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「真面目な肯定や。消毒男も諦めたらへんやろけど」
「お前は阿呆やから…」
消毒男より…
「倉庫ちらっと見に行ってみるかぁ、結婚式影から覗いてみよ」
「ほら行くでアレン」
勝手に引っ張っている。
「ほなね」
「明日もいい日なりますように」
と。去るかも。
「寿命。…」
「なんや。そんなきっかりここの日付とおんなじことあるんやな。けったいなこっちゃ」
「あんたも災難だったなぁ」
「ほんまに。まぁ、こんなところで働かされて」
「ほんとは横になってるのが正解やろに」
「まあウチも呼びつけたですまへんかったけど」
「天使が…結婚式…?」
そういえば猫に嫁がいると言う話を聞いた時、倉庫に行けって言われてたっけな。
ふむ、と瞼下ろして。
「天使ならさっき倉庫にいたよ。結婚式してた。」
「寿命。」
1回だけ襲われたけど避けられたもので。
資材はまだある。
「来る前に、余命宣告されたんだよね。以て7日。」
「最近おかしーなーって思い始めたからもうすぐだろうなって思ったんだ。」
気づかれているのなら、過られているのなら、もういっか。
「いや真面目に肯定されてると虚しいが!?」
「秋月だって諦めてないだろぉ!?」
「二人……、ああ、あの二人か。
確かにあの二人なら賑やかだろうな、いるところは」
「……生きる自信でも、失くしたか?」
「せやけど……?」
他に誰がいるんや……??
「いや本当どっちもおらへんと静かやな。みなみなもおやすみか」
「どっちも別んとこ遊びに行っとんのねや」
珍しい。
多分天使は死んでないだろうし。昨日を思い出すと。
テンと呼ばれた子も死んでないと思う。昨日を思い出すと。
まあ葬儀屋の発言に耳を傾ければ。
「…」
ほう?
「それはまたなんでや。資材がないから?」
「それとも誰かに怪我させられた?」
「そうですか、……」
この環境だ。自害をする者も珍しくはない。
缶詰になる者も。
「理由を、おたずねしても?」
「ダッシュ諦めてない阿保って俺の事だったりしますシホさん????」
ツッコんだ。和ませられるなら、それでいい。
「終わるにしてももうちょっとこう、まだ猶予あるかもだし。
完全に脱出できない、って決まったわけじゃないだろ、まだ」
「…」
手が止まった。もういっか。
「生きようとしてる人たちには言えないけどさ、」
「オレ、もうすぐ死ぬ。」
ダッシュしてどうすんねーん!
脱出です。
「テンさんと天使様がいないとまぁ静かなものですよ、ここも」
にぎやかなのはよいことだが、静かなムードも悪くはない。
とはいえ、上の機械からは同じ放送が繰り返されているのだろうか。
「お気になさらず……みんなにやってるので」
できるだけみんなに。かつてそこに転がっていたへびさんとかにも。
「えぇ、……」
ひとりで死ぬよりはずっといい。
元の世界ではひとりぼっちでしぬことが定められていたこの怪物にとっては、この末路でも一切の損はなかった。
やっぱなんかおかしくなってしもたか…?と隣の人を見つつ。
大丈夫かな。この明るさ。去勢にも程があるぞ。
「あっちこっちおるよ、まだ人」
「まあ…死んだやつもおるやろけどな」
「アナウンスも流れへんもんで人数もわからんしな…」
「…」
話の部分の切り取り方が変。葬儀屋を見た。
胸をかくのを眺めた。
「まあな。硬いかもしれへんね」
「ま〜ダッシュ諦めとらん阿呆もまだおるけどな」
「硬いには違いないやろなぁ〜」
「穏やかに過ごしたいもんやね。ウチもあんたも」
「そうだね。寂しくない。僅かな時間だけど、まだ誰かしらいるだろうし。」
「そっか。終わったんだ。」
「固いこと?もうすぐ終わるっていうのが固いの?」
がり、がり。胸を掻いている。
「あ、怪我直してくれた人だ。あの時はどうも」
手を振られれば、手を振り返して。
「用事?話なら、終わったぜ」
「……そんな固い事言わずに。まだ、生きてるなら出られるかもしれないだろ。
ちょっと疲れたなら、休んでまた出る方法探してみようぜ~」
そんな、気楽にも聞こえる言葉を、言ってみようか。
数日の、気休め程度には、なれるかもしれないから。
「顔無し男。こんばんはぁ」
「子供も」
手を振替した。
今日は静かやな……と言いつつ。
「………」
葬儀屋。
淡々としてるのはそうなんだけども。
なんていうか、違和感があると言うか。やっぱり、ダメになってそうと言うか。
「プールでの用事?ああ、まあ」
「なるようになっとるんちゃうかな」
「どうも、……」
廊下で怪我してた人だ。元気そうならいい。
「よかった。……そうですね、みんな一緒。さみしくないです」
大丈夫ではないだろうとは考えるものの……これだけ受け答えができるなら、無理に休ませる必要もないだろう。
そっと定位置に戻り、人々を眺めることにする。
「ん、ただいま。」
調子は変わらない。ずっとこれだ。
「?大丈夫だよ。もうじき死ぬし。キミたちも、オレも。」
変わらない感情。淡々としている。
「あれ、プールでの用事終わったの?」
かえってきた そーぎやさんに てをふって
こられた ひとにも てをふりました
「どうも~」
同じタイミングで手を握られ、引き連れられてきた男が、一人。
「……そっちの調子はどうだ?」
「おかえりなさい、……」
立ち上がり、そろっと葬儀屋さんへと歩み寄る。
「大丈夫です?」
聞くまでもないことを尋ねる。
ここに花などない。あなたには一体何が見えているのだろう。
終わりの場所で心の慰めになる、きれいなものなら。
それはそれでいいのだろうか。
「おや、いらっしゃい」
入ってきた子に声をかける。
テンさんと天使様は不在。それはそれは静かなはずだ。
「邪魔するで〜」
のほほんとしている。
軽い見回りをしにきただけの人間です。
なんか静かになったな、ここも。
(好き?いいえ、座る)
戻ってきた。
何事もなかったかのようにソファに好き。
ては ふられたので でていくときも ふったのでした
おはな おはな きれいと いいわ
いいえ いいえ きっと きれいなの
ふわりとゆらぎ
しずかに 見送る……
「……大丈夫かな」
しんぱいそうに見送る。
外傷の手当てはできる。物資があれば。
精神の手当てはできないし、魔法が使えなければ病の治療もできない。
大丈夫じゃなかったとしても、もはやこの怪物にできることはないのだろう。
「あ。」
あ。
忘れてた。まだ仕事あった。
ソファから起き上がって、咳をして、出ていく。
「…」
手は振った。
ふわふわさんが ゆらめいていたら おててを ハートにして にっこりね
そーぎやさんが かえってきたら てを ふりました
そして なにもないところを みていたら おなじように みてみました
きっと きれいな おはな なのかしら
にこにこ にこにこ
「おや、おかえりなさい……つぼみ?」
葬儀屋さんに声をかけ、つられて天井を見上げる。何もない。
……。
「お疲れなのかな、葬儀屋さん」
戻ってきた。
今日の仕事はおしまい。
ソファに座り、何もない天井を視る。
「…」
「…あ、蕾が膨らんでいる。もうすぐ咲くね。」
不意に呟いた。
でも、天井には何もない。
幻を見ている。