『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「……言った側が、と思われるかもしれないんですが」
「食堂の方にも尖ってる部分は無いです。見まわしたので、分かります」
ロビーにも無い。廊下とプールにも食堂にもない。バンケットにあるとは思えない。
……。
「へへ……」
自嘲気味の笑いで誤魔化した。へへ。
「尖った所……うーん、俺この建物あんま散策してないんでわかんねすけど、どっかにあるかもしれないすね?」
「廊下とプールにはなさそうでしたけど」
「…………」
尖ってるとこ………ないかも。ドアの取っては引っかけになるかもだから体重かければいけるかもだが…これは服が伸びそうだし…。
「ま、まあ、ね…。うん…。」
「歯を、使うぐらいだったら……」
「何かしら、尖ってる場所に引っ掛けて千切る、とか出来ませんかね……?」
そもそもあるのかな、尖っているところは。
「7割か~。6割になったらアウト、と……なるほど」
ふむふむと少年の言に耳を傾けて。
「ネコチャン、爪切られて大丈夫なんすか?」
寝てる間?に切られてたなら大丈夫かもしれんけど。
「……歯は使えないか?いや、まあ…あんまり得策じゃないが…」
歯で穴を開けてそこから裂けないかということらしい。
ただまあ…歯へのダメージも多少はあるため…。
「いつもの猫なら手伝えたのですが」
「あいにく、爪が丸まっていて」
この『room』に来る前は尖っていたはずなのですが
ここに来てからは誰かに手入れされたように綺麗になってしまっていました。
「そう、ですかね。ならよかったです」
「一応……知識には、自信がありますから」
ナイフに怯えている人もいるな。不安げにちら、と見ていた。
「水分は身体機能の色々なところで使われるらしいですから……」
「大人は7割程度だったはずです。それで、10%もの水分を失うと命に関わり始めます」
気をつけて下さい、と。
「……迂闊な発言だったかな」
思いっきり動揺してる誰かからはあえて目線を外しながら。
「となれば他の方法で上手く千切るしかないか……」
「やれやれ、せめて厚着してくるんだったよ」
「それがいいと思う。正直アタシはもうあんな修行みたいなもんは御免だ…」
ひんやりを思い出してまた顔色が悪く。
にしてもナイフに過剰反応したりしなかったり…なんか…どっからどう見ても情緒不安定すぎる…。
「誰も持ってないなら安心…」
「別のとこ行けば持ってる人いるかもだが…」
「あぁ……そんなに冷たいんですね…………」
「じゃあやめときます。他の方に風邪移ったりしちゃったら申し訳ないですから」
潔くやめた。一週間なら風呂に入らなくても平気……なはずだ。
「な"っ」
「ももも持ってないからな」「ないぞ」「あっても向けるんじゃないぞ」
ナイフに過剰反応…怖がってる?なんか、どう見ても怪しい女です。
「ナイフな〜」
うむむ…と考えて。
「わり〜…そういや受け取りそびれたんだ。んだからね〜かな〜」
パス失敗のことを思い出した。
「水ってそう考えるとすげ〜な、上手くできた生物でも無いと動かないんだろ?
食べ物より余っ程生命握ってんな〜」
「プールの方にある。ただめちゃくちゃ冷たいから…あまりおすすめはしない。特に小さい体じゃ…直ぐに風邪を引いてしまうかもしれないし…。」
これはただの心配。地雷を踏んでしまっていたら申し訳ない。
「ぬく風呂はマジそれな~って感じ笑」
それ。
「あ、俺は持ってねーっす。なので千切れもしなかったんすよ袖」
ひらひらと素手を振る。
「3~4日すか~…………」
万が一資源が足りなくなったとして、七日後まで生きていられるかな……とか考えている。
「人はパンのみで生きるにあらず、とか誰かさんが言いましたけど。
水のみで生きるのもキツいもんがありそーっすね」
それでも一か月いけるのはすごいと思った。
「猫は水なしで2〜4日くらい……
ご飯なしで1週間〜2週間くらい生きられます」
猫ですから、自分が死ぬラインはよくわかっています。
何度も……経験しましたから。
エア肩ぽむをされています。そんなことをされているとは少しも思っていないが。
大きい人を見て大きいなぁというような顔をしていた。大きいなぁ。
「シャワー……。あるんですね、ここ。どこかのタイミングで浴びてこようかな……」
「食料は3週間、水は3日ですね。3の法則っていうやつでしたっけ」
モニターとスピーカー……とは呟きながら辺りを見てみるか。
カウンターとモニターとスピーカー。色褪せてるな、とはぼんやりと。
「あぁ、大体3日〜4日が限度だと言われているね。まあもちろん体調にもよるが。」
「逆に水さえあれば1ヶ月ぐらいは余裕で生きられるよ。不思議だねえ、人の体というのは…。」
まあ、健康上良くないのは明らかだけれどもと言った感じで。
まあ、今は健康云々は正直どうだっていいのだが。
「いっそのこと水垢離だと思って浴びるか……」
「タオル代わりに服の裾でも千切ってしまおうとも思ったが……素手じゃまず無理だな」
「誰かナイフのひとつでも持ってないかい?」
「本当にソファ色々あってオモロだな…」
と言いつつ誰も使っていないソファの背に寄りかかろう…それでも尚デカイ。
「人生にぬくーい風呂と良いことあれってね、俺も思うワケ」
「水といやあ、浴びは別に無くてもいい……っすけど(葛藤)、水は無いと乾いて死んじまうらしーすね。
確か水なしは3日でしたっけ?飲み水も一緒に配給されるのは有り難い事すけど」
話題逸らし。