミナ……」
「……旅、……」
旅。行先はどこなのだろう。天使の行く末は。
「……苦しんでないといいです」
あの方は、きっと誰からも奪わずに生きたのだろう。
……にこっ
わらいます わらいました
わたし おるすばん とくいなの
わたし ちゃんと まってるの
ぎゅうとしたの わすれてないの
たいせつなおことば いただいたの
きえてしまっても かえってきたの
だからまた かえってくるわ
あおいろの てんしさま だもの
「……」
「フォーミュラ様は……。」
「旅立たれました。」
「ここで、旅立ちの挨拶を交わして。」
「……そう、ですか……」
多分下手人横にいるが……。
そんなことにはまったく気づかずわかりやすく落胆する。
「フフ……天使だからこそ、言わないといけないとも思いました。」
「……ええ。お互い、最期まで頑張りましょうね。」
「…」
無言。ゆっくり、首を、縦に、動かした。
「死んだことは、確か。今は倉庫の奥にいる。」
「……?」
あおいろてんしさま?
きこえた ことばに くびを かしげます。
「……天使に、そう言ってもらえるの、ありがたいな。」
「どうやら最期までこの仕事をしないといけないらしいからね、オレは。形だけでもやっておくよ。」
「柚葉さん……ありがとうございます」
話す機会があるといいが……今日は重傷のへびさんについていたいところだが。
まぁ状態は少し落ち着いているし大丈夫だろうか……。
「え?」青い方、というと。
「……フォーミュラさま?」
「ムー様は偉いですね~。立派!もうそろそろ熟練者ですよ~。
ふわふわ様も偉いです。立派!遠慮しないでいいのですよ!
お二方ともいいこいいこのミナミナです!」
「あ、知らなかったか。そ、倉庫にあったよ。…青い方の、天使。少し顔を合わせたくらいだったけど、やっぱり堪えるね。」
「貴方様にしか出来ないことを、貴方様は成し遂げておりますよ。葬儀屋様。
現し世の死を受け止めるには、区切りが必要なものと存じております。
それ故、貴方様の立場から祈って下さるのは確かに助けになっておりますとも。」