『中庭』
雨の降る中庭。
石造りの噴水と、石のレンガによる舗装がなされた中庭。
緑はなく、殺風景。手前の方だけ庇がある。
空は一段と暗く、雨も降り続け止む気配は無い。
扉があいている
『記録[
『新規記録はありません』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
その先がいかない。いけない。
ああ、こんなことなら介錯でも頼んでおけば良かったかな。けど、あんな真面目ちゃんにこんなのを任せるのも違うんだ。
この先がいけない。
結局、何処までも自分が可愛くって仕方がない。恐怖も痛みも脳も何もかもを溶かしているのに。
死にたくない。
ナイフを深く刺せない。ただただ、小さな流血が流れるだけ。
この先にいきたくない。
なんで死んでしまったんだ。
僕が君と手を繋ぐ度胸があれば良かったのか? 君にずっと付き添ってやれば良かったのか?
全部お前のせい。自分が傷つきたくないから、絶対にお前のせい。
君よりもマシな死に方をするんだ。
ナイフを自分に向ける。
胸に立てかける。
静かな所を探してみたけど、何処もかしこもイカれた人ばかりで。結局は此処がちょうど良かった。死の気配しかない。死の予感しかしない雨の音。
「っはははは」
気分は上々。廻る世界か、己が回っているだけか。もうどっちでも良かった。片手にキセル。片手にナイフ。甘い匂いと他人の血の匂い。だけども血が付いてるのはキセルと身体にだけ。ナイフはまっさら、新品だ。
初めての殺人は自分自身。人を殺す度胸も無ければ、信じる心も無くって。
ドブ川に死んでた幼馴染だって信じてなかった。あんな奴、
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
とてもおおきなシャボンの雫は。
だれにも割られる事はなく。
ゆっくりと地面に着地して。
ぱっと綺麗に弾けました。
追いかけていた三つの影も。
キレイなシャボンに囲まれて。
ぱっと弾けて消えました。
「ふたり、とも……」
溶けかけの意識の中で。
ふり絞って出た最後の言葉は。
「だいすきだよ」
いつかのあのひの、ちいさなこどもの、あいのことばなのでした。
どん、の声で一歩。駆け出して。でも、決して本気の走りじゃなくて、戯れるような、そんな、緩い走り。追い越して、追い越されているのかも。
「……うふ、あはははっ……!!」
泣きながら出た、その声。
綾川の、初めての。本当に、心からの笑い声。
……ねえ、2人とも。
ありがとう。私に、____
────『どん』
そのスタートを聞いて、猫も走り出しました
きっと、みんなシャボン玉を見ていますから
猫の頬を伝う
何よりも優しい雨には、気が付かないでしょう
猫は雨が、嫌いでした
でも、雨は涙を隠してくれますから
猫は、最後に
──雨を好きだと思えました
「それじゃ、いくよ。」
ふ~……………………。
今までで一番優しく、空気をストローに送り込む。
先端のギザギザから離れる頃には、バスケットボールくらいの特大の。
おおきなおおきな虹の雫ができていました。
「……いちについて」
「よぉい」
「どん」
一歩を踏み出す。
「………さあ、準備できた?わたしは、もうできてるよ?」
笑いながら、涙はやっぱり止まらなくて。
___ごめんね、最期まで泣き虫なわたしで。
「……いいよ。…私だって、負けないからね。」
涙は、止まらない。綺麗で、それでいて、いろんな感情が混ざり合って。止めることが難しかった。
でも最期ぐらい、縋って。楽しい終わり方をしたって、いいんじゃないか。
私達は、十分、足掻いただのだから。
そうだ。だって、ここで過ごした時間は、嘘じゃない。
きっとそれは、最後のわがままだったのでしょう。
猫はそれを聞いて
どうしてか、込み上げてきた思いを必死に抑えてから
「猫相手に、そんな勝負を持ちかけてくるとは」
空笑いにもよく似た
だけど、確かに満たされていた笑い声が出て
「負けませんよ」
最後くらい、元気に猫らしく
人としてありたかった、猫らしく!
その勝負に付き合ってあげようじゃありませんか!
「僕が一番大きなシャボン玉を飛ばすから、さ」
「僕と綾川さんと猫ちゃんでかけっこしてさ」
「……誰が最初に触れるか、競争しようよ?」
狂ったのではなく。縋った。
おかしさを自覚しながらも、優しいウソに付き合って欲しかったんだ。
だってもう、ふたりは本当の家族なのだから。
百パーセントの嘘じゃない。
ありがとう。
こんな弱い僕を受け入れてくれて。
だから。
もうちょっとだけ。
最期のせーのに、つきあってださい。
「じゃあ」
「じゃあ、さ。」
→