『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「……………。」
しばらく硬直した様子で浴びせられた言葉をゆっくりと咀嚼していく。
「なるほど、まだよく状況を呑み込めていないけれど……一種のクローズド・サークルといったところかな?」
「7日後に助けが来る、というのも楽観視できそうにないけれどね」
「……っとと、一番大事な事を忘れていたよ」
「はじめまして、だね」
「そういえば!ユウガオ様は人員把握に熱心でございましたね!それはもう、私め以上に!
そこで提案がございますが、もし私めがここに居ないときに誰かがやってきたら、自己紹介を促せませんか?
映し出された画面の名簿と照合して頂きたいのです。もし、私めに踏み込んでくださるのであれば把握した人員の共有もお願いしたいのですが……」
「排水溝…それは盲点でした…!
はい、行きましょう。」
「小規模の大海原は矛盾してません?」
ツッコミはさておき、プールへ足を向けた。
「おはようございます!はじめまして!そして、我々は動く分には自由ですが閉じ込められています!扉は締まっております!雨の止む7日後に助けが来るそうです!
5点で状況を理解できますでしょうか!申し分あればお願いします!」
「お休みになられる方は、お休みなさいませ。」
「なるべくお早く帰れるといいですね……わたくしめは脱出口などに用はございませんが、これも何かの縁、わたくしめも見て回る際に少し探してみるとしましょう。」
「ええ、村のために帰らねばなりません!(なんとなくで同調している)
プール……いいかもしれません!水回りを把握すれば、窓がなくとも排水溝から脱出の手口が見つかるかもしれません!(適当を言っている)
ささ!皆様お眠りのようですので、出発いたしましょう!いざ、小規模の大海原へ!」
「…………んん、知らない天井だな」
隅っこでぼんやりとしながら体を起こす。
「……弱ったな、記憶がなくなるくらい飲んだ記憶はないんだけれども
やれやれ、どうしたものかな」
ふぁ〜、と大きな欠伸を一つ。
雑談やら何やらをぼんやり横聞きしたりしていたが。
漸く他の場所を見に行く気になったのか、緩慢な足取りでロビーを出ていった。
「……?」
何か言ってる?
余り聞こえなかった。
「村!村へ帰るのが一番優先です!
その為に……ええと。」
どこへ行こう。
大体の場所は、人から聞いただけだけど、何も無かったらしいし。
「やっぱり廊下…いや、プールかな?
窓なら頑張って割れるかもだし。」
「獲物が星……???」
「365日が一年が共通???」
余計分からなくなった。
騙されやすい性格?
「うん……きっと、私が居なくなったら村が大変。
時間も無いから……」
「村の皆が、ここを探し出してくれないかな。
間に合うといいな……」
「ええ、私めで宜しければ他の部屋を知りたかったところですので、ぜひ夜草様のお供に!
行きたいところを仰ってくださればついていきますよ!それはもう、空の見える丘でも、都会でも、村でも!まず脱出が先ですがね!」
「え、誰か覚えててくれんのそれ。
きろく? 紙とペンは金持ちの特権だしなー」
地獄に落ちた日の光景はよく覚えているけれど
「じゃ皆ガクシャサマかなんかか。
イーねぇ、金持ち。金はいいよォ」
「…………」
虚ろな目をしている、眠い、のだと思う
眠るどころか、息すらできていなかった
のだから
「綾川遥希様、お休みなさいませ」
「夜草織様は御子様で御座いましたか、それはそれは大変尊いお方なのでしょうね……ともすれば、不在は確かに騒ぎになることなのかもしれません。」
自分の村とは違うだろうけど、きっと大ごとになってるに違いない。
そんなことを考えた。
「無限の可能性を信じるのなら、星の形が違うこともあるかもしれません!
面白いことに、皆さんは多種多様でございます。格好の年代も違い、存在する人体の部位も同一ではありません。アルカンシエル様と私めでは耳の位置が異なっております。
しかしそんな我々にも共通点がございます!365日、365日の周期です!
このように共通点を探っていけば、相手のことも閉じ込められた原因も分かっていくのではないでしょうか?」
「やさしい狼だっているよ〜。
それに僕の獲物は星だから、雨粒ちゃんのことは食べないよ」
「儀式に御子に、気になるワードだねえ」
昔はただ祭りの合図だったっけな、でも最近は文脈が変わってきた。生贄やらの因習がセットされる。
「コンテキストね。よろしくなのだわ!」
「……バンケットには親切なひとがいた。
今はもう寝ているかも知れないけれど」
「それって星が365日で周期を終えるからでしょ?
僕たちみんなの世界で太陽の位置がおんなじってことかな。カミ様は世界をコピーペーストしたのかも〜」
「ロィナ様もよろしくお願いいたします。私めはコンテキスト。モニターとご照合くださいませ!」
「ふむ……まだここしか把握しておりませんがバンケットに食堂、おそらく室内プールもあるのでしょうね。
脱出の手がかりがあるか確認が必要なら、よろしければ一緒に回りませんか?」
「私の知る狼は、もっと獰猛で恐ろしい物だった気がします……本で読んだたけですが。」
虹色で人語を話す、生まれたばかりの狼なんて知らない。
何なら犬でも初めて見た。
「私は、七日は待てません。
本当なら、今直ぐにでも帰らないといけない。」
「私は御子だから……」
「まあ、プールとか、個室よりマシ、かな………。探せばまあ、いい部屋もあるかもだが………あたしゃもうつかれた………」
ごろん………
「プールに中庭に……食堂やら何やら、と」
「おやおや、これはなんとも、大冒険の予感がいたします明日は出歩くといたしましょう」
呑気にしている
「うん、納得行かないだろうし。自分の目で確かめてみるのが一番かも………。これで割れる窓だったら………やだもんね………」
あたし割れるかすら試してないし、と付け加えて。
「はぁ、そろそろ、瞼が限界かもね………」
ソファでモゾモゾしてたけれど、ついに寝る意思を固めたのか、ソファの上で横になってまるまり始めます。
「1年が365日である以上、自分の生まれた日という区切りはなにか祝うときにうってつけなのでございます!それだけ自分にも他人にも都合がよいのです。最も大きく祝われる話だと、誕生日どころか自分の誕生した年を新たな歴史の0年目としたという眉唾モノもございますよ!便利でございます」
「オオカミだよっ!?」
イヌ科ではある。八割くらい正解。
「帰ってきたってことは、他のトコよりココがマシだったのかな~?」
少なくとも眠るには。