葬儀屋さんであった日

葬儀屋は葬儀が好きだと思いますか?

まあ、私はそうではありませんでした。

仕事ですね。

それ以上でも、それ以下でもない。

ただ、身体に欠陥を抱えた私でさえ役に立てる社会が存在していた、

その事実だけは、少しだけ救いだったと思います。

じめじめとした職場で、たまに空気は重い。

それでも私は、社会の一員としてそこに立っていました。

死者が好きかと問われれば、そうではありません。

生者が好きかと聞かれても、同じ答えになります。

死に向き合うことが、確かな金銭として返ってくる。

その構造は非常に分かりやすく健全でした。

白と黒だけの世界で笑っている顔を見ても私は特別な感情を抱きません。

それでも生きている彼らは私に語りかけてくるのです。

――葬儀屋さん、ありがとうございます。

それはそのまま私の報酬になる。

だから、淡々と、そして正しく仕事をしました。

私は、それが嬉しかったのです。

 

  

   

……葬儀屋になって数年後。

忘れもしない【あの日】が訪れました。

阿鼻叫喚の只中で、世界は唐突に裏返り、

昨日までの常識を置き去りにして、まるで別の姿へと変貌しました。

……

私の元へ訪れたのは普通の女性。

彼女の見た目はごく普通に見えました。

 

『彼のお墓を作ってほしいの』

 

その声は穏やかで、手渡された金額も過不足なく。

恐怖も混乱もなさそうだったのを嫌なほどよく覚えています。

 

私には、その彼はまだ生きてるように見えました。

呼吸があり脈があり、何より「こちら」を見ていた。

それでも。

 

あなたが祈るのなら。

あなたが終わりを望むのなら。

私はその命を、預かるべきなのでしょう。

ならば弔いましょう。

死を与える役目を、私が引き受けましょう。

 

それが仕事であり、

それが、私の存在価値でしたから。

 

――死者を死者たらしめるのは、いつだって生者なのでしょうね