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「……大変深刻な揺らぎ? なんだろう……地震かな。手当できる回数が増えるのはありがたいですね」もたもた……
「いってらっしゃいませ……」
「……資源の増量?」
放送に耳を傾け、手元。
「……確かに増えた感じがしますね。
……ここまで手を加えるのはちょっと意外……」
よるにみた ふわふわさん みたい?
でも それよりは みえているわ みえているの
だから だいじょうぶ
だから いいの
みんな いっしょに おいのり しましょ
「……ぇ、と。……わかり、ません」
「……突然暗くなったから、目が慣れなくて」
「ばたばた、足音は聴こえた……ような。ナイフとかで、傷付けられたとは、思います」
袖を縦に切り裂く形で裂創が残っている。
致命的な傷じゃないから、なにか、間違えたのかも。
「ただでさえ、襲われそうで怖いのに、消えるとか……」
少し震えた。
「そろそろ戻ろう…」
そういって子供は去っていくだろう
「僕は廊下の様子みてくるにゃ
皆もお気をつけてにゃ~」
てこてこ
根城にしていたのはシャワールームであるとはいえ、下手に動くと悪化しそうだ、という気配がある。今は動けそうにない。
緩んだ蜷局の上に頭をもたせかけて、……もうひとり、この場で血を流している者へと自然に視線が寄った。
今ここで何かをするつもりはない。そんな余裕はないが、
手負いであることと、その声と、姿と、匂いを、記憶に刻むには十分な時間。虚ろではあるが刺すような視線を送っていただろう。
「天使様が戻ってくると信じるしか」
「できることは」
気のせいだったような
ゆらいだ、ような
「私もどこかに消えてしまうとしたら、怖いですね……」
そういう少女の姿が
「はい、おかげ様で……。ではちょっとごめんなさい。痛みますよ」
がちゃがちゃと傍に手当ての道具を広げ始める。
傷の様子を見ても怯む様子はなく、わりと手慣れた様子で傷への処置を開始した……シーツもよい感じに役立つだろう。
じぶんの かおを ぺちぺち
おるすばん しないと
おいのりも しないと
あおいろてんしさま おかえり まってます
いいこして まってます
「僕の傷はもう血止まってるから気にしなくていいにゃ。
…シダにゃん、襲った相手はやっぱりわかんないにゃ?」
「かくれんぼじゃなくて消えちゃったの……?」
「ただでさえ、こんなに大変なのに…」
「……ナデシコさん。……無事、だったんですね」
「……痛くても、我慢します」
薄桃の髪の隙間から瞳を覗かせて。
膝を抱えさせていた腕を解いて差し出す。
裂創が痛々しくはあれど、傷は幸いにも深くなかった。
きえちゃった? とんじゃった?
まっていれば あえるかしら
いのりあれば あえるかしら
てんしさま てんしさま
まってます まってます
おるすばん できる いいこなの
「そもそも出口がないにゃ。
ヘビの人もずっと探してたようにゃし、随分前から…いないようだにゃ」
「……大丈、夫。……おち、落ち着け、たから」
「心配してくれてありがとう。傷は……ほっとけば治るよ」
「……ミケさんも、怪我してるのに、気を配っていただいて」
上手く呂律が回らない。膝を抱えて蹲る。
今日は、もう、何も起きない筈だから。
「よかった、手当出来る人がいて」
邪魔にならないように離れる
「そういえば、あの蛇の人も人探ししてたけど、こんな狭いところで行方不明なんてなるの……?」
「見間違いでありますよう……」
願う。
しかし少女は、その確率が低いことを知っている。
朝も昼も、3回ほど天使を探していたのだ。
「…今度は行方不明かにゃ」
「……いない」
青の天使を探しに行った少女。少し急いで戻ってきた。
「いないんです、どこにも」
「まるで消えちゃったみたいに」
ここがいちばん あんぜんよ
そう言うように にこにこ にこにこ
でるひとには おみおくり
いるひとには ほほえみを
「むにゃむにゃ……えっ うわあ」
ロビーのすみっこで依然熟睡していたがあまりの騒がしさに呻き、目……のあるであろう場所をこすり起き上がる。
珍しく大勢がいる。その一人ひとりに視線を投げかけ……でかいへびさんに視線が吸い込まれる。でかいので。
人の怪我を見たくらいで頭を抱えて怯えていたのに襲われたのか……かわいそうに。やはりまるまっている。はやく手当てをしてやらねば……。
次いでうずくまっているシダレさんにも視線が行く。あちらも刺されたらしい。立ち上がってもたもた箱に駆け寄り……迷いつつも女子優先。医療道具を持って、シダレさんのほうへと先に駆け寄った。
「手当てします。ちょい痛いですけど……我慢できます?」
「あっちは介抱して頂いていて、あっちは収まりそうで……
プールと倉庫は何もなし。つまり他に襲撃があったとしたら、
ここか廊下かシャワールームに留まっている方々かも……というところでしょうか……?
少なくとも現時点では二名……多数が襲われた、ということは無さそうですね……」
「ごめんね、気休め程度で、余裕があったらお薬くらい持ってくるんだけど、僕も助けられてる身で……」
「ほんとはナイフ持ってるって事も言いたくにゃいんだけど…」
仕方ないよな。
状況が状況、少なくともロビーに関しては。
「プールも倉庫も一安心にゃ。廊下のおにゃにょこたちとおじさんが心配にゃーね…」
「さて、ボクはプール戻るわ。
みんな、特に襲われた人はきぃつけや。」
─ああ、よく観察する者がいれば気づくだろう。人蛇の牙や口元に血の気配は無い。
襲撃を試みて失敗したか、そもそも襲撃する気がなかったか。前者の可能性が高いだろうが、後者だって否定しきれないだろうな。
「ね、な、きゃ……?ねたら、だめ」
「……は、はい。……わかりました」
膝崩れのまま足引き摺らせて、ロビーの壁際まで。
冷静に。冷静に。途切れさせてしまいたくなる意識を留める。
子供の力じゃ満足に止血は出来ないだろうけど、でも随分ましになった。そう思う。
「……ありがとう、ございます」