『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「確かに協力を募るべきでしたね。ええ、その言葉が痛み入ります。なので続けて聞いてください。ワタシが膠着状態を作るために必要な3つの用件」
「1つ。自分が死ぬことで悲しむ人がいること。
2つ。自分を襲う人にとって大事な人は襲う相手を悲しむ人であること。
3つ。生きている全員が以上の条件を満たし続けること。」
「正直残り3日暴力はいけないだとか資源を配れだとかの自治はしなくてもいいし、なんなら実際に報復はしなくてもいい。
必要なのは悲しむという行為と感情です。これがあれば、理想論では膠着状態が作れると思っています」
「お一人で何もかもを解決なさろうとしたのも、あまり宜しくはなかったのかもしれませんね……誰が犯人かわからない状況で協力者を募るのは難しかったかもしれませんが……」
単独で駆け回っているように見えたから。
「言ってくださればお手伝いくらい、致しましたのに……」
知っていればあんな風に、飛び出すこともしなかったのに。
……計画にヒビを入れてしまったようで、申し訳なかった。
「まあ。だから、残り3日が正しければ、だ。正しくなくったって今後のために必要なことがあるんですよ。
葬儀についてはただ失敗トークとして先に話したわけではありません。
感情パートで話した"そいつを殺すと友人が報復に来る部分”がキモなんです。」
「ん、大体納得した」
「…思ったことを言うと………失敗した原因は、何もかも、早すぎたんだろうな
アンタが信用を得る前に、全く知らない奴が死んだ。だから失敗になった
けど、生き返った奴がいるなら、大失敗では無さそう、的な」
「……って訳で俺は納得した。
誰と誰が仲良さそうか、は……っし、マブの大体の顔は覚えてる。後はモニターと参照してけば行けっかな…?」
「と、まあこれが計画していたことでございますが!結果はまあ……今の有様でございますね。
私めの根回しや策が甘かったのでございます」
「────資源を3200皆様に迫った時点で、どっちに転んでもよかったんです。
集団が死者にさよならできるならそれでいいし、死者を諦められないならそれでもいい。
とにかく諦めた事実か、蘇生させた事実が欲しかった」
「というのが、利益パートでございます。元より資源を私物化するつもりはありませんでした。
集中化するくらいなら持っていて節約してほしいでございます」
「実際、蘇生されることは……手をかけたものにとって、とても恐ろしいことなのでしょうね……。」
そも、告げ口すらしそうもない相手が狙われていたわけである。
蘇りなど本来であればあるはずもない。
死人に口は、ないはずなのに。
「だから、この度の停電前後で立て続けに死者が生存状態になったとき、感銘を受けそうになりました。
購入者は不明ですが、どのような動機……例えば私めの嘘を暴くためだとしても、"見ず知らずの人間のために資源を払える空間がある"と、生き返った事例で証明した。そして蘇生してもいい空気を作った。その時は奇蹟だと思いましたし、まずいなとも思いましたけどね!でも、希望の光だ」
「だから」
「えーっと、つまりそうか。表は命の終わりの責任を思え、裏は襲いかかってもそう簡単に終わりはしないぞ、って事か……
どう転がっても想定してたのか、念入りだな……」
「この場合が蘇生した死者の聴衆から後に私めが誹りを受ける破綻リスクを抱えていますが、見ず知らずの他人のために資源を出しあえるという状況が発生すれば、皆様自身『この集団なら互助しあえるかも』という団結と安心が生まれます。そして、同時に生き返った事例が発生すれば『死んでも生き返らせてくれるかも』という希望と、人を襲う方に『殺しても生き返って告発されるかも』という疑心の種を植えることが出来るのです」
「………マジ!?それは予定に無かったのかよ!?
……けど、実際俺は…もうソイツらの人生にピリオドつけてて良いんじゃないか?って言ってたし……マジで乗せられてたんだな……」
「集まった場合も一応考えてたんだな、裏ってことはほぼ使う気は無かったんだろうけど…」
「同時に、蘇生薬に見切りをつけるということは奪った命が戻らないことを皆さんに認識させられる。命の重みが増すんです。
1人だけ蘇生代金を募ると中途半端に希望を持たせるうえ選別になるので4人分要求いたしました。これが、表の目標」
「もう1つは裏の目標。億が一4人分の蘇生薬が集まった場合にございます。」
「なんとまあ……」
色々と考えて動くものだ。
そういった部分が他とのズレを生んでしまっているのかもしれない。
策が上手く嵌ればもっと、現状すら、変わったのかもしれないが。
「アレは当初は予定にありませんでしたが、綿積様の提案を無下にすると芝居が解けるのでどうにか活用できないか考えた結果です」
「まず、あの時点では蘇生薬はマヤカシ眉唾のモノにございます。だからあくまで蘇生しますというのは一応方便でした。
達成できなければ、蘇生することに対して見切りをつけられる。大事な人が死んでも蘇生薬を買わずに皆さんが資源を節約してくれるかもと。
→
「……記憶をそうだった事に……ある意味、すげ〜な
そんくらいやる覚悟があったからこそなんだろうけど…」
果たして自分にはそれが出来るのか
「あ、そうか生き返ったから齟齬は確実なものになってんだっけか…」
「捏造の責任として、私めの頭の中ではあの4人との交友関係があったという記憶に、そうだったことにしています。
……サニー様には後で謝罪をして記憶も修正いたしますが」
「感情パートは終わり、次に利益パートをお話いたしましょう。なぜ蘇生代を募ったかですよね」
「だから、ワタシは彼ら4人との関係を、思い出を、でっちあげた。ワタシの大根役者ぶりがダメでしたが。
ワタシは、命を奪われた人間にもどういう人となりで……どういう感情があって、どうこの空間を生きてきたかを、全員で共有すべきだと思っていました。
その背景や事情が捏造であっても、元より名もなき犠牲者として背景も事情も持たせてくれないのなら持たせた方が彼らへの手向けとなる。
むしろ、ただ空っぽに"最初の犠牲者"の1行でそのままにしておくことこそ冒涜だと思いました」
「それがプレッシャーになればよし、罪悪感になればよし、傷になれば良しって訳か。
考えた作戦だな………けど…」
「じゃあ何で蘇生薬の代金を求めたんだ?」
「ワタシ自身の人格も相まって、ある解決手段に出ました。
それはこの度の停電で死んだ4人にも、悲しむ親しき人間がいた、とそう嘘をつくことにございます」
「誰かの親しき人を奪ったという命の重みを認識させ、道徳の授業のごとく襲撃しようと思う相手にもここで親しくした人がいると、リスクを負わせる。それが葬式の目的でございました」
「それとは別に死者が出た以上は、どうしようもないと思っていまして!問題は死体が発生してしまった実感で今後の生活の空気が重く澱んでいくことはどうにかせねばなりませんでした」
「狙われる原因は私めが思うに、親しくした人が居らず、友人を奪われた報復がないから。これが、3回目以降の停電でも起こりうるとしたら。
そして、私情になりますが──彼らがただ最初の犠牲者だったと片付けられ情報がないままであることは嫌だったんです」
「……いいえ、わたくしはそのような形で言及されても構いません。実際、コンテキスト様のお話を嘘のようだと感じておきながら自己保身の為だけに、わたくしは動きましたから。……葬儀に参列しておいて、故人のことなどひとつも、考えていなかったのでしょう。」
惨いことをしたのは、自分もまた同じか。
「……ですから、彼らは死ぬのが早過ぎた。誰との関わりも薄かった。
元より赤の他人に対しての興味なんて薄い。
きっと、皆様はこの4人のことは"最初の犠牲者"とだけ認識して、そこでそのまま終わってしまう。
──そして、ただ『やれ殺人が起こった』だ『襲われる不安がある』だと、そういう諍いのネタに消費しつくされ、残滓になるだけ。」
「あ、あ〜……死者への冒涜、ってそういう事だったのか
んで、焚き付け、って言うよりは……炙り出しに近かった、と」
少し前の事を思い出した。
「いや、非難はしていいぜ、最後まで聞いてたくせにヤバとオモロにリソース割いて、で、マブになるかもしれなかった奴らの事を知ろうとしなかった俺の責任だし。」
「そして私め葬式を行いましたよね?実際に彼らのことを誰か1人でも知っていたなら、嘘っぱちだと指摘する者はいたはずだったん……ですがね。
本当に誰も、彼らの情報が誤ってるとかは指摘してきませんでしたよね。
それか嘘と分かってても咎めようとしませんでしたよね。
結局の所、彼らの名誉を守ろうと動く人も義理も、1人もいなかったんです。そこにタチヤマ様やユウガオ様もいらっしゃったので、非難する形になりますが……」
「……奪っても心痛まないような、あまり親しい間柄のいない、人たち……」
だからあえて、それらを狙う。
分からないこともない。
分からないことはないが。
「…………。」
なんともまあ、惨いことを考えるものだ。