『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「はぁ、また暴走してしまった………」
しんなり。ここに来ての暴走はたぶんはじめて。
「縫い付けられてるだけなら………どうやってくっついてるか不思議だな……。」
色々言おうとしたが、また暴走が始まりそうだったからか眺めるだけに。
「わたくし、ですか……?」
自分に話を振られて、少し逡巡する。
「ふふ……内緒です」
「……と、ここで言えればよかったのですが……」
頬をかき、また少し考え込む。
「わたくしは、ただの、書店員ですね。図書館司書とかもやってましたけれど」
「またね〜笑笑」
「この耳とか、縫い付けられてるだけだったりしてね」
虹色の尻尾は望み通りに動くから、そんなことないのだろうけど。
「天使を売るとはまたぶっ飛んだ………あぁ、気をつけて……。」
たしかに、売ればいくらになるのだろう、なんてちょっと考えたりしちゃったり。
「私だって臨床実験とかしたいのに………!!」
外科医、嘆き。
「いや、道具がないからしないよ…流石に麻酔無しは一種の拷問だ……」
テンションがお帰りになられたようです。よかった、これで止まるはずです。
「持って帰れないかなー」
「天使連れ帰って売ったら一生遊んで暮らせそ笑」
難しい話に飽きたのかふらっと席を立つ。
「他んトコいってくる!またねー笑」
「ああ、すまない………しばらく多忙で研究なんかをする暇がなくてだな………火が着いてしまった………」
なんかめちゃくちゃイキイキしてたからむしろそっちの方がよかったかもしれないが………まあめちゃくちゃうるさいしそろそろ静かになろうね………。
人間や人間の怪我への興味が薄いところを見ると、この医者もいわゆる変態というものなのかもしれない…。考え出すと興味が出てきただけの話かもしれないが……。
「……調べるには…道具、ほんとになにもないな………荷物さえ生きてりゃ色々あったのに………」
残念そう。
「私たちが勝手にここへきたのを見ると、持ち帰ることは大変難しいと考える………。」
「あー……研究心に火をつけるのも良いが、ほどほどにしたまえよ」
「医者の本文は研究でなく救済だと思うのだがね」
そろそろやんわりと止めにかかる。
こっちも乗っかっちゃったからね。
「とりあえず体毛の1、2本はもらっていけば良いんじゃないかな?」
「僕のアレルギーも反応しないあたり、あの猫くんも僕らの世界の猫と違うのかもしれないし」
「あとはまあ、怪我した時に治療のついでで詳しく見るくらいだな」
「僕個人としても彼らへの興味は止まないね」
「ホルマリンはあくまでも死んだ臓器の長期保存のための物だ。中身を見るだけなら必要なのは後は麻酔と針と糸ぐらいで………メスならナイフで代用ができる………ただ血液や体液のサンプルなんかは試験管が必要で………」
どんどん早口になっていく………そろそろ地の分が追い付かなくなるぞこれ
「いやでもサンプルがあってもここじゃなにも出来んか………道具もないし……でも縫合用品さえあれば…」
ねえ、怖い、お願いだから止まってくれよ
「彼らのサンプルが欲しい!!中身の!!」
カッ。
色々考えた結果、医者としてというか、ほぼ研究者として、体内構造だったりどういう薬品が効いてどういう成分が毒か………とか色々頭のなかで繰り広げられていたらしい。
「しかしながら人型がベースになっているのは気になるところだな。ベースが猿から進化したのなら翼や猫耳を持っている事に違和感を持つし……進化形態以前に物理法則からして違うのかもしれないな……そうなると逆に我々との類似性が気になるところだが」
つられて語り出している。
お話長いよー?
「まあ………あの辺はワケと言うより人種………というか種族が違うんだろう。科学的に証明することはできんが………他の世界に他の種族がいるというのも、全く不可思議と言うわけではないからね………」
なんか長々と言ってる。
「勉強が全てという訳でもないさ」
「人との出会いとかやりたい事を見つける場所にしたって良いし、何より最後のモラトリアムだからね」
「就職に怯えながら過ごすと良いよ、僕みたいに」
フフフ…と少々暗げな笑みを浮かべている。