『廊下』
薄暗く、色褪せた廊下。一切の破損はない。
絨毯は水にぬれ、だいなし。
中庭に面した壁は割れない窓になっている。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
『記録[
『新規記録はありません』
ようやく全部が終わるのかな。
ああ、長い長い19年でした。
察するに苦しく辛い命だった事でしょう。
しかし藍は不幸だとは思いません。
藍はそういうものだったんです。
ですからこれはごく自然的なものなのです。
きっと最初から。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「あ、そうそう……。」
1つ言い忘れてたんだった。
「……藍さん、やっぱりあまりイケメンじゃないかも。
………でもカッコイイと思うよ。」
多分これは自分の感想だけど、この状態でもやりたい事だけしてる姿は最初に会った時変わらないから、
そこは一貫しててカッコ良かったよ、という感想。
例えそれが自暴自棄とかでも、死んじゃうよりはね。
「そうだね、さよなら、またね。」
ここが無くなるまでは…まだもうちょっと顔を合わせるかもね。
「それはそうすね」
こっちはいっぱい盗みましたよ。
今じゃ玩具にもなりませんけど。
晴れる日なんて来ないでしょう。
来たなら多分、死んだ後。
しかし藍はそれに対しても、「そうすねー」なんて。
そんな風に返すでしょう。
「はい、さようなら」
誰かといけると幸せらしい、ですよ。
「まぁ…交換しても出て来る物が微妙だけどね。」
そういえば一度も棚から資源取れなかったな、まぁいいけど。
「…雨、止みそうにないね。
なんかの気まぐれで晴れたら、消えちゃった人はちょっと可哀そうかも。」
多分そんな気まぐれは起きないって分かってるけど、
まだ生きてるから何となくそんな事を言いたくなった。
「……そろそろ戻るね、ブランシュが待ってるから。」
待ってる人がいるから、自分は個室の方に戻ろうかな。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
ひらひらには応えます。
最初に会ったのも、ここでしたね。
「そうすね。食堂の棚も今なら取り合いになりません」
普通の人なら感傷的になるのかも、です。
藍にはちょっとわかりませんけど。
タバコ吸ってる…と思いながら片手をひらひら。
最初に会ったのもここだったっけ、とか考える。
「……人、減っちゃったね。おかげで広々って感じ。」
少し意外に思われそうだけど、人が減った事にはあまり感傷とかは無いかも。
普通に減ったな、としか思わない。
「あーあ」
何だか全部一緒になっちゃいました。
そんなのも眺めています。
何の感慨もありませんけど。
それに何の意味も見出せませんけど。
「結構減ったのかな」
あとはもう、数えるくらいしかここにいないんでしょうね。
廊下に出て中庭を見る。
また何人か消えちゃったな…と、見たままの感想を浮かべる。
自分とブランシュは話し合ってこの先を決めた、残念ながら自分から命を手放す選択肢は無い。
自分が知ってる人が何人残ってるか分からないけど、
多分もう顔を合わせる事はほとんど無くなるんだろうなと思い、
廊下を見渡す。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
どこか行こうかなとか、そんな気も起きないんですよね。
だってもうすぐ全ては喪われるのに、何をする必要があると言うんでしょうか。
布団の上の死体はそのまま。
約束は取り付けた方から反故にして。
今かろうじて生きているものは最期をやってる。
だからやっぱ、何の邪魔もしないって事くらいしか。
やるべき事が無いんですよね。
誰もいなくなっちゃった。
煙草もあっさり燃え尽き、いよいよ何にも無い予感です。
「んー」
あと思いつくのは酒と、使い物にならない蘇生薬を買ってみるくらいで。
数日ぶりにスマホが無い不便を味わっています。
何せ藍はもうお別れだのとする必要がありませんから。
しかし自ら死にに行く事も無い。
避けずともそれは訪れてしまうから。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
なーんかあらぬ悪口言われてる気がしますけど。
まあ良いです。
ここからは何の声も聞こえないし、届く事もありませんので。
スパ……スパ……
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
「あと出来る犯罪……」
特に味も感傷も無い煙草を吸い込み煙を吐き。
反社会的な行動について考えます。
それくらいしかもうやる事がありません。
何という退屈でしょうか。
いっそウケます。
捨てるのはもったいないので、仕方なく咥える事にします。
うーん、煙です。最初から最後まで全部煙だと思います。
「みんなこれを吸ってたんすねー」
有難がる意味はやっぱ、分かんなかったかも……
「煙゛」
噎せたりはしませんでしたが、何か。
煙、ですね。これ。
火事の煙吸い込んでるみたいな気がします。
美味しいとか不味いとかの次元じゃないです。
何か藍には早かったかもです。
早速それを手に取り、ちょっと眺めます。
昔に父が吸っていたのとは多分、銘柄とかは違うんでしょうけど。
ついてきた安っぽいライターで火を当てて、一息──
藍 は 嗜好品 を得た。