『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
んー……まあ呻いてたらやめろってのも無茶か。
処置はえと、おねーさんって言ったら伝わるんかな。
おねーさん本人に任せた方が良いと思うんだかんな。
(死体の間の癖に、正気ツラして言ってる)
「しずくさんは、大丈夫ですか……っ?」
怪我や傷ではなく
─その心─
猫も資源はあまりなく、これ以上のことは正直厳しいのでしょう。
誰かを気にかけて、気にかけられているでしょうか
「え」
おかあさんのおなかから、あかい……赤い……なにか、が。
違う。知ってるだろう。
こういうときはいたいのとんでけってすれば……痛くないって小さいころから母さんが……。
いつまでそうして呆けているつもりだ。この意気地なし。
助けなきゃ。今度こそ。絶望の淵に沈む今だからこそ。
猫 ですは綾川 遥希に医療品をおくった
ナメられを感じる~~~~~。
こう、別に嫌いだからとかでやってないけど、ナメられたらそれはそれでヤだ~~~~。
(もーーーとぷんすこじたばたすれば、両側の死体から中身が溢れてくる)
(それを、勿体ない、と雑に戻している)
つーかやっぱ名義を変に使いおって。それならもう逆に黙ってやればよかったんじゃねーの?
「……っ」
「安静にしてればなんて、猫は思えません……っ」
気休め程度、気休めにもなり得るか分からないけど
ひとまず、まだ余っている資源で
「質はメチャクチャ落ちてるが、無いよりマシなぐらいかね〜」
「ン〜もうペロリーとか言ってる余裕もないカンジだ」
やってきては、モニターも傍目にぼやいている。
「夢を見て互いを刺して集団自死。他人にまだ危害を加えるなら2人のことを貶めてしまおうかと思ったが、入江様はやらないでしょうね。
被害を最小限に抑えるために自身に全襲撃を集中させようとしたときの、私めのロビーでの非礼や食堂でのヘイトスピーチをせめて入江様にだけでも詫びましょう」
「よかった、鷹宮様もいますね。愉快犯でなかったとなるとモニターの死者は
「き、傷…開いちゃ、って…。それ、だけなら…よかったん、だけど…」
無理をして動いちゃって。余計に傷口が割れた。
でも、それだけだ。それだけで。
「赤猫、さん、…大丈夫…安静にして、れば…うぅ…」
戻ってきて、早々に
「綾川さん……っ!?」
何が、……っ、傷……っ!
包帯、医療品………………
そうして、ショップに並べられた……
『包帯』なんて言うのもおこがましい、
布を見て
「は……?」
「……」
そうして、青い顔をしながら、帰ってきた。綿積さんと、猫さんを連れて。
まず、話を色々整理するつもりだった。先に、2人の様子を見ようと思っていた。けれど。
…さっき、無理をしたから。ごめんね。
「う"ぅ"ぅ"っ"…!」
痛みに耐えかねて。近くのソファの座面に、崩れ落ちた。
「……。」
中庭でも、見に行こう。
きっと青空は見られないだろうけれど。
見るだけ見て、その後は……
あのヒトのことでも待っていよう。
それくらいしかもう、やれることがないな。
ん。
何言って良いか分かんないけどさ、繭の子ちゃん。
……頑張れるんなら、頑張った方が、後で後悔しないぜ。
(そう、意思を込めた言葉で送り出した)
「……ありがとう」
嘘か本当かは分からない。
側にいただけのあの子が落ちたから。
それでも、ここでずっと待っているよりは、ずっと、ずっといい。
虫のようにゆっくりと、移動を始めた。どこでもいい。行きたい場所は一つ。
いや全然今からやっても良いぞ。誰かに危害ってやつ。
(死体のまんなか。死体と腕組んで、体中を真っ赤にした姿)
アタシちゃんがあまりにも強靭過ぎて生き残ったが、全然オモロそうならやっても良いんだぞ。
んーとな。
動いたら『落ちる』らしいんだわ。
だから、天使ちゃんが何処に居るかは分からんけど、少なくともここではない、と思う。
移動してたらなんて、ムズい事だけどもな。ごめんな。アタシもよく知らんで。
チンタラしてロビーに男がやってきた。モニターを見る前に見てしまう、食堂でヘイトスピーチの対象にした3人。
そのうち2人の死体が、なければモニターに2人の死亡表示が。
「……ハナから、誰かに危害を加えるつもりはなかったわけか」
恐らくは、3人で──
ここまでくると、寧ろ、驚かなくなってくる。
なんだ、そっか、そういうものなのか、と。
「……拙い、拙い、物語ですこと……」
辺りをただ、眺めていた。
「ええ。
一人じゃまともに歩けないの……。
這ってでも、どこかに、行くべきかしら。
ここであの文字が変わるのを、待っているだけじゃ、どうにもならないかしら」
身をよじって、ゆっくり手足を動かして、ソファから降りようとしている。
……繭の子ちゃんさ。
一人で歩くのとか、苦手な感じ?
探しに行ったりとか、むずかしそ?
(置いていかれて)
(冷たくなった両隣の彼らの間で、蚕に問う)
蚕は一人寝返りをうつ。
願いは一つ。落として欲しい。
ただあなたのいる場所へ。
落として欲しい。
何処へも行けない、何の力もない。
死にゆくまでをただ待つ躯。