『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「……ありがとうっす。十分優しいっすよ、しずくちゃんも」
例え壊れていたとしても。
灰髪にとっては、それが“救い”足り得たのは確かであった。
あなたがとんでいけ~、した手を、じいと眺めながら。
「ん、ないないしたっす」
にこ、とはにかんだ。
幾らか力の無い笑みではあったが、致し方無し。
「……うん!すっごいやさしいんだよ!」
「だからしずくもっ!おかあさんみたいにいたいのとんでけ〜っておにいさんにしてあげるの!」
心が砕けて、狂ってしまってもなお。
彼女は他者を慈しむ。
それが、どうしようもないままごとでも。
「いたいのいたいの……とんでけ〜っ!」
「どぉ?いたいのないないした?」
両手で取った手をさすりながら、屈託の無い笑顔で喋りかける。
理性の光を失った瞳で。
察する。
蘇生薬を云々した際に、駆け出して行ったあなたの姿は見た。
現実逃避したいのは、こちらも山々だけれども――
「っす……優しいお母さんっすね……」
手を取ろうとするのであれば、拒むことは無い。
この灰髪は、これ以上裏切られる事を恐れている。
「……いたいの、がまんしちゃめっ!なんだよ」
「おかあさんがゆってたもん。いたいよーってゆってらいたいのとんでけーってしてくれるんだよ!」
おそらく、少女は壊れかけている。
今にも崩れそうな精神を必死に押し留めた結果なのだろう。
「ふふ。しずくがいたいのとんでけーってしてあげるね!」
そう言って、無邪気に手を取ろうと近づいてくる。
「へえッ!?」
いつも見せていた――というには、自分の稼働時間がそこまで長くなかった事もあるが――言動とは違う少女を見て。
「えあーっと……っすねえ、なんでもねっす笑」
咄嗟に、取り繕った。何に対してかは分からないが。
とりあえず起き上がり、いつも通り壁際に。
スピーチを行うならロビーか食堂だ。
ロビーはモニターが確認できるという需要で、食堂は待ち続けた停電の後に資源が得られる可能性で人が集まっている。
本当はバンケットでやりたいが、マグナスたちの安寧の地にしておきたいという私欲で除外。
ならば2択だが、やはり食堂だろう。ワタシ自身は居心地などごまかせるが、他人はそうではない。結果、今の状況に適応したやつで偏る。
それでは、効き目が薄い。やはり、蜜に集う虫のごとく集まる食堂で、やるしかないだろうな。
「さて、やはりモニターを見たほうが状況は整理できそうだ。スピーチ文を頭だけで考えなくてはね!」
今回のカミングアウト祭りで居心地が悪くなっただなんて感じないように、またロビーにやってくる。
>>15044
「あんまり殴り過ぎると暴力探偵の名がつきそうなんでね…あの人のはまぁ、初回サービスって感じで」
もうついてる気がします。
「…そうですね。
最後まで、頑張らせていただきます」
立ち去るのは見送るだけ。
……
>>15038
「……そうですよ。このおかげでいっぱい助かりましたしね」
中性的で美しい、私の顔は武器だ。
「あはは。ご勘弁願います。タチヤマさんと比べると生ぬるいかなって思ってしまいますけど。事件の件は、はい、どうぞご自由に。じゃあ報酬はこのデコピン一つで済ませましょうか」
そう言いながら静かに立ち上がる。
「生命の価値は平等。きっとあなたはそれを信じられる。言おうか。……もう時間は僅かです。後悔しないように頑張って。愛おしい探偵さん」
そう言って立ち去った。
>>15017
「顔面が仕事道具なんでしょう。
それかなんです?その整った顔がブッ壊れるくらい殴られたいんです?発散するならそれぐらいしますよ」
子供ような挑発にはならないし
言うならどうぞって感じだ。
「依頼の件は解決したって事で進めでも良いですよね。
ていうか進めます、犯人はいましたし、異論は認めないって事で」
やはり悠長に会話など楽しむ余裕はないのだろう。
特に、この場はひどく、荒れた。
取るに足らないような、和やかな会話は聞こえない。
「……。」
彼はどこに行ったのかな。彼女は無事だったのかな。
会話をした覚えのある人々を思い浮かべて目を閉じる。
ロビーの端、壁に背を預けて座っていた。
「……拙い。」
ボソリと一言呟いて、
花は静かに全てを閉じる。
来て、寝ている。来て、寝ている。
それらを見ていた。カウンターの中で見ていた。
「……どうしようかな」「あーあ、」「どうしよ」
呟いて、それだけ。カウンター内の端っこで眠りにつくだろうな。
あ、猫嫌いだ。いぬはどうかな。
本能、好奇心。
近寄って行こうとして、やめた。
なんか血生臭いし……
代わりに。
「良い夢を」
>>15013
「っ……はぁ?」
「え、なに?君もしかして舐めてる?私言おうと思えば酷いこともっと言えるけど?どうしたの、殴りなよ。鬱憤、晴らしたいでしょ?」
「あぁ、分かってるよ。うるさいな」
誰かと会話するように入ってくる。そして、モニターの数字を見て言葉を零す
「賭け続ける。生きる為に、死ぬリスクを犯して」
死亡と生存のふたつしかないと思っていたから、
増えていた表示に気づくのが遅れた。
「……範囲外?」
「脱出でもしたのかな……」
知らない名前。ここではアン、とか呼ばれていたっけ。
羨ましかったな。
「ここだってもう、居心地は良くないのに」
居心地のいい場所なんてあるかな。もうないだろうね。
引き裂かれていた二人組やら、
きっと明日には血で別れるひとびともいるんだろ。
モニタをただ睨む。通信機のノイズを子守唄に。
それにも飽きたのか、初日に買った小さな蓄音機を弄んでいた。
眠る前に。
堂を見て、やっぱり空の棚を眺めて。
廊下から見える空は仄かに日差しに似たものが見えた。
あれが空を埋めるには、あと30時間。
プールを見て。ここに尻尾を浸したら、夜草はどう思うんだろう。
バンケットを覗いて、苦手な色が二つあるのを見て。
中庭のドアは相変わらず開かないから、目を向けることもない。
自分の合言葉の部屋はもうずっと戻っていない。
そして、結局ここ。
>>14976
「ほんとね。教えてほしいよね。私の生命ってちっぽけなくせに、他を侵害しないと生きられないってすぐ叫ぶ。嫉妬、怒り、蔑み、愉悦、自尊心と、羞恥心、そういうのがいる。本能、なのかな。変な話。タンパク質の肉の塊、電子信号の精神、自分や他人が本当に居るのか証明できず、熱力学第二法則に抗えず、やがて散り散りになる粒子の分際で、私は醜く誰かを害さずに生きられない」
「本当ですよ。私は私を見つけたかったんです。何処かに、ないかなって」
眼前に影が差したのを認めて目
ペタペタと、裸足がロビーを歩いていく。
周囲の様子には僅かばかり目を向けるが、
吸い寄せられるようにモニターの方へ。
「……。」
この赤い文字、
明日はどれだけ増えるのだろう。