『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
>>18146
「……おはようございます」
不安定そうな少女に、そっと声をかけてみる。
怖がらせないよう、驚かせないよう、自然な感じで。
「………中庭が開いたんだ。停電の後。雨には当たりに行かない方がいい。………私の目の前で溶けていった、から。」
何かあったのか、という問いかけには、最小限の話をする。なるべくギリギリ、言えそうなラインを探って。
ふと、考える。いや、考えていた。
資源。中庭で溶けて死ねば、そのまま吸収されて、資源になる。
………それって、最初から私たちは人の血肉を食べていたことに………
ダメだ、興奮してきた、考えるのはやめよう
肩で息をしている。
切迫感焦燥感諦観弱音寂しさでいっぱいになって、
落ち着くために深呼吸。
宝物のように手にした羽に口付けた。
「あぁ、おはよう…。」
多分、モニターの近くではないはず。
医者はというと、挨拶が終われば、モニターをみてため息をついていた。
また、増えてる。
「ンン"………」
目が覚めたらしい。
傷は………昨日よりマシだ、動けそう。
でも身体がミシミシ言ってて痛い。
いやまあ、ここに来てからはいつものことなんだけど。
ゆっくり身体を起こしている。起き上がれたらソファに座ってだらんとしてるだろう。
「フォッ」
起きました。
「はよーす……うぇ」
相変わらず凄惨な事になってるモニタ前から目を背けた。
もう、どうしたらいいんだろうね。
「戻って……ないか……」
モニターをぼんやりと眺め、協力者もまだ身体を休めている頃でしょうか。
殆ど気力だけで活動を続けている。
(去る探偵の心知らず。気付いたとしても普通にすれ違ったように手を振って見送ったのでしょう)
(紫陽花はきっと、赤く赤く染まってた)
── 観測状況、概ね良好。誰も彼もが希望と絶望をぐちゃまぜにして呑み込んでいる。
観測不能地域に行った人々が多かった場合のことは考えておこう。見れなくなってしまうから。
「……」「これでいいのかな?」「良いでしょ。上等だよ」
カウンター越し、ロビーを見渡していた少年。瞳を瞑って、意識を落とした。
——そこにいたんだ。
…随分と、酷い死に方だ。
この惨状を見るのも堪える。
いや理解したく無い。
…仲良く、お取り込み中みたいだ。
罪人の自由にさせてあげよう。
その場を後にします。
それもここに引きこもりしてたら取りに行けないところまで含めてなんかヤダー。
今更要らないけどさ、それでも折角物があるのにーになる~。
『資源倉庫への追加資源を配置しました』
レジたーんレジたーん。
……うーん。首ちょっと切るの下手だったなやっぱ。
まあ締めるのもキツい言ってたしこんなもんかなぁ。
(モニターの下。正常ならば目を逸らしたい惨状)
(姿は三つあり、一つは長身の男性の死体)
(その横にまだ生きている腹を切られた少女)
(そして……その隣に、探偵の探す人物……だったもの)
(首をざっくりさかれた、紫陽花の死体が。少女に抱きしめられていた)
目を閉じた医者が気配に気がついたか、目を開ける。
………お探しの死体は、貴方の目の前、モニターの下に。
入江さんと、タチヤマさんと共に横たわっているだろう。
入江さんは、誰かと話し込んでいる。
ロビーにやってくる探偵。
モニターを確認する。
すでに数名亡くなっている事を確認した。
その中で一つ。
——紫陽花の死体を探している。
「……」
「もしもどこかに行きたいとお思いでしたら、私が杖となりましょう。」
「このまま、で良ければそれでも良いです。」
「貴方が決めることです。」
就寝のため、離脱します。すみません。
「………」
死ぬだろう。それは恐らく、この空間に居る皆が感じていることで。
「………力に、なれなくて、すまない………鷹宮くん………」
小さく呟いて。ソファの上で、そっと目を閉じた。
「死にたくない……」
ほんの数日前に芽生えた気持ちを、ぽつり。口にした。
「ええ……そう、言わないと、受け入れてしまいそうになるの。
アンのところに行きたいのに」
全てを享受してきた蚕の巫女に、逆戻り。