『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「………頭痛がして苦しいなら無理には思い出さない方がいい。そいつは脳がふたをしてリミッターかけてる証拠だ。」
無理やり思い出してもいいが、あんまり推奨はしないぞ、と。何せ心を守るための反応だから、記憶と向き合えなければ壊れてしまうこともありうる。
「ん」
一度撫でさせた人ですから、もうそこまで警戒もしていません。
それに、『死体』が出た時も誰よりも優しい反応をしていましたから。猫は貴方のことを中々に信用しているようです
「おやすみなさい、です」
「僕もアレは嫌ですね。
下手な知ったかぶりで語られたくはない」
わかりづらいがちょっと不機嫌な顔だ。
「…まぁ、僕は内容より言葉が頭に
何か引っ掛かったような気がして。
思い出そうとしたら何故か頭痛や眩暈が…」
「式自体に問題があったんですか」「……」「冒涜、ですね」
勝手に想像して、勝手に気分が悪くなっている。
「……発する言葉を信じない、聞かない、見ない」
「それしかないんじゃないでしょうか」
ぽつ、ぽつと呟いて。
寝る人にはおやすみなさいとペコペコ。
「あぁ。ゆっくりな………」
そう言えば、自分もソファに横たわって。
ロビーの入り口が見えるところに陣取り、入り口を睨み付けていた。
「アタシだって、葬式と称して変なことされるのは御免だね。あんたの感覚は間違ってないさ。たぶん、それは最早葬式じゃないし。」
そう、軽く慰めて。
「………あいつ、どう警戒したものかね………。」
狂った人間ほど、怖いものはない。
リミッターが外れた人間は………もはや人では抑えられないほどの力をも持つときがあるからだ。
「さてさて、僕はもう寝させてもらうよ」
「流石に眠気が勝ちつつあるからね」
よっこらしょ、なんて掛け声を出しながらナチュラルに猫ちゃんの隣に陣取る。
最初の頃ほど警戒心はなくなったようだ。今日もシャワー浴びたし。
「……只今戻りました。わたくしは、問題ございません。ただ、その少し……やや、思っていたのとは違った式でありましたので……」
疲れたように、薄らと笑う。
「わたくしめは忍耐がなくていけませんね……故人を偲ぶ場だというのに、その、自分がもしも死んだ際に、あのような式が上がるのかと想像したら……気分が悪くなってしまいまして……逃げ出してしまいました。」
「………まあ、少なくとも君のせいではないとは思うから。振ったのはそうかもだが、わざわざ話をしたのは彼だし。」
そもそも、その前の話で信用以前の問題になってしまったようにも思える。
「……やっぱりあの人、猫は嫌いです」
きちんと不満を漏らしました。
猫は気まぐれですが、時には変わらない強い思いを持つこともあります。
それに、普段とは違う様子のあの人を見れば
そう思うのも尚更です。
「おかえり、なさい」「無事……では、あんまりなさそうですかね」
「エキセントリック。溝が深まった」「……やっぱり、蘇生薬云々の話だったんですね」
戻ってきた人を見れば。数秒静かになってから、普段通りにぺこ、と頭を下げて。
「やあやあ、ただいま」
「いやはや何と言うべきか……なかなかにエキセントリックな式だったよ」
「…………正直、蘇生代の話を彼にしたのは失敗だったかな。より溝が深まったように思えてならないよ」
それはそうと、明日から彼が集中攻撃を受けないかだけが心配かも。
信用できる出来ないはまあ一旦おいといて、私怨でボコボコにされるのは普通にかわいそうだから……。
テーブルクロスはこちらが被っている。
顔色は……分かり辛いがお陰様で、
些か良くはなってきた。
湿り気残るその布はぎゅっと握りしめられていた。
まるで幼子が不安げに、親の服の裾を握るかのように。
人々の姿が目に入れば、静かに礼だけはするだろう。
「アタシが死んだ時にあんなことされたらたまったもんじゃないぜほんと。やろうとしたらやったら呪い殺すって言っといてくれ。」
あと、あいつの言う私のことは信用しないでくれよ………とも。
「あ、お帰り。」
「元から信用無さそうでしたのに」
そこはちょっと気の毒かもしれませんね。
実際のところは、分かりませんが
それなら、帰ってきた人を見れば
心配はありつつも、ちょっと嬉しげにしっぽが動くのでした。
「……探偵さんがそうなるほどのこと、言ってたんですね」
「信頼以前の問題にまで、なってそうですね……」
ポツポツ、呟くように。戻ってきた人には首を垂れて挨拶。
「…でしょうね。
本当は残って、問い詰めたかったのですが
どうも調子が悪くて」
自分以外にも出て行く人は多かったな。
同じように気分が悪くなったのだろう。
「………ま、正直……彼の身から出たさびというか。信用度ががた落ちしたのは確かだから。」
だんだんと相手にされなくなってくるんじゃないか?なんて。
正直、この女もその線を疑っているし。
「さっき、あんなギスギスな空気でしたのに」
「ほんと……よくやりますね」
そこだけは褒められるべきところでしょうか。
もっとも、猫には人の『死』を使った自己満足行為の一端に過ぎないことだと思っていますが。
「ま、何にしろ何かやらかしたんなら………確実に資源持ち逃げするだろうがな。」
まあ、そういうやつなんだろうと。あれ、たぶん変な方向にいきゃ、集中攻撃だが………大丈夫かな………。
「あぁいや、気にしないでくれ。正直、何やらかすか気にはなっていたからな。それに………」
「あれの被害者はたぶん、君だけじゃないし。」
廊下の方へも少し、騒がしさが漏れていたからね。
「あぁ、なるほど」「蘇生薬で蘇生」
「……現実的じゃないとは、言いたくありませんが」
あまり出来るとは思えないな、とぼんやり思考。
「………あぁ、資源………てことはマジであれやるつもりなのか………」
事前にどうやらそこら辺の話は聞いていたようで。
「たぶん、4人全員蘇生薬で蘇生させるって言ってたから、それでもするつもりだろう」
副作用もわからないし、そもそも本当に蘇生薬を買ってくれる保証もないワケで。そこで限られた資源を提供してくれるやつなんて恐らくほとんど居ないがね。
「資源を集めたいだけなら、もっといい方法があると思いますが」
「……何が目的なんでしょう」
猫にはよくわかりませんでしたが。
どうせ録なことではないとは予想していました。
「まあ、ほんと…見事に自爆してくれたようだね。」
大変カスである。止めなかったのはおそらくこのため。
「ふぅ、怪しいもんは泳がせとくに限るね………」