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口元は、血に濡れているだろう。ただし、傷が傷である。見ているうちにも、濁った音と一緒にばしゃりと血が吐き出されるだろう。それが返り血であるかの判別は微妙に難しそうだ。
さいごは ねずみさんはかんで しまうのでしたっけ
へびさんはどうなのかしら
あっちいったひとに てをふりながら おもうのでした。
「お役目を果たすことが、天使さまの救いなのですね~」
「それは私も同じこと!親近感を覚えました」
「お、蛇さん死にかけじゃん。いよいよって感じ?」
「ああいうの、最後のひと暴れとかあるよね。怖いしあっち行っとこ」
あっちに行った。
「生きているヒト…ヒト? 減ってほしくないですね~」
重症者らしきものを確認。ちら。
「うーん。ここまでの手当ては私にはできないかも…」
「……、ええ、天使も救われますよ」
「人間様方を救うことによってこそ」
「天使も救われていくのです」
「………………」
予想していた怪我人の姿は、予想通りにそこにある。
一人が付けたとは到底思えない、両腕の傷の量。……
……そして、今回は……その牙と口元は、血に濡れているだろうか。
天使の伏せた瞳は、ちらりとそれを窺い見る。
ちのにおい わたしからなくても へびさんからだったね
ごはんを たべながら よこめで かくにんしました。
「ナデシコさま、いってらっしゃいませ~」
「死の先に、救いがあるとしたら……」
「天使さまが救われる時は来るのでしょうか?」
物陰に、中途半端に蜷局を巻こうとして力尽きた形で、か細く息をしている。死んではいないが。
近づいても威嚇等は無い。そのような余力は無い為、好きにしてもらって構わない。
確認すれば、両腕に庇ったような無数の裂傷と、喉元がそれなりの深さで裂けているのが分かるだろう。幸いにも太い血管は傷つかずに済んだようだが。
ごはん!
わたしも たべます
ほかのかたも たべましょう?
ごはん おいしいです
おみず おいしいです
まいにち しあわせで いいのかしら
いいのです。
わたし いいこだもの
「もぐ……」
夕食時。なのでご飯を食べた。
おでかけですか? おさんぽかしら
でていくひとに おててを ふりました
おるすばん おるすばん
わたし とくいなの
「……」
怪我人を探しに行くべきか。死者しか出なかったわけではあるまい。
ふらりと立ち上がり、ロビーを後にした。
にこにこ にこにこ
したいさんが みえてても とくにかわらず
こわがるこえがなければ もとのとおりに なったでしょう
にこにこ にこにこ
「案外どこかで散歩しているだけ…だと、よいのですが!」
「杞憂で終われば、それ以上に良いことなんてありません!」
「……それに……過剰に恐れることはありません。
死は救いようのない絶望では無いのです。
魂はいずれ輪廻の元に導かれることになります。
私共天使こそは、それを保証するものです。」
──そうでなければ救いがなさすぎる。
「この世に救いは確かにあるのです。」
「……」
生きている人を、とにかく治療せねば。
死んだ人は治せない。生きているひとを。
だいじょうぶよ いのっているもの
だいじょうぶよ いいこですもの
おててを ハートに してから
おいのり おいのり
だれに? どこに?
わたしに てんしさまに
「大丈夫だって。…そっか、また行方不明、ね。」
「キミも気をつけて。葬儀必要なら、呼んで。埋葬出来るところあるかわからない、けど。」
「死者が出てしまったことに取り乱すのは、
誰にも死なないでほしい、と思っていたことの裏返し!」
「私は決して悪いことだとは思いません。当たり前のことですよ」
「行方不明、ですか。……フォーミュラ様が何処かへ行っていたことを思い出してしまいますね……。
もう少しお話を聞いておけばよかったかもしれません。
死、というのは生命様方にとって最大の出来事です。混乱してしまうのも当然のことですよ。」
「死者……そ、蘇生薬……」
手持ちの資源を見る。それを買えるほどはない。
「……」
しゅん。
「怪我人は不明か、すまない、ありがとう
どうか、落ち着いてくれ、無茶なのは承知だ。
ネクサスを見ていないか、解った」
と言うと、足早にここから去った
じょうきょうは わからないので わかるはんいで うなづいたり かしげたり
……そーぎやさんは だいじょうぶ なのかしら?
「……ごめん、葬儀屋さんなのに取り乱しちゃった。本当に、死ぬ人出るなんて思わなかったからさ。」
「オレは知らないよ、何も。ここにいた。」
「生きているものが死ぬのは悲しいことです。悲しいですね」
「ネクサスさまですか?私は見かけていませんね」
「黙ってどこかに行く方ではないでしょうから、心配ですね?」
「……怪我人につきましては、今のところ声があがってはいませんが……いるとは思われます。
死者については……ううん、どう表現するのが適正なものか……」
「そ、葬儀屋さん……あわ……」
葬儀屋さんの親しかった方がなくなられたのだろうか……。