『ロビー』
色褪せたようなあまり広くないロビー。
無人の受付カウンターとモニター、いくらかのソファがある。
開いた大扉の向こうは、中庭が見える。
『記録[
「………ごめんね。」
白衣に付いた血の臭いも。それを隠すようなそんな煙たさも。
隠し続けるのが、辛かった。
立ち上がって、ロビーを出ようと、ふらりと歩いていく。
引き留められなければ、そのまま廊下の方へ。
だから、ここでは傷つけないと、決めたのだった。
(酷い事、されちゃったんだなぁと)
(それでも、ヤダ!って言えたんなら良かったんじゃない?なんてのは)
(……流石に違いそうだな?)
(そう思いましたので)
……がんばって、きたんだねぇ。
(もう少し、マシなものが口からは出た)
まぁ、薄々察せはしましたが
実際話を聞いて、その事実に確証が持てたとしても
猫は綾川さんの近くへと行きました。
「……そうでしたか。
聞けて、良かったかもです」
それを知ったところで、猫の知る綾川さんは『綾川』ですから。
「……」
そっかー。
自分とコンタクトをとってくれた人の尽く。殆どは、
人を傷付けて良しとする人だったのか。
ゴン、と壁際に頭をぶつけた。
「………ここに来る前、人を殺したのは多分、何人か知ってると思うけど。1人じゃないんだ。」
「もう、限界で。1日で………20人ぐらい殺したかな」
「フラストレーション、溜まってて。ずっと嫌がらせされてて、何十年も」
ぽつ、ぽつと話す女に、前みたいな動揺は、見えない。
「それでさ、………尊敬してた人も、そのまま殺しちゃった」
死ににきたのは、そういう理由だろう。
嫌がらせの内容は、話しはしなかったが。相当だったのだろう。
「聞かせて頂戴。
残された時間。
少しでも言葉を交わすべきだわ」
少女は知っている。
全てを理解できなくとも、
聞くことが救いになることもあるから。
「綾川さんのお話ですか」
「……興味が無いといえば、嘘になりますが」
聞けるものならそりゃあ聞きたいですが
本当に良いのかと。
「………元々の世界の方でさ、アタシがなにしたか。………聞きたい?」
こんな状況で、幸せだと感じられる所以。
もう、残る命も、多くない。隠すよりも、話した方が言いかも、と、口をついてでた。
幸せ。俗的なものしかなかった。
ここの人間のように、永遠すら切り抜けられるようなものなど。
誰も好きにならなかったのは俺だ。
誰も嫌いにならなかったのは俺だ。
最期まで自業自得であった。
幸せ、猫はどうなのでしょうか。
……どうせ、ここから帰ったところで
待つ人も居ませんけど
……でも、今はどうでしょうか。
『幸せ』という定義は難しいものですから、猫はあまり考えてきませんでしたから。
だぁいじょーぶだよ。
繭の子ちゃんもきっとなんとかなるなる。
でも忘れないで。
過去も本当なの。
だから、今と比べなくても、天使ちゃんと居た時と比べても良いの。
上の幸せには手を伸ばさなきゃだけど、過去の幸せは、消えた訳じゃないんだからさ。
「………」
そういえば、廊下の奥で二人、死んでいたのを思い出した。
………確か、あの神父と、見知らぬ青年と。
………どうやら、部屋の近くだったみたいだし。
後で、運んでおこうかな。
ふふ。
みーんな大好きだからさ。
サイコーに幸せ選手権なら、マジで負けないぜ。
ね。そんな幸せそうなアタシの、いっちばんカワイイとこで覚えててね?
「………そう、なんだ。」
恐らく、貴女が自分を刺してきたことには、今のでちゃんと、気がついたのだろう。
けれど、何も咎めることもしないで。
「………全然、十分元気だよ。………ありがとう」
アタシね。
見て欲しいの。聞いて欲しいの。
その一瞬があれば何処までも大好きになれるし、なんだってやれるの。
だから、分かりやすい治療とかの酷い事せずに居るのを知ってくれただけで嬉しいの。
だから、はるっちは今回大成功!
……ふふふ。取っちゃった資源分くらいは、元気になって欲しいなぁ。
人の形はそれぞれ、だなんて
この『room』に来て、幸せだと感じれた人間達は
……元の世界ではどうだったのでしょう
猫はそんなことを思っても、口にはしませんでしたが。
とりあえず。あれから落ちる気配もなく、床はいつもの通りしっかりとしていて。
「………もうちょいぐるぐるしないと、ダメか………」
しっかし、疲れたのでもう暫くはソファにくっついて居るのでしょう。ぺとっ。
「はぁ……いけない、動かないと」
少し気を抜いたら、すぐに足が止まってしまう。
流石にこの6日の疲れはごまかし切れない。