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「……よかったですねえムー様!
私の望みは皆々様方が安らかで幸福であること……
笑顔を見られるのは嬉しいことです!ミナミナ〜」
あおいろてんしさまが はなすまでは
わたしは はなしません。
こんな えいよ わたしからなんて はなしません。
かわりに きらきらてんしさまに うれしい うれしいの えがおをみせます。
──しばらくは、ずっとこうしていたいな。
温かいぬくもり、人の体温、やさしさ。
それは人の言葉だろう。人を見守るための天使が獣に向けて態々獣の言葉で忠告はしまい。
よって、反応は何ら変わらない。
人蛇は仕留め損ねた君の首を噛み破りにいく気でしかないし、身を守る、という選択肢を選ぶことはないだろう。
それが氏に直結する行動であったとしても。
「………」
同じ天使としてもその宗教観は、細かい所……或いは根本で差異があるものであるが、
だからといって、この場で口を挟むような無粋はしない。
信じているものの仔細が違えども、生死の掛かった空間で紡がれるそれが、
どれだけの願いから来るものかというのは、わかっているのだから。
祈り、見守る。
てんしさまの なさることなら どんなことでも
にこにこ にこにこ ハグは すき
おかえしするの ぎゅーっとね
あたたかさは こどもたいおん
きっとあたたかい てんしさま
ふたりなら とっても あったかいわ
「……………。」
「アァ そうだ。」
蛇に関しては、それ以降ふいと顔をそらすだろう。
もう興味ないと言わんばかりの失礼な態度だ。言葉だけを投げる。
「あなた、このままだと殺されると思います。ついに人類の皆様もあなたの危険性に気がついたようです。」
「精々"警戒"でもしておいてはどうでしょうか?」
ごきげんハートがほほえましい。
あなたのことを、ぎゅっとハグしていいかしら。
──人の温もりをあなたに与えたい。
──人の温もりが、欲しい。
だいじな ことばかしら?
おてて もどして あわせておいのりにして
こくこく こくこく
かみさま かみさま
てんしさまたちが よぶなにか
きっと すてきね
きっと きらきら
もらった おことば
こくん のみこんだ。
にこにこ にこにこ
おなまえ あると いいことかしら
おぼえておきましょう
おぼえておかなくちゃ
おうちにかえったら すてきなおなまえ
さがして さがして てんしさまたちに おしえるの
にこにこ にこにこ
おてては ごきげん ハート です。
──言い残す言葉としては、こんなところかな。
「……ムーちゃん。
これだけは忘れないで。」
「死を恐れないで。感情のまま正直に生きて。痛みや辛さを忌避しないで。」
「それらは全て、糧になります。」
「"何も無い"人生よりも、ずっと。」
「健やかに生きてくささいね。」
「神様はあなたを見ていてくださいます。」
言語が通じずとも敵意は伝わろう。ぎ、と青い天使へ向けられた視線は深手を負った時に周りに振り撒いていた威嚇と同質のもの。
シュウゥ、と吐かれた長い吐息が友好的なものじゃないのはおそらく誰にでも伝わるか。
ぼたりと涎が床に垂れた。何を考えているかは非常に分かりやすいだろう。
自分が見られていたときとは違う目つきであることだな……この状況大丈夫かな……
……今は大丈夫でも後々は絶対大丈夫ではないかもしれない……
「息災のご様子で安心いたしました!……」
「……そして何より、そうした積み重ねが"最期"を穏やかなものにしてくれます。」
「良かったです。ムーちゃん。
いい笑顔ですね。うふふ。
神に祈れば……いえ、たとえ神に祈らなくとも。」
「良い経験をして、善い行いをすれば、きっと報いてくれるでしょう。」
「そしてそれは良い導きにもなりますし」
「いい刺激にもなります。」
「……そっか、ムーちゃん。ですか。
いい名前を貰いましたね。」
てんしさまたちが いるから たのしいわ
おいのりしてるから たのしいの
にこにこ にこにこ
きずひとつない わたしです。
──そして
「アァ 居たんですか。」
少女に向けた慈愛の視線とは全く正反対の、冷たい視線を蛇の方に向けるだろう。
明らかなる敵意だ。
「いい格好になりましたね。まだ満たされていないのですか?」
むーちゃんさまも むーさまも
にこにこ にこにこ
およびなら なんでも うれしいわ
覚えた。もう忘れない。
がち、がちと牙を鳴らして、青い天使に名残惜しげな視線を向けたまま、再び床に伏せる。
……次、次だ。次は絶対に仕留めてみせよう。
「それは、良かったです。
きっとあなたには良い道が示されるでしょう。
──どうですか? 生きるのは、楽しいですか?」
そう少女に問いかける。
「こんにちは、ミルメコエル様。
──おや、そんなに経っていたのですね。
はい、私は無事ですよ。 ──ホラ、この通り。」
表面上は。
こくこく こくこくこく
たくさん たくさん うなづきます!
わたし おるすばん できるのよ
わたし いいこに できますのよ
おこなって ますよ と
おててと おくちは おいのりの かたち
みなみなー みなみなー
「ええ、はい!ずっと祈って頂いているのですよ~。
ええと……ムーチャン様?ムー様……?
そう呼ばれていた気がするのですが……どっちがいいですかね……」
寛ぎきっていた姿勢から、勢いよく上体を起こす。脇腹へ受けた傷は当然塞がってはいない。無視出来ない痛みにびく、と肩が震える。
この匂い、この音、そうしてあの羽。
間違いなく仕留め損ねて探し回っていた獲物だ。ああ、まだ居たのか……
「……はっ、フォーミュラ様……!?
姿が消えた、と聞いておりまして、実際一日以上お見かけせず……
ご無事の様子……ですかね?でしたらこの天使ミルメコエル何よりでございます!」
「……ただいま。
うふふ、元気そうで良かったです。祈りは欠かさず行っておりますか?」
慈愛をたっぷり込めた表情を向けよう。
敬虔なあなたに報いるように。
「……ぃ、ァま!」
いっしゅん ふるえた おのどからは
ちいさな わたしに ふにあいの すこし ひくい こえ
それも あくへき の おかしなところで はねてしまう こえ
でも でも でも
あおいろてんしさまの おひさしぶりが うれしかったので わすれて しまいました。
──チャリ、チャリ……。
煩わしい鎖の音。一通り旅をしてロビーに帰ってきた。