『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「うんにゃ、大丈夫…。」
乾いてたらしくそのまま着た。嫌な鉄の匂いが前より少し強くなっただけらしい。
「こんだけで貴重なアルコール消費させるわけにもいかないし…。」
少なくとも名前は分かってるし、会話もしたからな!
ラララちゃんだぜ!かわえやろ。
元気でチョーハッピーじゃんね。雨音うるっせぇけど一緒に元気元気してこうな!
「えっ」
えっマブ!?の顔。お名前も聞いてないのに……。
「えと、」「その」「まぁ元気です」
「あなたも元気そうで良かった。元気じゃないより、良いですから……」
へへ……(自嘲気味の笑い声)
「まあ、頼り甲斐ある人だよね。」
しっかりと気を、己を持っているような、そんな人に見えた。
「…」
自分の白衣の臭いを嗅いでいる。…残ってるな…。
っぱメイドさんパネェよな。尊敬でなりたみ増してくるぜ。
んで大丈夫?うろうろしてるけど。行きたいところあったら連れてこか?
悪くないんだ。じゃあ良い感じだな!ヨシ!!!
あたしちゃんはマブが元気で嬉しいぜ!!!
(会って秒でマブ認知する不審者である)
「………アタシらとメイドさん…と…葬儀屋の人かな、で片付けたよ。」
幸い、手伝う人数はそれなりにいたようで。片付くのは早かった。
「…そういや、白衣そろそろ乾いたかな…」
やべぇ。式までやるんか。
……流石にパスかなぁ。パリピったらド怒りでぽおんなりそ。
つかここも死体あったんか。片付けたってことは、メイドさんとか来たん?
「………」
眠いというのは嘘で。まあ、暇だから寝る以外することも特段ないのだけれど…
「あぁ、いらっしゃい。食堂で追悼式してるんだってよ。アタシらは…普通かな。死人はさっき出たけど…もう片付けたし。」
「そうですね、皆様で、無事に」
出ることができればいいですね、と微笑んだ。
飛び込んできた姿にはちらりと目を向け、
ほんの少し……考えるような素振りをする。
「食堂、でございますか。また妙な場で葬儀を……といっても、相応しい場など他にあるわけでもないのでしょう。……わたくしは、顔を出して参ります。皆様、どうぞご自身の思うようにお過ごしくださいまし、ね。」
行きましょうと誰かを誘うわけでもなく、
緩やかに食堂へと向かって歩き出した。
「皆で、生きて」「……」
「そうですね。生きて、戻りましょう」
来た人をぼんやりと見て、去る姿にはお気をつけてと声をかけた。
「や、おかえり。そういう事ならば食堂に向かわせて貰おうかな」
「ところで少し聞きたい事が…………行っちゃった」
「ホントに大丈夫かな…………」
少々脱力気味に食堂へ向かうのでした。
「本当、何にもないのが1番だったんだがな。」
現実はそうもいかず。とにかく、皆が1日でも早くここを出られることを願う。
「あぁ、おかえり。…そうか、誰か行くならお気をつけてな。正直、アタシもぼちぼち眠いし…。」
「プールにも結構人がいらっしゃいますね!プールに喧伝しに行くので、私めの食堂への到着は遅れるかもしれません!
それでは!」
他人の返答を聞かずに、出ていった。
葬儀をやると言っていた男が戻ってきた。
「皆様!私めが弔辞を送る葬儀はロビーやバンケットではなく、食堂でやることにいたします!
ロビーやバンケットで寝始めた方が居そうだからです!食堂ならまだ活発……(モニターを見る)活発で寝ていなそうなので。
お付き合いくださる方は、食堂までよろしくお願いいたします」
「……皆で生きて脱出しよう」
「皆の協力があれば、亡くなってしまった人たちだって蘇生できるかもしれないし」
「希望は0じゃないはずさ、きっと」
そう祈る。
頭では理解している、到底全員で出れやしないと。
それでも祈らずにはいられない。それがきっと、僕の弱さ。
「弱さもまた武器……そうでございますね、ええ、きっと。」
「わたくしめはただ単に、醜く生き汚いただの人でございます故……そのようなものからの言葉、祝詞にすらならないでしょうけれど。」
「皆様がこのような場であってもなお、皆様らしさを失わずに荒れたらどんなに素晴らしいか……とただただ、願わずにはいられないだけでございます。」
「善い人間かは自分じゃわからないけど……貴方がそう言ってくれるなら信じてみる事にするよ」
「ありがとう、肯定してくれて。たとえ君の言葉が全て嘘っぱちだったとしても救われたよ」
「君も善人を名乗れると思うよ、きっと」
「……」
これなら。少なくとも、ここはまだ大丈夫そうだ。
「弱さだって、決して全てが悪であるとは限らないからな。まあ、こんな状況で思考して、答えを返せるだけでも十分とも言えよう。…強さも武器だが、弱さもまた己の身を守る武器になりうる。…ここでも、強さだけが全てではないはずだからね。」
自分たちがどうなるかは…まだ誰もわからないのだし。
「恵まれていることを恵まれていると自覚できること、それはきっと、立派で有ることでございますよ。」
穏やかに、諦めたように、
息を吐くように笑ってつぶやく。
「わたくしは綿積雫様のお考えも肯定いたします。」
「貴方様のお考えはわたくしから見れば……善き人間の考えで有るように見えますから。どうかそのお考えが、汚されることがありませんように……。」