『プール』
白いタイルと規則正しい大き目の窓で構成されている。
窓は割れ、崩れた天井からプールに雨が降り注いでいる。
雨と地味な噴水と、緑のない殺風景な中庭が見える。
水しか出ないシャワー室も一応ある。
『記録[
「ありゃあのガキが悪い。だって生きるためなら何でもやるって言ってたもん」
それなのに頭は下げないなんて、なァ?
お前は別にどっちでも良いって感じじゃんずっと。だからあいつとはちげぇだろ。
「そっか。その血みどろの戦いがいい思い出になったんだね。」
そのまま信じて、そういう風に考えました。実際は全然違うんでしょう。
「そうですね、ちょっと襲われていたので……」
女の子にボコボコにされてましたね。
あなた程ちいちゃくないけど。
「俺も出来ましたよ」
全然嘘です。
楽しいとか楽しくないとか、特に無い生き物ですから。
なので怖いも無いんですよね。きっと幸せです。
「いえ、傷と血まみれなんで遠慮します」
顔と腹に穴があって、腕と足に傷が残ってるんですよね。
みんな使いたいものでしょうし、別に手伝ってませんのでね。
「最後に楽しい思いは出来ましたか」
小説家に必要な事は、文章で人が動せるかどうか。それだけ。
少女に全てが分かる訳ではないけど、売れるには届かなかったのでしょう。
「ヨンコさんたちにも読んで貰えばいいと思うよ。」
くすっと笑って。
「くれるの? 宝物にするね。」
雨に溶けて消えるその時まで。
「えェ~!もう最新じゃないんだ……モールス信号………」
そういうのの積み重ねなんだろな。
時代に追いつけなかった、昔の小説家。
今の時代にゃ読まれないような古臭いやり方しか知らないやつだから、売れなくなった。
「……までも」
「そんならよかったわ」
「一人でも楽しんでくれたならな。書いた甲斐あるなァ」
だから、久々に良い感想が聞けて。そんだけで悔いがまた一つなくなったわ。
「良い子の嬢ちゃんにはこのサイン入り原稿用紙をやろうかな……」
サインの価値はない。
「ショートショートってやつでしょ。おじさんが兎になってて笑っちゃった。
今時モールス信号は流行らないと思うけどね。戦後の昭和作家みたい。
私は面白かった。」
「そうだなァ、ネタが欲しすぎてみた夢だって思ってたくらいだしな。」
「水も肥料も、山ほど与えたつもりだったんだけど」
「…まぁ、それ書くにも1週間はかかっちまった。眠ってるだけってんなら、植物状態なのかも。」
「…それ、面白かった?」
「アイデアが何も出なかったの? じゃあ、ここに来たのはネタ探しだったのかもね。」
「お水か肥料が足りなかったんじゃないかな。今は書けてるんだもの。」
「才能は枯れてない。眠っていただけ。私はそう思う。」
「いや、いい機会だった。」
「まーね、もうずっと書いてないんだよ。筆が動かねんだ」
「頭ん中に何も話が浮かばなくてね。きっと才能が枯れちまったんだろうな。」
最後に出したのはもう何年前だったかな。
サボってたわけじゃねんだけど、毎日毎日白紙の原稿用紙の前、ウンウン唸った数年だったなァ。
「……じゃあ」
始めるな、と言って語るのは。
この男が書いた中で最も新しい小説。
遺作にもなるそれのタイトルは。
『少女レイラの事件簿』である。
荒唐無稽で、少しコミカルな。
どこかで聞いたような舞台と、どこかで聞いたようなキャラ達と。
そんな人達が起こす、ちょっと不思議で、ちょっと楽しい、あまり悲しくも怖くもない。
………子供向けの、ファンタジーミステリー。
それを語るだろな。きっとそう長くはない話だから、せいぜい15分くらいで語り終わ
「お、聞きたいかァ~、マジマジ、全部覚えてるから」
「じゃあそこで寝ながら聞きなァ~」
任せとけェ~、といいながら。
当たり前のように懐から原稿用紙を取り出した。カンニング。