『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「......」
ヒト二人だったものはきっと一緒の子がどうにかしてくれるんだろう。
ここにいても、すべきことはなさそうだ。
「うそ……織、さん……」
そうしてようやく気が付くだろう。
帰って来ない。むしろ、見知った顔がまた一つ、奪われた。
交わした言葉こそ数度だけれど、
その近しい境遇から、巫女はその『御子』を心の内に留めていた。
希望を失って、あなたと同じ気持ちになったかな、なんて、心を巡らせていたものだけど。
おっ。アルカンちゃん虹出してくれんの?
超楽しみなんだけど!
ってうわ。めちゃくちゃ頑張って帰ってきた人居る。
帰りは運んでくれんかったん?、
(二人の死体に挟まれて、自分とその二人の血に塗れた少女ひとり、モニター前に)
(嫌でもモニターを見る人の前に見せ付けてくる)
あぁ…せめて。せめて私が生贄に、彼女らが、彼らが、出れたらよかったのに。
「……うん、大丈夫、だね。」
医者は、声だけは、静かで、落ち着いていた。
「……だ、だいじょぉぶ」
「だいじょおぶだよぉ……みーちゃん」
「こわくない、こわくないだからねぇ……」
今にも泣き出しそうに口をへの字に歪ませながら、暴れ出す猫を必死に宥める。
今になって、あの時と同じ、優しく気遣いの込められた手つきが耳の間を通る。
「おかあさんもしずくもいるから」
「だいじょおぶだよ……?」
「そうでしょう?おかあさん」
「不運だか罪だか……ッ」
「知らないよ……っ!!」
「猫は、まだ諦めてませんから。
猫は……、まだ!抗ってやりますから……ッ」
例えそれが『落下』でも。
懐かしい音がした。
憧れた音がした。
そうだ。本物にだって羽根もないのに、空も飛べないのに。
どうやって虹を掛けるんだ?
雨が振り始めたら現れて、雨の後には消えている。
その理由は?
「まだ」
雨は地を巡り、海に還り、空に昇る。
「僕は虹になれるんだ」
「みんなの、虹に」
殆ど死体と変わらぬような顔色で、少女は覚醒する。
随分と長く意識を落としていたもので。
ぼやける視界、機械音声が耳鳴りとなって脳裏に響く。
「アン……」
羽をぎゅっと抱きしめれば、視線はモニターに向けられて。
「……音声ログ」「リプレイ」「録音再生」
「あーあ、」「よかった」「よかったけど」「はは、」
どうしようもないな。乾いた笑い声を口端から溢していた。
あーそっか!
アタシは雨がずっと言ってたから知ってたけど、皆は初なんか。
まあ、出れないなりに遊ぼうぜ。
置いていった二人に見せつけてやるのだ。
「罪ですね。」
「私たちは罪を積み重ねていたのです。」
「その審判はこれだということです。」
「つまり諦めてこの世からおさらばしましょう。」
『生産プロセスに異常があります。しばらくお待ちください。』
「…………」
あの放送が、この空間の録音なら。
…この先、どうしよう。
私は、どうだっていい。
みんなは…?どうなるの…?
「雨……、通信に、空間……ッ」
「ふざけるな……、
ふざけるなよ……ッ」
「なんで、なんで!
どうして!私たちがこうなって!!」
猫は、溜まっていた不満を、文句を、やりようの無い感情を、零し始めました。
髪や、毛で見えにくいですが
確かにその目は、潤んでいますから。
「なん……で………………ッ」
「……雨にうたれたら、どーなっちまうんかな」
死ぬのかな。死ぬより酷い目に合うかな。
ただ痛く死ぬだけならいいや。
外を見ている。雨が振っている。