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「気をつけま~す!」
ほんとか?
まあ、何にしても、こんな口やかましい奴、すぐ襲われるかまったく襲われないかのどちらかだろう……
「いってらっしゃい。お気をつけて……」
明るいうちに害されることはないだろうけど、しんぱいはしんぱい……。
「魔法…あったら手当てだけなんてケチなことを言わず、
すぐにでもここから出られたのでしょうが~…」
ないものはないですね。
「まあ、なんとかなりましょうとも!私も散歩にでも出てきましょうか!
怪我をしていると、あんまり騒がしくても落ち着かないかもしれませんし!」
「……うああ、魔法が使えればなあ……」
ないものねだりしてもしかたない。
「一時的に使用可能にならないかなあ……」
ないってば。
できる限りの処置を終え、あとは……休息が癒すだろうか。
へびの再生能力がどの程度なのかはわからないが……。
少なくとも失血で死ぬことはないし、しばらく休息すれば多少は治癒するだろう。ほんと?
//医療品を送りました。
「いいえ!話すことで、少しでも落ち着いたなら何よりです」
「それはいつだって同じことですが、手当ても集中力の必要な作業ですからね! がんばれ~っ」
「……わたし、……」
くろーんのせいで人が大勢しんでいるのと、生前助けた人数。
どうあがいても最初のわたしが助けた数より、くろーんが殺した人数のほうが圧倒的に多い。
それでも、
「違う、違うな。……わたしの記憶じゃない。今は、関係ない」
ナデシコはまだ一人も殺していない。
わたしは【 】ではない。わたしはナデシコ。わたしはわたしじゃない。
わたしはくろーん。最初のわたしに、準じる。
……わるいひとに否定されたとしても。
「……すみません。記憶が、混濁していて。変なこと口走っちゃった」
「ありがとうございます」
治療を再開する。もはや迷いはない。
「いってらっしゃいませ、ネクサスさま!」
「…………」
空いたソファーの裏に行ってみる。すすす……
「………そんなに良いものでしょうか? ヒトにとってはそうなのかも…」
「……よし、じゃあボクは散歩に戻るわ!」
そう言うといつものように、にこやかに去っていく
「おおきにやで~(共鳴)」
「もちろん、私もみなさまのことが大好きですよ!」
「最初から、あなたなんか居なければよかった」
「そう決めるのも、私たちではありませんよね?」
「いいこともあれば、悪いこともあります。それが人生というものだと聞きました。
あなたが居て、生きていて、本当に悪いことばかりだったでしょうか?」
「悪いことにばかり目を向けて、よかったことを見落とされてしまったら……それって悲しいことだと思います!」
ぼんやりと目を開け、そうしてまた閉じる。意識が朦朧としてはいるらしいが、手当をされれば死ぬことはない。
治療に対しては完全に無抵抗であるし、終わったあともぐんねり伸びたままなので試みたいことがあれば自由にできるだろうな。
「おおきにやで!テンちゃん!
大好きやわ!ホンマ感謝するで!」
「え~~しょうがないなあ~~」
「承知しました!このテン・フカセツ
誰に聞かれたとしても知らないと答えましょう!」
「手はあります。わるいひとの……」
「もちろん、嬉しいです、だけど……」
「わるいひとだって、わたしを生き返らせようとがんばってくれてる、痛いだけなら、わたし、耐えられます」
「無害なだけなら耐えられる。わたしが苦しいだけならわたし、我慢します、でも」
「うまくできなかったくろーんは実験材料です」
「紅紫(こうし)の怪物。……廃棄された、わたし」
「たくさんいる、あれ、わたしです。わたしのくろーんを改造したものです。自我はないけど、意識はあります」
「本能のまま、まいにちたくさんひとをころしています」
「あれが死んだとき、全部流れ込んでくるんです。殺したひとの、感触、表情、……罵倒、命乞い」
「ばけもの、ばけもの、かいぶつ。おかあさん、たすけて、」
「……わたし、……が、いなければ、こんなことには」
「…な、テンちゃん
キミとボクの仲やさかい。
誰かがボクを探しに来ても、【知らない】って言ってほしいねん。」
「なんと!私も今度試してみようかな ソファーの上だけでなく、裏も」
「おう、最近はソファーの裏がマイブームやねん」
「ごきげんよう、ネクサスさま!」
「そのソファーがお気に入りですか?」
「殺してほしいと、死にたいと思うヒトの気持ちは私にはわかりません」
そりゃあそうだ。あなたの気持ちはあなただけのものだ。
「でもね…そこに、あなたを助けようと差し伸べてくれる誰かの手が、もしあったら。
それで助かるか、助からないかは、わからないけれど。
でも、それは……それって、嬉しいことじゃないでしょうか?」
「邪魔するで」
短くそう告げると、ソファーの裏に隠れた。
「……わたし……最初のわたし、は」
手は止まったまま。
「……殺してほしいと願っています」
ぽつりと、わたしでない記憶が口からこぼれる。
「手も、足も動かない。声も、出ない。ずっと痛いんです、今も」
「無数のくろーんが、死んだ記憶が何度も流れ込んでくる」
「痛いし、苦しいし、悲しいし、寒いし、熱いし、こわい」
「殺してほしい、と、ずっと、願って」
……。
わたしには よくわかりません。
でも なにかをしているのなら
おいのり おいのり
するでしょう。
「いい言葉、ですね」
「
「…博士が言っていました。あるところのお医者さまは、それがどんな立場のヒトであっても──
たとえそれがヒトを殺すヒトであったとしても、助けに行ったのだと!」
「誰にでも、生きる権利はあるのです!」
「誰かが生きることを決めるのは、私たちではありませんが……
死ぬことを決めるのも、私たちではありませんよね?」
「がんばります、……!」
頑張らねば死ぬ。
最低限の止血を終え、傷の手当てに取り掛かる。
頑張ったところで。
昨日は二人。今日は推定三人。……明日は?
頑張ったところで。
……いたずらに苦しめるだけなのではないか?
手が止まる。
こく こく
へいわてきに うなづきます。
わたしは へいわなのよ ずっと ずっとね
みなみなー みなみなー
おくち ぱくぱく
「ミナミナ~(共鳴)」
音はないけど、動作を見て共鳴しています。
「それにしても…案外平和的ではないのでしょうか?
私の知る限りではみなさまそれほど余裕がないようには見えなかったのですが~」
蛍光色の赤を見遣る。
「はい、どういたしまして!」
「あとは僭越ながら応援させていただきます がんばれ~っ」
しあわせ それなら たくさん たくさん!
おいのりして みたしましょう
ふくろを つつんで おいのり おいのり
みなみなー みなみなー
「あ、ありがとうございます……! たすかりますっ、た、ただいま……!」
返答の順番がぐちゃぐちゃになる程度には狼狽している。
傷跡三つ。昨日より一つ増えている。明確にターゲットにされている。
喉。腕。……喉? 腕……いや、わたしのではない記憶だ。今はいい。どうでもいい。
とりあえずは止血。適切に処置を行う。重傷だ。迷っている場合ではない。