『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「あ、人手がいるならお手伝いできますよ」
怪我はしているとはいえ、さっき遺体を2人分運んできたぐらいには元気のある医者だった。
「…………お風呂…………」
なんとも魅力的な言葉です。一瞬顔が輝いたかも。ですが…
「……この怪我じゃ、足湯が限界だな…。」
「……なるほど、…いればいるほど、伝えられる確率も上がりますし、ね。」
伝言の件には、頷いて。
さて、どうしよう。いくか、いくまいか…。
「気になるなら見に行ったらいいんじゃないかしら。
私は少し、一人でやることがあって、
その為に人手が一人、必要なの。ほんの少しの時間でいいから、移動ついでに手伝ってくれると嬉しいわね」
「手持ちの資材を使って、ありあわせの道具を組み合わせて、
お風呂を作ろうとしていたみたい。
誰もが等しく可能性があるから、伝言を頼んできたわ」
「あんまり水に近づくのは嫌ですが……
まぁ、好奇心には勝てませんね」
そうと決まれば、立ち上がってプールの方へ向かうのかもしれません。
「あ、おかえりなさい…」
プールの方に行ったなら、何してたか聞くのもありかもしれない。
「あの…プールの方行かれてましたよね、…何してましたか…?」
あと、さっきは取り乱してすいません、という謝罪も、添えておこう。
「…お湯……見に行ってみるか?」
お湯…確かに言われてみれば、水蒸気の匂いのような。
そういえば、まゆこさんもプールに行ったようですし、ついでに見にいくのもありかも、と。
「何事でしょうね」
「お湯でも出てるんでしょうか」
まさかね。冷水しか出てこないし
ましてや温めるものがあるとも思いませんし。
「……気になりますね」
「?どうした?……ん?」
貴方の様子に気が付いたのか。そっちを見てみます。
見ても何もなさそうですが…確かに、若干、何かの匂いがします。
懐かしいような、久し振りなような。
猫はしばらくロビーの様子を眺めていましたが
ふと、プールの方へ目線が向きました。
「…………?」
何やらいつもと違った匂いがしてきましたが
腐敗臭などという訳でも無さそうです。
……なー。
みんなぁ、まぶまぶぅ。
ねてて、も、死んでも。
大好きだかんねぇ。
(失血による半ば気絶)
(きっと死体に挟まれて冷たいだろうに凄惨の中で満足気な表情)
(きっともう、暗闇でしか動けない)
「ごめん、心配…かけちゃったかな。」
「ありがとう、……ゆっくりしてね。」
次、彼女が目を覚ますかは、医者にはわからないけれど。
何か思ってくれていたなら、感謝を述べて。
自分も、ソファにもたれかかるのだった。
まあ、ちょっとははるっちがマシになったトコ見れて良かったかも。
なんか、眠なってきたし、暗くなって、最後に暴れるまでねちゃおかな……。
「……ありがとう…入江さん…。」
思ったより、怖がることはなかったのかも知れない。
と、そのままソファに座って。またしばらく、ウロウロしたから、今度こそ落ちるかも知れないな、という風にも思って。
まーさ。
過去は変わらないけど、ここでのあれそれも変わらないんだよね。
だから、話したらあくまではるっちの影が分かるだけでそれ以外はなーんも変わらんと思うよ。
アタシ的にはここに居てした事が全部だよ。良くても悪くもね。
「……皆、それぞれある、けど、……こんなに関わってもらっているのに、隠すのが、すごく、申し訳なくて…。」
それで話した、と。
「…皆が知らないところで、落ちなくて良かった、のかも…。」
「…………戻り、ました…」
恐る恐る、入口の方から歩いてくる医者。
ちゃんと、落ち着いて戻ってきたらしい。
「……すみません、取り乱して、しまって…。」
でぇじょうぶかー。リューイチくん。
来てくれたら背中くらいならさするが、無理は言わないし、確実に血でヤバい事だけは保証出来る。
なんかごめん。
壁の花に目を向けた。
カワイソーなやつ。ずっと気絶してばっか。
優しくされただけで人信じるからそーなんだわ。
自販機で買ったタバコは、残り少ない。
ごめんじゃないよう。
はるちはずっと、頑張ってたんだよぉ。
(動けないから、引き留められないけど)
(それでも、キミに元気になってほしいなって思ってる)
「必死、だったのね……」
少女の知る狭い世界で倫理を思うには少し足りなかったけど。
窮まればおかしくなるのはいくらでも実感があった。