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てんしさま てんしさま
わたし おるすばん じょうずでしょう
おかえりは うれしい うれしいです
わたし いいこですので わたし えらい ですので
おいのりの ても とっても なれました えへん
「…蛇を特に怖がってたのが、廊下にいた子たちかな。蛇に会うのはやめとけとか言ってたの聞いた。」
「…」
「オレ、あそこ通るの、少し怖くなってきたかも。」
「そのまま野ざらしにしているわけにもいかないでしょうし……何かしないととは思ってたんですが、お恥ずかしながら弔い方は知らなくて……ありがとうございます」
「……倉庫にご遺体が?」
きゃば、とかいう騒がしい空間か。そんな場所で遺体が出るとは……。
「おや、天使様に祈るって珍しいですね?」
「ミナミナに家族を人質にでもとられたのかな……」
天使様をなんだと思っているのか。
そうこにも したいが
あの こう すごく すごかった ばしょにも
ふんわり おもってから きにせずに
みなみなー みなみなー
おいのりしてます
「ただいまもどりましたぁ……(スモール・ボイス)」
「蛇様を襲った方は~……柚葉様は恐らくそうだと思いますね。
暗闇になる瞬間、という不自然なタイミングに来て、
その後すぐ帰っていらしたので。(正常ボイス2)」
「他にもいらっしゃるとは思うのですが……。うーむ……。
倉庫の方々は結構蛇様に同情的でしたので、
他の場所の方々ですかねえ……しいて言うのであれば……」
しばらくの静寂。
形だけ、はたまたなんとなくか。
手を止めた。
「や、ただいま。悪いね、でももう大丈夫。落ち着いたし、倉庫の死体、天使にもお祈りしてきたところ。葬儀屋なのに、出来ること無いけど。」
「あっ……」
さっきの怪我人。見るに怪我はしていなさそうか。
処置は誰かがしたらしい。よかった……。
とてとて。
存在意義をなくした自分はどこに行けばいいのか。
数時間前とは違い、蛍光色の赤は垂れていない。
ウロウロ。
「おかえりなさい……」小声。
「あの、天使様。へびさんを襲った人に心当たりありませんか?」
普通の声。今の小声はなんだったんだ。
ぼんやり 気配をうすくして
しずかに しずかに ゆらめいている……
それぞれの いのりを 邪魔せぬように……
「おかえりなさ、……ぃ」お忙しそう。
声かけるべきではないのかもしれない、と声は後半につれて小さくなる。
葬儀屋としての在り方なのだろう。ご自身も不安だろうにえらい。
申し訳ないが、死者への対処は任せよう。
弔い方は知らないので。
「……………」
自分の中では、そこにあるという死体がそもそも『生命』のものなのか。
それさえも判断が付かないので、葬儀屋の方に任せる形にしておいた。
時折、念じる背中だけを見守る。
ふわふわの方に目をやり。
祈る少女に目をやり。
蒼色の天使は死んだ。祈りなど意味はない。
そう思っていても。
祈っている。
ㅤ
「ㅤㅤ嬉しいですね……ㅤㅤ」
ヌルッ……と戻ってきてはそう呟く。
「留守を任せてしまっているので……
そんな中でも楽しく……(恐らく)
やって頂けているのは……」
ロビーに戻ってきた。
何も言わず、目も向けず、あの死体へと歩を進める。
端っこに寄せて、シーツを掛けて隠して、手を組んだ。
「…」
ぶつぶつと、小さく何かを念じる声がする
かたちを かんじれれば うれしいの
いっしょに おいのり しましょ
みなみなー みなみなー
いっしょに おいのり したらきっと
てんしさまたち うれしいかしら。
おとなりのあなたを 避けたりはせず
おくちのうごきに あわせてゆらめく
あなたとにたような かたちとおおきさを
感じるかもしれないし よくわからないのかも
ふれれば かたちがあるのなら
わたしは おとなりにいきます。
だいたい だいたい はだで かたちを かんじれる きょりに
そして おいのり します
みなみなー みなみなー
おくちぱくぱく うごかして
近付く気配にもやりとうごき ふわふわ左右にゆらめいてみせ
ふれれば案外かたちがあって 温度はまわりの空気とおなじ
ふわふわさん ふわふわさんね
ふわふわさんが 入ってくれば
てをふってから すこし ちかづいて みます
ふわふわさんは あたたかいですか?
ふわふわさんは つめたいですか?
「おや、……」
謎の生き物……? がロビ―に入ってくるのを視認する。
声をかけようとするが……どこか眠そうに見えたので躊躇した。
興味深げにしばしまじまじと見つめたが……
不躾だろうと思い至り、あわてて目をそらした。
すれ違うひとの勢いにあおられつつ ちいさな影がすべりこむ
喧騒にあてられたのか へろへろと壁際へ
ゆらりゆらりとしばらくゆれて
やがてまどろむような しずかなゆらぎとなった……
「お気をつけて。……」
あわただしく人探しを再開する背中を見送り。
「え。あぁ……気にしなくていいのに」
へびさんに金貨を押し付けられ、遠慮しそうになるが。
「……わかった、ありがとう」
この腕では自分では手当てもできまいと判断して受け取る。
多少治療回数に余裕ができた。もう少し生かせるだろう。
このへびさんはきっとなにかみんなに誤解されている。
図体はでかいし顔もこわいし、人の言葉も話せないから。
なんとかして人々の誤解を解くことができればいいのだが……。
わたしが人の手当てをしていたとき、すみっこで人の怪我を見て丸まって怯えてた子が、人を害したりするものか。
「ご、ごめんね。何かわかったら、伝えにくるから……!」
そう言い残せば足早に、またどこかへ行ってしまうだろう。
「大丈夫、処置はしました。そっか……ありがとうございます」
特に友達ではないが……
「お急ぎですよね、呼び止めてごめんなさい。見つかるといいな」
本当に変な奴、だ。自分が死にかけている自覚はある、なんだってそんなに、一生懸命に、……
傍の、明るい赤色へ、焦点の合わないぼやけた目を向けて。自身の黒い袋、資源の入ったそれをぐいと押しやった。金貨を押し付ける形。どのみち傷んだ腕では、あまり重い荷物は持てやしないから。(/*食料品を送付しました)
「え、蛇……?」
探し他人以外に注目するようあらためて周りを見れば、
それらしき存在が目に映るだろうか。ただ、自分は……
「ご、ごめん僕プールから全然出たことなくて……わからないや。
えっと、友達、なのかな。……大丈夫?」
「ここには来ていないと思います……あの、」
「質問を返して申し訳ないのですが、へびさんを襲った人に心当たりありませんか?」
答え、次いで問いを投げる。
そちらも急いでいるのはわかるので申し訳ないが。
こちらもたぶん……時間がない。
「……っ、……リリアンさん、知らない!?
魔法使いの、女の子!」
ロビーに入るなり少し声を張って。
周りの様子などお構いなしに問いかける。
みる限り、あの少女の姿はないけれど。
「……ごめんね。苦しみを長引かせているだけなのかも」
ぼやぼやへびさんを眺めつつ。そばに座り込む。
にんげんが近くにいるのも野生動物にとっては圧になるだろうが、
手当ては終えたとはいえ、このような重症で放置はできない。
犯人は現場に帰ってくるだろうか。
おはなしが、できればいいのだが。