『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「これ以上の犠牲を出さないように、とは……仰っていたような気もしますが……」
その言葉すら、どうなんだろう。
少なくとも毎日葬式をするつもりでは
なかったようだったけれど。
「本来のお葬式であれば騒ぐべきものではございませんものね……静かな場にすべしと参加を見送った貴方様は大変素晴らしい心配りだったと思いますよ。」
おー。カッパの子じゃんね。元気そうでうれしーぜ。
蘇生薬なぁ。あれ高すぎてぴえんなるで。話しかけてくる雨うるさすぎぱおんで買えんでにゃおんなってる。
「話によれば、『蘇生薬』の為に資源を集めようとしてた……とか」
「猫は外から軽く聞いただけですので、よく分かりませんが」
しっぽがゆらり。ゆらりと。
っぱパーティーではなかったんだな。
マブダチちゃんず。残念だったな。アタシが居ればパーティーにしたというのに。
このララララランが空気読める良い女だからだぜ。ヤバいだろ?
「へえ〜………? 毎日葬式やる気なんかね」
その話が出たあたりは睡眠タイムであった故に、面白そうな話題を逃した気配がしてちょっと悔しがっている。葬式?顔しか分からんようなやつの?
凄いぜ。死体な、メイドさんとかお医者さんが処理ったんだぜ。
ありゃ仕事人だで。みんな将来の夢メイドさんって書こうぜ。アタシはあれをかっけーと呼ぶぜ。
「葬式……といえば、そうですね」
「弔いだとか、そういうのらしいですが」
猫はそういったことに興味はありませんが
少し不快感を覚えたそうで。
「猫は覚えていますよ。皆さんのこと
人柄も」
「ん」
「………死体、動かした? のか? 誰かがパクってんじゃねえよなあ?」
久しぶりだったり久しぶりでなかったりする顔ぶれにやんわり挨拶しつつ…時間を置いて顔を出して、まず気になるのはそれらしい。ちょっと前に遺体が安置されていたスペースを覗いて訝しんでいるけども、……死者の安寧を願うのであればこれに在り処を教えるべきではないだろうな。
「……………防衛本能ってやつですかね」
眠って行く人々を見ながら。
「……僕は、此処に来てから記憶が飛んでるんだ。
自分の職業と今の自分の事しかわからない。
自分の名も忘れたままなのは、謎が残ったようにむず痒いもの。
いつか辛い思いをしてでも、僕は僕だったものを取り戻します。
…それに『大事なモノ』を忘れたまま生きて行くのも死ぬのも、辛いじゃないか」
独り言のように呟きながら書き込みを再開した。
寝る前に人々の声を子守唄に考える。
考え事に夢中で、話は全く聞いていない。
あいつが、あそこまでヘイトを集めて、やりたいことは一体何なんだろうか。
それに、あれをされた人々が可哀相でならない。死人に口無し。呪われても仕方がないほどの仕打ち。
霊を怒らせてはならないと、良く言うけど。
………果たして彼は大丈夫なのだろうか。
「……ふす~………」
まあ、今はこれ以上考えても仕方がない。みんなの無事を祈りつつ、眠りにつこう。
「多くの方が眠るような頃合い、きっと夜も深いのでございましょう。」
何時なのかは……時計を持っていないのでわからないけれど。
「ですので、こんばんは。」
入れ替わった顔ぶれにはそう挨拶を。
「空はいま渋滞してるんだ、陸からで我慢して」
「……声の大きなあいつ、やったんだ。酷いこと」
知りもしない相手の葬式なんて、まあ。
冒涜的な死体の利用にしかならないだろうね。
「やっぱこの時間だと寝てるヒト共多いなあ?」
エントリーと同時に寝に移行していく人々を確認することになったかも。見知った顔共に機嫌良く手と尾を振っとこ。
「おやすみなさいませ、皆様。このような場ではございますが……良い夢を見られることを願っております。」
皆が眠っていくのを見守っている。
これはまだ、眠れないようだった。
つええな、綿積ちゃん………
なんて、医者はひっそり思っていたのでした。
「…おう、おやすみ。……とりま、アタシも寝るよ。んじゃおやすみ……」
角度によってはソファの背から手だけひらひら見えてたかも。おやすみ~
あの人、今はっきりと殺すって言ったな……。
小耳に挟みながらも口を一文字に結んでいた。
「……じゃあ、俺もそろそろ寝させてもらいますね」
「皆さんもどうかお気をつけて」「また会いましょう」
小さな声でそう言えば、適当なソファの上で小さく縮こまって。
全方位に対して警戒しながら意識を沼の底に落としていった。
「殺…………」
クロスを握る手、びく、と跳ねる。
怯えているというよりは、やべ、
とでも言うような反応に近い。
「もちろん、そんなことは致しません。綿積雫様のご厚意に仇で返すような真似、このユウガオは絶対にしないと誓います。ええ、本当に。ですから、はい、ご安心してお眠りくださいませ。」
そろりと徐々にテーブルクロスは畳んでいく。
乙女心は下手に刺激するべきものではない。
「……優しい人ほど、怒らせちゃダメ…ですね」
まさか『殺す』なんて言葉がこの人から出るなんて、猫は予想もしてませんでしたから。
撫でられることは嬉しいですけど。
ちょっぴりクロスの匂いとやらが気になったのはここだけのお話。
さて、明日はもう少し警戒しておかないとな。
何せ、記録時間に自分の状態を色々話してしまったし。
まあ、相変わらず向こうが得するほど増えては居ないのだが………しておくに越したことはたぶんないだろう。
「おや、意外と警戒されないものだね?」
うりうりと頭を軽く数回撫でれば、ソファにもたれ込み入眠の構え。
「…………あぁそれと寝る前にひとつだけ」
「ユウガオさん。もしそのクロスの匂いをほんのちょっぴりでも嗅ごうものなら殺すから。」
「それじゃおやすみなさい」
いつもと変わらぬ笑顔でそう言い切った。