『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「もう兆候とか出てんのかあ? 痛いか? それとも案外ヨかったり? 俺見たいなあ〜!!」
…避けられぬ死に多大な精神的負荷を持っているだろう他者に対して取っていい態度では当然無い。好奇心だけでの軽薄かつ非道徳的な要望は、今のところ口での野次だけだ。今のうちに殴るなり追い出すなりされても文句は言えないだろう。
「私も、不思議な力が使えないならと思いましたが……ほら。」
髪を触ると、汗に混じって黒い液体が混ざっていた。
「もう、遅いんです。」
寝返りを打つ、大声だらけでも相変わらずぐっすりのようだ。
「今を楽しもうぜ…」「もう食べられない……」「舐めたらアカン……」
空気の読めていない寝言がたまに聞こえてくるか
「……ちょっとタイミングは悪かったですか。」
自分のこれを話すタイミング。
でも話の流れとして仕方ない。
「ちょっとだけ、勘違いしてます?
御子は、18の誕生日を迎えると『成融の儀』を行うんです。
村の聖域で、七日間掛けて、この身全てを聖墨とするんです。
とっても、とっても、素晴らしい事なんですよ。」
「なのに……ここじゃ、それが出来ない。
ただの汚れ、ただの黒い液体になってしまう!」
「超常的な現象なら、オレ達の力が封じられるのと同様でな~んも起きなくなってるカモね~」
「そうじゃなければ骨や髪だけ残んのかな?」
医者というものは、実は嫌でも非科学的なものに触れる機会が多い。
こういうものに効能があるのは鏡や紙垂、紙垂棒…、あとは塩や…それぞれの元となるものに効果がある何か。けれども…今は何も、思いつかない。…何も、手元にはない。
「………どうした、ものかな…。」
「…」
彼女が死ぬ。となれば、おそらくここで、御子の血も途絶えてしまうのではなかろうか。
そうなると、彼女の故郷は…おそらくとんでもない騒ぎになっているだろうか。
けれども…見ても考えても。自分達にはできることがない。そう結論づける他なかった。
「何か…その祝福を弾き飛ばせるものでもあれば…止められたかもしれんが…」
「あ〜〜〜」
「溶けても意識あんのかなあ? 感覚器官がダメになっちまうなら無理かあ? ヒトの体積がそのまま液体になるならそこそこの量だろ…?」
「人間の形の型があるといいな?」
笑い声にもさして態度は変わらない。軽く身は乗り出したかも。興味はかなりあるらしい。
「…………、えっ、と……」
猫は驚きましたが、身体には出さないように
必死に抑えました。
今寝ている人を起こさないためでもありましたが
それよりも、様子の変わった人を案じているようです。
「…………それで急いでいたのか…。」
「その儀式なんかがないと君は御子としてどころか、人としても生き残れない…そういうことか…?」
とりあえず周りの聞き捨てならん話は一旦全部置いといて。
それならば、急いで脱出しなければならないことにも合点が行った。あの日、あんなに慌てていたことも。
「実際問題。キノコ然りキズ然り、舐めたら体に害があることは間違いありませんから」
「舐めてないにしろいずれ舐める予定があるにしろ、くれぐれも体にはお気をつけて下さいね」
スン……。
「そうだぞ流石に口に含むものは選んでるだろ〜 せいぜいナイフとかだよ」
憶測も憶測だし多分もっともやらないやつだし。困っているのを明らかに面白がっている…
「知ってる人が居て良かった。」
お医者様。綾川さんの反応を見ると笑った。
「私は残りの日数が経つ前に、きっと溶けてしまいます。」
<「その辺の!黒ずんだ汚れと同じになるんですよ!
あはははっ!!!」
狂ったような笑い声を上げた。
「マジでそんなことしてたら生きてないから!そんな無謀なことするアホじゃない私は!!!!」
えっと…なんの話から派生したんだっけ…これ…
医者は考えるのをやめた____
「ここまできて誰も考えを改めてくれないから叫んでるんだろうがあ!!!!」
朝からずっとこんな調子で。流石に息切れはしていますね…。
>>9597
「…いいの?いいなら聞かせてもらおうかな。」
「あぁ、確か溶けて…液、k………」
そこで何かに気がついたか、ハッとしてあなたを見る。
「…まさか…………?」
「そんなに大きな声出してたら疲れちゃいますよ、お医者様……」
「大丈夫、分かってますから……誰もあなたを否定しませんよ……多分……」
ニコ……。
「そんなに叫ぶと喉を痛めるぞ。枯れる前に、水でも飲んでおいで。」
心配されている。
「大丈夫だ、ここ以外では口外しないと約束しよう」
勘違いもされている