『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「……で、そのヤマが当たって、大変だと。
実際に資源の為に名前の知らない奴を襲うやつは居た、と」
「縁がなければ印象がない、誰もわんわんと悲しんでくれやしない、もったいねぇよな」
「その中には私めが犠牲者の中で唯一出会ったコトリ様が居ましたね。
コトリ様も、バンケットにて一瞬の出会いですがあまり多弁でなかった。人と関わることに積極そうではありませんでした。
だからなんとなく予感しました。2回目の停電で狙われたのは、あまり誰とも親しくしなかった人達。
コトリ様からの適当なヤマで3人ともそう定義づけただけので、正直根拠に乏しかった……ので」
「まあ、確かにそれは言えているかもな、奪っても心痛まないやつ、は一般心理としてある、
眠り続けてるなら、死んでいても変わらない、のようなアレだよな、
実際、話した事あるやつで死んだのは…食堂のコックと…病弱くん、だし…」
モニターを見ながら
「ま、どっちも生き返ってるけど」
「ふと、そこで襲撃犯の心理を考えました。2回目が1回目の停電と違うのは、減少量が判明していることだ。
資源の減少量が判明している今、資源目的で狙うのならばあまり人と親しくせず、誰も悲しむことのないまだ関係の浅い人物を狙うのではないか?と思い、ロビーでも死者が出たと聞いたので確かめに行きました。
ロビーに行った結果、判明した死者はコトリ様、サニー様、A様、サワラ様……」
「お名前の知られていない方だったのですね……?」
自分が会ったことのないだけの相手なのかと思っていたが。
何か衝突でも有った者たち……というわけでもなさそうだ。
「……なんで、また、そんな相手を……。」
「元より、ワタシは1回目の停電から襲撃や強奪が発生するのは話してソリが合わなかったり、見かけだけで判断して相手を知らずに敵と認定してしまったからだと、予想しました。
だが、そのようにまた襲撃されるのは、閉じ込められた矢先でも赤の他人と話そうとする人のハズだ。
であれば、顔見知りくらいは発生しているはずだと。でも、顔と名前が一致しない程度には知らないらしい」
「………ん、あれ?…思った以上にシンプルだな」
身構えていたから拍子抜けだったのかもしれない。
「……ああでも、死ぬのが早かったのは、そうかもな、つっても俺から見れば、ずっと眠ってたように見えたけども…
……でも、早すぎるとしても名の一つも分からないのは異常だと
…名乗りを聞いた1人くらい居そう、って奴か」
納得したような様子で
「動機の発端は2回目の停電が起きたバンケット。私めは死者が発生したと聞き、殺傷沙汰が起きるのに早すぎると困惑していました。
そこにバンケットにやってきたサングラスを掛けた男性──通ヰ路様から死者の話をお伺いしたのです。
しかし食堂での死者について具体的ではなく、名前も知らないといったことが気に掛かりました。
食堂に沢山人が居たはずなのに、誰一人として死者の姿から名前が分からない事なんてあるのか?と。」
「それでは私めの感情パートから!と、言ってもまず明確な動機を簡単に説明するならそうでございますね……!」
「うん、そうだな……」
「────あの4人は、死ぬのに早過ぎた。」
少しばかり、声のトーンに冷たさがあった。
「ん、誰と誰が仲が良さそうの方な、おっけーおっけー、なら難しいけどまだ簡単だ」
「……感情と、利益」
多分、あの長い葬儀は、感情の部分なんだろうなと
「ありがとうございます。では、なぜ私めがあのような葬儀を行ったのか?
私めの感情パートと想定した利益パートの2段でお送りします。
では、まず感情パートから」
寝ている人がいるので、そこまで大きな声を出さないように語り始める。
「ん〜、とりあえずユウちも大丈夫そうな感じがするからここで良いんじゃね?
あーでも、交友関係の定義が誰と誰が仲が良い、なのか、俺が誰と良く話すか、どっちを言った方がいいかの方針は欲しいかも」
「……あまり多くは話せないかもしれませんが、それでも、宜しければ。」
犠牲者を出したくないという話なら、
その提案を蹴るのは些か気が引ける。
できる範囲でよければ、と頷いた。
「タチヤマ様は大丈夫ですか。……ユウガオ様が大丈夫でないならロビーを離れる形で話をさせていただくということでタチヤマ様は大丈夫でしょうか」
「……もちろん、対価の話を聞いてからの後払いかつ、些細な情報1つのでもよいのです。
ワタシは犠牲者が発生しないことが安寧に繋がり、資源の節約に繋がると踏んでいる。
犠牲者を出さないためにも少しでも誰が誰と繋がっているかは知りたい」
「交友関係……で御座いますか。」
また何か始めるつもりなのだろうか。
話を聞くのは好きだ、好きだけれど……。
「わたくし決して顔が広いわけでは御座いませんからねえ……コンテキスト様のお役に立てるかどうか……。」
単純に、何もかも知ってるわけではないものだから。
役に立てるかなあ……と眉を下げた。
「……ええ、わたくしの言葉だけを信用するのではなく沢山印象を残せるよう終わりの日が来るまで貴方様の楽しい人生を歩んでくださいませ。あの世からでは後悔の言葉も、届きはしないでしょうから。」
なんとなく、感じたものでもあったのか。
少し困ったような顔をして笑った。
……短すぎる人生に、ならないと良いけれど。
「私めがなぜあのような葬儀を執り行ったか、のお話をいたします。」
「……無論、興味・好奇心があればでございます。ご気分をまた悪くするリスクは保証できません。
これが、私めが先払いで出せる唯一の対価です」
「まあ、身から出た錆なので夜草様が私めを嫌っても受け入れますよ」「…」
モニターを見て、今話してくれる2人を見て、少しの沈黙から。
「……すみません、お二人が宜しければ、ですが。
お二人が知る、生存者の交遊関係を教えてくださいませんか。多分、私め一人では時間がかかるので。
プライバシーの問題もありますしタダではないです。私めからそうですね……先払いで……」
「まぁ即死じゃないこと証明出来たんなら良いんじゃね?遅効性の毒で言えばプールの塩素もワンチャンそうだろ?
……うっかりでヤベーことやってんねぇ……喧嘩はまあ……ドンマイ?
そこから更に大変な事にならなきゃ良いケド」
「そうそう、短い人生楽しんだもん勝ちよ、何ならジトジトしてね〜で、今を楽しめ的な、今一番楽しい事こそサイコーだぜ!
……ん、そうだな〜、妥協せずにまだまだ残していくさ、印象…」
そう言う言葉とは裏腹に、感情はどこか薄かったかも
「ええ、まあ。尤も遅効性の毒である可能性までは否定できませんでしたが……。
一応毒は安全であると伝えたと思います。甘噛様もプールに入りましたしね。
あとはうっかり口を滑らせて夜草様と喧嘩に発展したぐらいでしょうか。夜草様はプールで寝てしまいましたね」
「あ〜……もしかして、安全を証明した、的な…?
そりゃまあ大変だったんじゃね〜の?お疲れさんってね。確かに服着てねぇと変質者に思われそー」
「成程、面白おかしく、そして自分にとって納得のいく人生を送りたい……そのようなものでしょうか。短い人の人生楽しんだものが勝者である、なんて言う言葉もありますし。」
刺されたことに対してあまり騒がなかったのは……そういう事情もあって、なのだろうか。
「暗く辛い記憶もよく残りはしますが……やはり明るい雰囲気の方のほうが印象も良い筈でございます。貴方様の楽しげな様子はきっと、多くの方の御心に残りますよ。もっと残せるよう足掻いてくださいまし、ね。」
「いえ……夜草様が毒について悩んでなさったので、結果必要な説得としてプールに飛び込んだだけでございます……
流石に全裸で飛び込む訳に行かなかったので、カッターシャツとネクタイ、ベルトとズボンそれに下着のまま着衣飛び込みを……」