『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「…………悪いね、この状況に僕も少々参っているんだ」
「少なくとも、君の意見はきっとここでは多数派なんだろう」
「……お互い、最後まで生きていられたらいいね」
去っていく背中をじっと見送った。
猫は、どうにかしたいと、手を貸したいとは思いましたが
また……言葉が出てきませんでした。
気まずい空気を感じたのか
猫は静かに、どこかへと去っていきました。
最後に小さく、「……にゃー」と鳴いて
「ただいま…。」
ロビーに足を踏み入れた瞬間から感じる。
何か揉め事でも起きたか、と言うふうな重苦しい空気。
「…何かあったか?」
そう聞かざるを、得ないような。
「ンン……俺が何言っても刺激しそーね」
立ち上がる。
新境地開拓にはいい機会
「知らない奴を減らすためにもどっか行くわ。
生きてたらまたな〜〜」
「……初日に襲われる方々が出てきた時点で、DREAMが何も言わない時点で、覚悟はしておりました。」
「出来ることは、…死なないように生きるだけです。」
「死人が4人も出てるんだぞ……!」
「そして、多分。殺そうとして、いや。殺しに手を染めたヤツだっているはずだ」
「みんな同じような状況で、困って……つ、辛くって……帰りたくって……」
「同じだったじゃないか……!みんな同じ苦しみの下に居たじゃないか……!」
「なんっなんで、平然と踏みにじれるんだっ……!苦しみを分かち合っていく道だってきっと……」
シャワー室でひとり、頭を冷やしたはずなのに。
今更になって頬が熱を帯び始める。
<s1>「…………泣いちゃ悪いかよ」</s1
猫と人の価値観の違いもあるのでしょう。
……いくら『死人』が出ると前から予想できていたとはいえ、確かに淡白すぎるほどではあったかもしれません。
猫は、特に何も言えませんでした。
ただ……喧騒が起きないように、そう思いながらロビーを見ていました。
「仕方ねえだろ? 知らん奴に同情するほど暇じゃねんだわ俺ァ」
悪いとすら思っていない態度。
「どう言ったって、死体が……4人か?
できちまったのは事実だろーよ」
「なんだ? それこそそいつのために泣けんのかよ?」
「関係ない人間で良かった……なんて、僕はあまりそう思えないな」
「思っても口に出しはしないけれどね」
苛立たしげに。呟くように吐き捨てる。
「人が何人も死んでいるっていうのに。この部屋の誰かが死んだ誰かと親しくしていたとは考えないのかな?」
「そもそも淡泊すぎやしないかい……?おかしいじゃないか、死んでるんだよ?人が……」
塗れた髪を額に貼り付けながら棘のある言葉を意味もなくまき散らす。
「…フゥ、ちょっとアタシタバコ吸ってくるよ。」
徐に立ち上がって、白衣のポケットからそれらしきものをだして、喫煙所の方へ足を運ぶのだろう。
「(…向こうは多分、そう言う人が居たんだろうな。)」
霊安室には、食堂で活発だった人や、昨晩ここで目覚めたばかりのサラリーマンらしき人が居たことは、今は黙っておこう。
「ん? そりゃとーぜんだろよ」
見知った顔が死ななくて、良かった。
人として当然ではないのか?
「冷酷なんてこんなとこじゃ言えねえよ。
思ってるけど言わないだけさ」
「猫も、同じようなことを思いました」
話したことも無いような人でしたから
まだ……、マシだったのでしょう。
これでさっきまで話してた人が『動かなく』なっていたら……と、考えると。
「あぁ、大丈夫だったよ。さほど苦労するわけでもなかったさ。」
辛いなら無理は禁物だ、こんな状況だし、と。
「……すまないが…白衣にアレの臭いがついてしまった。拭うのに貸すのは……少し憚られるな。」
臭いが写ってしまうことや、嫌な臭いなことには変わりないから、と。とりあえずまたカウンターに干してはいる。
「大丈夫かと言われましたら……
……身体的には、皆さんに怪我はなさそうです」
取り乱したりがいちばん良くないと、猫はわかっていましたが。
そういった人にかける言葉を、知らなかったものですから。
「あー……もう運び終えてしまったのか」
「何か協力すればよかったな……」
プールにでも落ちたみたいに全身濡れっぱなしで帰ってきた。
服は多少水気を切ってはいるものの、ずんぐりと重く暗く湿っている。
「………」
起きている人の中で、怪我をした者はいなさそうだったが…それ以外がわからない。他に眠っていたりする人たちは、まだ生きてはいるようだったが…それ以外はここからじゃ見えないのか、まるでわからなかった。
とりあえず、動かしていたソファを元の位置に戻しておこう。
少し服を湿らせて、女は戻ってきた。嫌な鉄の香りが、少し濃くなっている。
「戻ったよ〜…大丈夫か?」
精神的にも、身体的にも。死体があったせいで…他に襲われた人の確認すらできていなかったから。
「………」
ソファの横で、状況は把握した。
あぁ、こんなにも早くだなんて。
「……確実に、いた。」
「えぇ、私は……心当たりがありました……けど、何もしなかった。見えなかった。そんなのもう…みんな、死ぬしかない…」
「杖の代わり、と言ったら……
まぁ、誰かに肩を貸してもらうことでしょうけど」
今の状況じゃ、信じるに値する人はいるのでしょうか。
猫は助けたいとは思いましたが、どうしても小さいものでして。